2019 . 11 . 28

口周りは鼻、口、顎の関係。頤もです。頤プロテーシスから計画的に先行して手術。

口は上下唇が包んでいます。口腔内には前方に28本の歯牙と上下歯槽骨(歯の植わっているU型の骨)があり、上は上顎骨等、下は下顎骨(下歯槽骨は下顎骨の一部ですが)に乗っています。これらの位置関係は様々で、正面像での形もバリエーションがあります。側面像での3次元視では前後関係も様々です。側面像でのE-ラインは見た目に反映しますし、正面像では上下左右の長さが見た目に大きく反映しますが、人間は遠近感を感じ取りますから、正面視でも前後関係が意識されます。さらに頤に梅干しができると動的形態に影響します。他の部位も表情により動的形態は豊かです。

こうしてみていくと、口周りは数字だけでなく、周囲の部品の形態と数字的位置関係が口の印象を司るのです。だから私はこれまで、鼻や頤を順々に、またはできることは同時に直してきました。鼻は元々得意な分野です。現在、症例の多くはI型プロテーシスと鼻尖に軟骨移植ですが、デザインを精細に使い分けてきました。頤は骨切りで治すのは大変なので、プロテーシスがよく使われます。それも出来合いのものでなく、いくつもの形態と大きさを使い分けて、術中にも形成します。脚注①:頤

でも今回は同時には手術しません。上口唇短縮術をしたら梅干しができるので頤形成術をするなら、上口唇短縮術と口角挙上術を同時にしたら、引っ張られて傷が治りにくいし、上下同時手術したら口が全く閉じない時期が長引くでしょう。本症例の患者さんは両手術の適応ですが、私が説明したら理解して下さり、順を追って手術することになりました。でも間隔を置かなくてもよさそうです。口内の傷が治って、プロテーシスも固定して、動きも回復する1ヶ月後には可能でしょう。

症例は39歳女性。白唇中央である人中の長さは23㎜。E-ラインより口が7㎜前。相対的に頤が後退しているから、閉口時には日常的に、頤に梅干しが出来る。上顔面80㎜:中顔面57㎜:下顔面67㎜と中より下が長く、そのうち上口唇(上白唇+上赤唇)29㎜:下口唇(下赤唇〜頤)38㎜であり、黄金分割比率の5:8を適用すると、上が5㎜長い。顔面部品の横幅は内眼角間35㎜:鼻翼幅37㎜:口唇幅48㎜であり、これも黄金分割比率の5:8で計算すると、口は横軽を6㎜拡大でバランスが取れるから、ルート計算して口角は30度方向に6㎜引き上げると調和する。

上白唇を短縮する適応があるが、先行すると梅干しが常時目立つ可能性が高い。防ぐために頤の前突を先行した方が良いのではないかと考えられた。その後白唇を6㎜短縮が可能で、口が前突しているから外反は極軽度に留めたい。人中Cupidの弓ははっきりと形があるから作成不要と思われた。口角挙上術は同時が適切と告げた。頤はE-ラインに定規を当てて、直線上に鼻尖〜口唇〜頤が乗るように計測すると、最低5㎜前に出したい。縦比率からして頤を長くしてはいけないことを確認。

その1か月以降に人中部中心に白唇短縮と口角挙上術を予定していくこととなった。

頤プロテーシスの厚さは7㎜にした。今回は頤プロテーシス挿入術の画像を各方向別に、術前から術直後、翌日まで並べます。

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正面像の上左図は術前。計測値に合致した下顔面の比率です。頤に梅干しがあります。上右図は手術直前のデザイン後ですが、縦に二本線だけ。これは4番目の歯牙の下にマーキングしたのです。頤神経がこれより外側にあり得るので、剥離範囲をこれより内側に限定する為のメルクマールです。*脚注②:頤神経。

IMG_4293これが頤プロテーシスの典型型です。これが入ると

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こうなります。

正面像の上左図は術直後にテープで圧迫固定してから撮りました。直ちにした方が良いのです。頤プロテーシスは剥離腔が結構大きく、下方は止血も難しいので、圧迫止血が重要です。固定は中央に留めたいからです。上右図は翌日一度テープを外して撮りました。実は今回頤プロテーシス挿入に因る形態的変化は、前に増量を目的とし、下に長くしないデザインです。上の術前と比べて上下口唇(白+赤)の比率は変わっていない筈ですが、腫脹で長くなっています。だからテープで圧迫して術後48時間までの腫脹亢進を少しでも防ぎたいのです。もちろん前突させると梅干しが出来難くなる事を目論んでいるのですが、翌日は疼痛で動きが落ちているし、頤筋も弱っているので確認不能です。因みにプロテーシスの位置は、画像上でも術前と比べれば違いで判ります様に中央にあります。診たのは私でないので、触診はしていません。

下2列は右斜位と左側面像。各列左から術前、術直後、術翌日です。

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術前の口元と術後の口元の差は、E-ラインの直線化で見て取れます。一見して術前は口が出ていてキツい印象、術翌日の画像での口元は既にすっきりした印象に変化しています。

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それは側面像で確認出来ます。術後の口元は、E-ライン=鼻尖と口唇と頤の位置関係が一直線化しています。優しい口元が造り上げられました。これで上下の比率を合わせれば、更にバランスの良い印象を醸し出せます。

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上左図は術直前のデザイン後の下面像です。頤先端の中央に黒点でマーキングしてあるのは中心を示すのですが、 ここに糸を引き出す為です。プロテーシスの下端の中央に糸を掛けて、その糸を皮膚を穿って誘導して結んで止めます。中央が動かない様にする為です。

上右図は術直後の下面像です。テープの貼り方ですが、先ず下からUの字に下顎縁を”圧迫”します。続けて、頤尖端の中央から両側の口角に向けて三角形のプロテーシスを支える様に”固定”します。その上で下赤唇縁の下=頤唇溝(読みはいしんこう)に横に貼って”固定圧迫”します。画像で視て判る様にテープはプロテーシスを包んでいます。言葉通り圧迫は腫脹を防ぐためで、固定はプロテーシスを皮膚上から抑えて適切な位置に留めます。シリコンプロテーシスは生体親和性が無いため、癒着しません。ポケットを一回り大きめに作って入れたら、周囲の余計なスペースの組織が治癒課程で癒着していって、プロテーシスとポケットのサイズが一致していって位置が決まるのです。糸も位置を決めます。癒着して固定するまで、約1か月掛かります。

こうして手術は遂行されました。プロテーシスを3方向から撮りました。

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上左図は正面像。このように半月形が綺麗です。多くのチェーン店系美容外科では出来合いの横長のものしか使いません。なぜなら下手なやつがやると上下に幅がある物は口腔内に突出し兼ねないからです。そのような危険を避けるコツがあります。ポケットの上を中縫いするのです。上中は裏面像。下顎骨の頤部の湾曲に合わせて削ってあります。上右図はプロテーシスを下から見た画像。画像の下側が骨に接します。骨の湾曲にマッチしています。画像の上側が顔の前です。頤が綺麗に前凸します。術後の画像が示します。ちなみに厚さ7㎜としましたが、図で見る一番厚い部分が7㎜です。プロテーシスの先端(入ると下端)に切れ目が入っています。骨の湾曲に沿わせたいので、たわみを与えるためと、中央を示すためです。しかも、、この切れ目をまたいで糸をかければ中心がずれないためでもあると考えられ、私は便利に思っています。

頤プロテーシスは適応患者さんが多いのですが、美しい形の結果が少ないと観られます。上に書いたような理由ですが、私は数え切れないほど、入れ替えてあげたことがあります。横長のものを入れるとどうなるかと言いますと、頤の先端に水平線ができるのです。”ケツアゴ”というほどではありませんが、五角形の頤になり男らしくなります。アアッ、だから頤形成術を受けると強そうになるという悪評が立っているのですね?!。チェーン店の奴らのせいだ!

そして術後1週間で診せてもらいます。

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他の手術では術後1週間で抜糸となります。でも口腔内の糸は吸収糸です。下の歯肉より5㎜唇の裏側に近い部位に横に創があり、縫合していますが、粘膜は脆いので軟らかい撚り糸で、締め付けないで優しく縫合しています。ですから念のため術後1週間では抜糸しません。製造者に依れば3週間で溶けて外れる事を謳っています。知覚が回復するとゴロゴロして邪魔になるので、創治癒が良好なら2週間目には抜糸します。

尚、頤尖端に引き出した固定糸はシリコンプロテーシスに繫がっているので糸の周りから感染してはいけませんし、跡が付かない様に術後1週間で除去します。この後触診してプロテーシスの位置を確認しました。

ご覧の様に、内出血は顕在化しました。プロテーシスの入っている前の軟部組織にはプロテーシスの圧力で内出血が起きません。頤唇溝部は”固定”していても、深部に創があるので強く”圧迫”しませんでした。ここが紫色になります。周囲には、溶血して分解した血球の成分であるビリルビンが黄色く流れています。黄疸と同じ成分です。1週間後には吸収されるでしょう。

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斜位像でも側面像でも下顔面の長さは変わっていませんが、頤が前に出ると長く見えます。今回は、下顎骨の尖端の頤部にポケットを作製する際に軟部組織を縁まで剥離して、ポケットは下顎骨縁までです。こうすれば下顎骨より下に落ちませんから長くなりません。逆に頤を長くしたい症例では、下顎縁を超えて軟部組織を剥離することもありますが、やり過ぎると皮下にまで達して危ない目に遭います。2例経験があります。もっともそれも私は皮弁形成術で治せます。なお私は、頤プロテーシスは骨膜下に入れません。骨膜下に入れると、経年変化としてプロテーシスが骨に埋まり込むからです。私は起こしたことがありませんが、父や他医での症例でよく診ます。しかもこうなると、骨は壊れませんが、前凸が少なくなるので残念です。そのような症例に対して、厚さを増やして入れ替えてあげた経験もありますが、避けたいことです。

アジア人では骨格的に頤が短くて後退している、つまりE-ラインより口吻が前凸している人が半数近く存在します。その意味で頤プロテーシスの適応する患者さんは多いのですが、意外と難しく美容外科医の中でもできる者は限られます。今回の症例は適応が高く、今後の口周りの治療に必須と考えられ、先行しました。これからも症例提示を続けられると思います。上に書いたように抜糸を術後2週間以降とします。内出血もほぼ消失し、腫脹もさらに軽減していると思いますから、次回術後2週間の画像追加をお楽しみに。

こうして術後2週間で再来してもらいました。

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診ると口腔内の創治癒は良好で、糸は溶け始めています。「邪魔ではないですか?。」と訊くと「別に困りません。」との回答。「この糸は約3週間で溶けます。とはいっても創の中にある輪が溶けて結び目は取れます。すると口の中に落ちます。飲み込んでも毒性はありませんが、気持ち悪いでしょうから吐き出して下さい。」「実は抜糸する際に引っ掻いて大抵出血します。それも邪魔でしょう?。」と申し上げて抜糸はしませんでした。

尚頤は長くなっていません。測りました。腫脹でわずかに皮膚皮下組織が厚くなっている分、まだ1㎜だけ長くなっています。頤は前に出ると長くなって見えるのですが、そうであっても上口唇を短縮して下顔面を短く見せる事でバランスが取れます。

IMG_3790IMG_3787頤唇溝にテープを貼っていてくれました。ズレない様にした方がいいですよと申し上げましたからです。口腔内の創を診るともうズレて来ないと判断して、撮影後には外しました。

それにしても形態的に頤の前突が効を奏しました。患者さんも「この手術がこんなに綺麗になるとは知りませんでした。これまで生きて来て知らなかったのが残念です。」とまで言って下さいました。私の診断力の高さを認められて、美意識の高さが認められて、いやこれは経験の豊富さから得た目と頭の能力ですが、患者さんに悦んでもらえて嬉しい限りです。

早速次の段階の計画にも進みそうです。これもこれで楽しみですね。

術後1か月の経過観察に来院されました。

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とにかく口元の雰囲気が既にすっきりして素敵です。お気に入りだそうです。口腔内の糸は3本残っていました。さすがに舌で触れると邪魔なので取ろうとしたら、創内にあるループは流石に溶けていてくっ付いていた糸は引っ張ったら抜けました。このタイミングは良かったのではないでしょうか?。糸を切らなければならないと、その際に出血するんです。皆さんもご存知の様に口の中の出血は唾液の影響ですぐ止まるのですが、それまで不味いので出血しない方がいいでしょ?。

さて当然の様に、次に進みます。次回術後2ヶ月目には可能なので、ブログ提示を継続できるといいですね?。お楽しみに!

*脚注①頤:一般の日本人は顎先とか言います。顎は本来上下にありますから、下顎先と言うなら意味が通りますが、上顎を顎と思っていない人が多いので話が通じません。そもそも頤という漢字を読めない人が多いし、当然意味も知りえないのですが、漢字の構成を考えれば簡単に意味は解ります。大臣の臣は君主に仕える者、つまり役人または官僚です。頁は顔、額、頬等の漢字のつくりですから、首から上のの肉眼解剖学的な構造を表わします。偏とつくりを合体させると意味が解ります。”あごで人を使う。”という言葉の通り、偉い人があごをしゃくって命令する様からできた字です。この場合のあごは正しくは頤と書いてあごと読みますが、人体の部位の名称としては”おとがい”と読みます。なお解剖学用語ならず英語でも頤はあります。解剖学用語はラテン語ですからOmentum,Mentumですが、英語ではChinです。ボクシング中継の実況で「アッパーカットが”チン”にクリーンヒットした。アアッとダウン。立てない!。テンカウント!」というシーンはよく視られます。一般的な英語です。

*脚注②頤神経:顔面の神経は、知覚(感覚)を伝える三叉神経と運動を司る顔面神経の主に二種が枝分かれして脳と繋がります。だから顔面神経痛という疾病はありません。顔面神経は両側の耳の下から出てきて枝分かれして、皮下の表情筋の裏側に挿入されます。走行はほぼ一定で私たち形成外科医は知っていなければなりません。手術(特に耳下腺腫瘍摘出術)時に切断すると顔面神経麻痺を起こすからです。フェイスリフト手術時にも必須の知識です。ちなみに大学医学部では習いませんから形成外科研修を受けていない医師は知りません。だから形成外科の経験のない美容外科チェーン店の医師はフェイスリフト手術をしてはいけません。本題の三叉神経ですが、言葉通り主にみつまたで、左右の3点ずつから出て枝分かれして軟部組織内から皮下に分布します。上は上眼窩縁の中央から出て上眼瞼や額や前頭を、中は下眼窩縁の中央より1㎝下から出てきて下眼瞼や頬前、鼻翼や上口唇の知覚を担当します。下は下顎骨の頤から約1.5㎝上から出てきて下顎部とした口唇に分布します。そして必ず、下の前から4番目の歯牙より外側です。上の画像でマーキングしました。ただしプロテーシスを挿入する剥離腔は、両側を大きくしたいことが多く、一度神経を避けてから回り込むように下顎骨縁に向かって剥離することが多いです。その場合でも神経は見ないで感触で判ります。頤神経の知覚低下は口唇の裏側の粘膜が感じなくなると食物が挟まっていても分からないので、みっともないことになります。もちろん皮膚や赤唇の知覚異常もよだれがわからなくて嫌な感じでしょう。