2023 . 8 . 3

今度はこめかみリフトが流行しています。通常はJowl Liftの次ですが、今回は前額→Jowl→こめかみと、どれも広範囲剥離です。

皮下広範囲剥離リフトの有用性は、ブログを視て来院される患者さんには理解されています。日時を追って画像が掲示されていて、効果とダウンタイムを知ることが出来るからです。剥離とは、読んで字の如く剥がし離すことですが、層が重要です。何故なら、体表面には何層もの構造があり、さらに大事な神経血管等が走行していて、それがどの層を走行しているかは、ほぼ判っているからです。体表面とは臓器より浅層のことですが、顔面でも、表情筋よりも浅層には重要な神経血管が走行していません。但し必要に応じて筋、筋膜層に操作が及ぶこともあります。例えば、眉下切開や上口唇短縮術では筋層を縫縮します。鼻では筋層の下の骨や軟骨の上が操作対象です。従来形成外科でない美容整形屋は剥離を避ける傾向にありました。何故なら勉強していないからです。

いつも言いますが、大学卒業時の医師には、内臓や脳神経の様な生命や身体機能に影響する知識は身に付いていますが、体表面の解剖は教え込まれていません。国家試験に出ないからです。そして体表面の解剖は、唯一形成外科医が学びます。耳鼻科医は穴の中、眼科医は眼球だけを学びます。脳神経外科は頭の中だけです。

大学や大病院の形成外科では、新人医師を上級医が教えます。また手術を充てがわれたら、上級医に細かく質問されて。ちゃんと勉強していないで解っていないと手術させてもらえません。毎日が勉強でした。6年目に専門医試験のために、成書と首っ引きで勉強して、合格してからやっと、専門分野の基礎的知識が身に付いたと思いました。その後は自分の責任で診療しますから、新しい症例に当たると、また論文を探して読みます。それどころか、相手である患者さんの生体は全て同じコンディションでは無いので、分からないことだらけですから、毎日が謎解きです。

剥離層は様々ですし、体表面の解剖も標準が記載されていますから、意外と難しいのです。厚さや、神経血管の走行にもバリエーションがあります。また筋、筋膜層には神経血管が走行していますが、解剖を知っていて丁寧に操作すれば損傷を避けられます。対して皮下剥離には、繊細な技を要します。皮膚は表面から厚さ0.4㎜以下の表皮細胞層(角質層も含む)、その下にコラーゲンと毛細血管が詰まった厚さ約2〜4㎜の真皮層があります。その下を剥離するのが皮下剥離ですが、皮下脂肪層と真皮層の境目には毛細血管が集中しているので、皮下脂肪層を一層だけ皮膚側に残して剥離します。剥離してからよく見ると、最浅層の皮下脂肪は粒々が細かく絨毯状に並んでいて、その深部には綿状にムニョムニャした脂肪が厚くあり、その下がSMASです。剥離時に剪刀(手術用の鋏)が深く入ると、太めの血管があるので避けたいし、浅すぎて真皮を傷めたら、万が一穴を開け兼ねないので、左の手指で皮膚表面を触り剪刀の深さを感じながら、数ミリずつ剥離を進めます。こんな繊細な技を要しますから、チェーン店系のビジネス的クリニックに勤める美容整形屋の医師は手を出せません、いや出してはいけません。

ところで広範囲剥離とは、どこまでの範囲かは決まりはありません。考え方としては、嫌なところまで狙うのが良いかと言えます。例えば耳前後の切開から斜め下方向へなら通常マリオネットラインが嫌で、原因はJowlの膨らみと下垂ですから、Jowlまでです。耳前からJowlまでは少なくても8㎝ありますから遠いので広範囲と呼びます。アッ、広範囲と言うよりは長範囲ですね。まあそれはそれで?!。中顔面では通常ゴルゴ線画嫌です。ゴルゴ線よりも頬骨隆起の部分の軟部組織の弛みが嫌な人も居ます。目尻を挙げたいかどうかは希望次第です。ですから、剥離範囲も変わりますし、引き上げ方向も使い分けます。今回は上顔面を挙げたら目尻だけが弛んで残ったので、目尻も少々挙げることにしました。前額リフトは通常眉上まで剥離します。層は皮下と前頭筋下を使い分けます。

症例は55歳女性。実は長年当院に罹っていて、主に注入療法をしてきました。眼瞼下垂の手術は何回かして、前葉性眼瞼下垂は残存し、どうしても眉を挙げて開く癖が取れないので前額リフトを提案されました。面白い順番です。ブログで見たそうです。1月の手術の経過中に額がツルッとしてお悦びでした。その際「額がツルッとしたら下もツルッとしたくなりました。」と望まれます。Jowlはブルドッグ状態ではないのですが、シワシワはあるので広範囲剥離の適応と考えました。ブログで経過を知っています。

術後10日で抜糸の際、「コンプリートにしたいのでこめかみリフトも希望します。」とお願いされました。確かに診ると、Malar付近にたるみ感が残ります。ゴルゴ線までの剥離で頬骨隆起部のたるみを引き上げたくなりました。前額リフトで眼瞼を挙げた分目尻のたるみだけが残るので、目尻にも引き上げ力が働く様に、45度方向に引き上げることになりました。

画像は各方向を経時的に比較します。

正面像の術前と術直後。術直後は腫脹で横幅が大きくなります。本症例の目標は、頬骨隆起部の軟部組織が前下方への突とそれに基づくたるみ感、そしてその内下方のゴルゴ線の解消です。術直後に平坦化していますが腫れています。でも翌日診ると腫脹は亢進していません。いきなり「大満足!。」と仰られました。

そして遠方の為、術後8日で来院となりました。抜糸します。続けて術後1ヶ月の経過です。

来院されて直後に「最高です。」と言ってもらえました。まだ腫れで目尻が横に引かれていますが、むしろ本症例の患者さんの眼瞼の窓は内側が近く、顔の横幅と窓の割合が5等分に近づきバランスが良いと見えます。術後1ヶ月では一つ、左のゴルゴ線が上方移動しながらも深く見えています。メカニズムを説明しました。

術後3ヶ月での完成像を魅せて下さいました。二葉載せたのは露光を変えたからです。明るく写すとツルッツルです。どちらにしても明るく前額も綺麗です。Jowlも挙がっています。顔面全体の重心が挙がって若々しいです。

術前の、上は右側面像と右斜位像。下は左斜位像と左側面像。どこから見ても頬骨隆起部に弛みが見られます。したがってゴルゴ線も見られます。

下の4枚の画像は術直後。

上下に術直後の4方向像。目隠しを角膜だけにしましたが目尻が横に引かれています。頬骨隆起部が平坦化しています。ゴルゴ線も見られません。

下には術後8日での両側斜位像と側面像です。

術前像と比べると、目尻からこめかみの生え際に架けての面積が減っています。つまり顔の余白が減って、顔が小さく見えます。

どこから観ても、顔中にたるみとシワが無くなっています。疲れて見えた顔つきが元気に見えるとお悦びです。

続いて術後1ヶ月の経過の側面と斜位像です。

術前は右のゴルゴ線の方が深かったのですが、消失しました。左のゴルゴ線は深くなりましたが、診てわかるように癒着です。

ゴルゴ線が出来たのは、剥離腔の先端部です。術前より上方にペコっと凹んでいます。前方から癒着して、拘縮して来るのです。日時と共に剥離腔が後に向かって癒着してしまっていきます。これまでの症例でも起きていますが、術後3ヶ月では解消されています。

術後3ヶ月の斜位像と側面像。とにかく明るく、若々しい。

側面像で手術の説明をします。

デザインはゴルゴ線のところまでの剥離範囲を示しています。切開線は生え際で、眉尻の後ろから下に約4㎝です。今回は引き上げる方向も線で示しました。45度です。

切開後にデザインの範囲を上に書いた様に、皮膚と皮下脂肪層を一層剥離します。剥離は上記の技です。前方の突端でゴルゴ線の原因となるMalar retaining ligament,頬支持靭帯を切離しています。

剥離が終わったら、皮膚切除です。ここからは左側面で説明します。上左図は皮弁側(剥離した皮膚)の切開部中央に割を入れた時点で、デザインで書いた線の方向に向かっています。上右図はその長さです。17㎜です。

先端を有髪側と一針縫合しました。ある程度テンションを掛けて且つ、傷が縫合できる幅を見出すのは経験です。次に上右図の如く切除皮膚をマーキングします。

上左図は切除皮膚。上右図はできた隙間。

上左図の様に真皮縫合で隙間なく合わせます。この長さに13針は縫います。上右図は皮膚連続縫合後ですが、長さは約4㎝です。つまり真皮縫合は3㎜間隔ですね。

こうして手術の手順を提示しました。術後1週間で抜糸しました。

抜糸直後は糸の跡がついてムカデ状です。ハシゴ状の跡は消えます。赤い線が白くなれば、幅さえ拡がらなければ、見えなくなります。

上には術後1ヶ月の傷跡近接像です。赤い線は白くなってきました。ハシゴ状の段々は浅くなりましたが、まだプリーツはあります。術後2ヶ月で平坦化するでしょう。

ご覧の通り、こめかみ生え際の傷跡は目立たなくなります。「見えなくなりました。」とおっしゃって下さいました。

当院では、厚生労働省より改定され施行された省令「医療機関ホームページガイドライン」に遵守し、ホームページの修正を行っています。

施術のリスク・副作用について・麻酔薬にて、アレルギー反応を起こす場合があります。その場合は適切な処置を行います。・腫れは個人差がありますが、手術直後から少し腫れがあり、翌日がピークで徐々に引いていきます。目立つほどの大きな腫れは1~2週間程度です。・術後のむくみや細かな左右差の改善には、3ヶ月程度かかります。・内出血が起こった場合は完全にひくまでに2週間程度かかることがあります。・感染予防のため、抗生剤を内服していただきます。・抜糸までの間、鼻下を伸ばす表情はお控え下さい。・口唇部の違和感は、2~4週間程度かかります。・手術後2週間は、口を大きく開けることはお控え下さい。・手術直後は、つっぱりを感じることがありますが、2週間程度で改善していきます。・手術当日は、洗顔をお控え下さい。・手術後3日間は、飲酒・激しい運動・サウナ・入浴など、血流が良くなることはお控え下さい。・手術後1週間(抜糸まで)は、鼻孔部位のお化粧はお控え下さい。・ケロイド体質の方は傷跡が残りやすい場合があります。

費用の説明も加えなければなりません。こめかみリフトは40万円+消費税です。ブログ掲載の契約を受けてもらえたら、こめかみリフト手術後は、顔面全体を載せますが目隠しします。出演料として20%オフとなります。PRPは糊と止血に有用で現在モニター症例では10万円+税を頂いています。