2014 . 10 . 31

数少ない目尻切開症例

目頭切開はこれまでも多く症例提示してきましたが、目尻切開の症例提示は初めてです。それだけ適応症例は少ないのですが、その理由と適応の説明もします。 まずは症例提示です。 IMG_4105IMG_4110

実は画像的には、これだけです。今回は右のみの手術です。実は2回目の手術です。「って言うことは1回目がヘタこいたんじゃあないか?。」と、いわれても、言い返せません。そこんとこは後で言い訳します。二つのポイントがあります。今回はよく注意して手を加えたし、結果が得られていると思います。

症例は、34歳女性。さらに実は以前に他院で目頭切開を受けているため、眼裂横径30mm、内眼角間距離は31mmと日本人には珍しい値になっています。ただしよく見ると、外斜視です。正しくは斜位といいます。ちょっと説明が必要ですね。斜視は両眼視が出来ないのですが、斜位は輻輳で合わせようとすれば両眼視できるのに、力を抜くと外を向くという状態です。上左写真では力を抜いているので、黒目の上に映るフラッシュの位置が左右で違います。これが斜位です。外斜視や外斜位では、目の窓の中に見える白目の面積が、内側に比べ、外側が小さくなります。上左写真では右目で明らかにそう見えます。これは目尻切開をする適応の一つといえます。上右写真では内外の白目のバランスが取れて、より均整のとれた綺麗な目元になっています。もうひとつ目の窓の傾きを見て下さい。術前の上左写真では、右目が吊り目です。術後の上右写真では、左右均等な傾きにできました。 実はこの2点を改善したいとの患者さんの希望を汲み、再手術させていただいたわけです。そこで提示に適する症例なので、むしろこちらからもお願いしたのです。いい結果が得られているでしょう?!。じゃあ1回目は何?、との疑問にはこれから説明していきます。

目尻切開の症例が少ない理由は正負の両面があります。美容学的に適している症例が少ないことと、結果的に合併症があるからです。そこを説明します。

まず、目尻切開が適応するケースが少ないのには理由があります。美容医学的な適応は二つあります。1:目の窓の横幅と顔の横幅です。前回の小顔の話しでの、頬骨の最大幅=正面像での顔の大きさとの比率です。顔の幅を5等分して目の窓があるのが理想とされています。レオナルドダビンチの昔から言われているし、今でも美容外科の教科書には必ず記載されています。しかし、日本人(東アジア人)ではまずこのバランスの人はいません。東アジア人には蒙古襞があり、さらに目の位置が離れているからです。そして、顔の大きさも身体の割に大きく、135㎜を切る人は稀少で、美形の部類に入るくらいです。日本人の標準は135㎜の顔に、眼裂26㎜、内眼角間距離35㎜というところですから、135÷5=27ですと、目頭を1.5mmずつ寄せても24/27.5/32/27.5/24という比率となり、まだ離れています。ついでに言うと目の位置は角膜中心間距離でみますが、60㎜を理想としても、そんなヒトは少なく、上の例でも目が窓の中央にあるとしても、61㎜と離れています。いずれにしても、目の大きさを外側で得る方がバランスが取れる人は少ないといえます。その意味では上の例は数字的に、数少ない適応症例の典型です。2:目の横の傾きを変えたい場合です。目尻と目頭を結んだ線が水平線から何度吊り目かをスラントといいます。ちなみに、目頭は蒙古襞とした眼瞼の交点を、目尻は皮ふが被っている場合は上を向いてか皮膚をどけて点を見出します。よく言うたれ目というのは、一重瞼で特に目尻側の皮膚が被さっている状態を言います。本来の窓ではありません。東アジア人ではモンゴリアンスラントといい、吊り目がほとんどです。漫画とかでもよく描かれているでしょ?!。また、人種論となってしまいました。白人に比べスラントが強いのです。これがきつい印象になるから東アジア人は白人から嫌われるのです。決して「美しい国民ではありません。」この点に気が付いて、たれ目形成が流行りだしたのですが、目尻切開時に付随してできるのです。以上の数字的な美容医学的基準は、美容外科形成外科の教科書には載っていることですが、教科書の知識は白人を対象にしているので、日本人には適応性が低いことが多いのです。

そして次に、目尻切開の問題として、結果に3つの問題があります。合併症ですね。症例のみなさんのごまかし方も書いておきます1:睫毛がないところを目の窓にする。どうしてもないものはないので、よく見ると見える。ただし、上眼瞼はつけまやエクステでごまかせる。下眼瞼はもともと睫毛が少ないのでそんなに気にならない。2:戻りが起きることがある。創は縫っても創なので、癒合する際に若干縦方向の拘縮が起きる。上の傷と下の傷がくっつく作用がある。いわゆる後戻りで、早期半月間は起こり得る。今回は2回目の手術を行い治せました。創が小さいので、複数回の手術でも傷跡は目立たない。3:目尻形がよく見ると変形する。目の窓のアーモンドの形が損なわれる。上下の傷が癒着して、上下の眼瞼が中途半端にくっつくと、縦の縁が出来て、目尻の形が鋭角でなくなり、台形になることがある。また、下向きに切開した際に下眼瞼縁に角が出来ることがある。術中に削れば、粘膜は治りがいいので綺麗になりますが、この結果は数十cmに接近してそこをよく観察すれば判る程度ですが、私達は知っているので、気が付くことがあります。患者さんはアイメイクで隠せるといいます。

詳しく書いていくと、私も頭の中がまとまりました。1、この手術は適応を吟味する必要がある。2、でも適応症例は希望をかなえられる。3、合併症は軽微だがある。カムフラージュできる。4、適応症例には美しい形態を作り出せるので、合併症を恐れずに受ける価値がある。

つまり、適応症例には最小の侵襲で、ダウンタイムもすごく長くなくて、バランス的に利得が大きいといえますが、大事なことは、美容医学的にコンセンサスの得られている適応を知っているかで、上記に述べたような数字的な検討が出来る上等な美容外科でなければ手を出してはいけないと思います。

この症例の中長期的経過は今後も提示していきたいと思います。