ご覧の様に、目の窓の横幅が小さい。眉毛を挙げてしまう。先天性眼瞼下垂と言えるかどうかは議論の余地があるとしても、目力が弱い。目元が子供っぽい症例。20歳超えて、これはいただけないと思います。
普通の大人っぽい目元にするには?。このブログをご覧いただいている人は、お判りでしょう。というか、提示する症例は限られているので、自ずからして、アップする手術内容も限られてくるのです。眼瞼下垂症手術と目頭拘縮解除術の併施は高額なので、料金割引のある症例提示許可に応じて頂ける患者さんが多いのです。
まずは症例提示と説明をします。
上図は術前と術直後です。症例は20歳、女性。生来の一重まぶたで、挙筋筋力(滑動距離)は13㎜と正常下限ですが、開眼時に常時前頭筋は収縮しています(眉毛を挙げています)。もちろん、一重まぶたによる皮膚性眼瞼下垂があるからです。それに、眼裂横径が25㎜、内眼角間距離が36㎜と眼裂狭小傾向です。傾向というのは、数字的には正常範囲だからです。間が36㎜は標準偏差内ですが、顔が小さい(体格も)ので、それとの比率としては、離れて見えます。つまり小顔、開きが弱い、横幅が小さい、その結果眉毛を挙げている。これらの症状が揃っているため、形態的に子供っぽく感じられ、社会機能的に損失を来していると考えられる症例です。
いつものやつ。4㎜Z−形成のデザインをしました。重瞼術(一重まぶたによる皮膚性眼瞼下垂症に対する機能的手術)と、挙筋修復術を同時施行します。
そして近接像を提示します。
上左図のデザイン;Designと上右図の結果をよーく見て下さい。Z−形成法による目頭の蒙古襞解除術を説明します。まず、縦方向の辺(Z字の斜め線)は蒙古襞が下眼瞼と交差する点から、蒙古襞に沿ってデザインします。Z字ですが、各辺は等長で4㎜とします。角度は60度が適切と考えます。延長効果が最大でありながら、歪みがないからです。左がその通りにデザインした図です。
切開して、二つの三角形の皮膚片を浮かせます。もちろん切っていないところは繫がっているので起こすだけです。これを皮弁形成術と言います。形成外科医にとっては定番の手術法で、これを経験した事があるかどうかが、美容形成外科と美容整形屋の見分け方になります。それはいいとして、皮弁を起こす際にはその皮膚に血行(栄養)が保たれなければ壊死してしまうので、注意が必要です。まぶたは毛細血管が豊富なので、皮膚だけを起こしても生存します。しかし目的の蒙古襞は、皮下の眼輪筋も拘縮しているので、これも一緒に解除しなければなりません。そこで筋を皮弁と一緒に起こして筋皮弁にする方法もあります。でも厚みがあり膨隆してしまいます。
今回は術中に判断して、厚さ1㎜の筋を付けて、残りは切除しました。切除と言っても、その下には涙小管や涙嚢があるので注意が必要です。ところで皆さん、泣くとどうして鼻水が出るか知っていますか?。大部分は外に流れますが、鼻の中に流れる管があるからです。泣かなくても、涙は一日に2ccは出て、潤しています。上下のまぶたの縁の目頭から数㎜のところに涙点と言う孔があります。鏡で見ながらアカンベエすれば判るはずです。ここから流れ出た涙は、涙小管を通って、涙嚢に貯まり、鼻涙管を通って鼻に抜けます。この構造が目頭の内部に存在します。それも、眼輪筋が絡み、包んでいます。ですから、眼輪筋の処理には注意が必要です。私達形成外科医は、涙器の再建手術を多く経験しているので逆に注意します。ましてや私の医学博士の副論文は涙器の3次元的解剖で、構造を知り尽くしていますから、涙器を損傷する危険はありません。
起こした二枚の三角形の皮弁を入れ替えると上右図の様になります。首を傾けて見れば、Zの形が90度回転して裏返っているのが解りますよね。そしてここからが大事な知的作業です。術前のZ字の上下の角の距離が、術後の上と下の点の距離に変化しています。二つの正三角形の皮弁を入れ替えると、計算上、√3=1,732,0508…倍になります。約7/4倍です。つまり4㎜が7㎜になります。逆に横方向には、1/√3倍になります。約7㎜あった距離が4㎜に短縮します。皮膚は表と裏にありますから、目頭は2/3㎜=1,5㎜開きます。両側で3㎜近づき、36㎜が34㎜になります。これは標準値です。
思いついてまた、紙上でシミュレーションしてみます。実際の肉体上では、皮膚の伸展度に部位差があるため、紙上と若干異なります。
症例写真の近接画像と見比べて下さい。ほぼ同じデザインでしょ?!。
紙上計算をもう一度します。Z字はc-a-b-dとデザインします。a-bが4㎜として、各角は60度。a-cとb-dも4㎜です。点線距離c-dは約7㎜(正確には√3×4㎜)となります。右の様に入れ替えると、a-bがa`-b`となり約7㎜、c-dがc`-d`となり4㎜になります。これがZ−形成術の仕組みです。実物でも、計測するとほぼその通りになっています。
何故こんな事を詳しく説明するのかと言うと、目頭切開の目的は、蒙古襞の被さりを取り去り内眼角間距離を寄せる事が主目的ですが、同時に蒙古襞に因る目頭の拘縮(引き攣れ)を解除する事で、眼瞼内側付近の開瞼に対する抵抗を減弱させ開き易くする。つまり吊り目の解消も主目的と考えられるからです。
そのための手術法として、Z−形成法による目頭切開はベストで、ピッタリ合致します。これまでに目頭切開は種々の手術法が行われてきました。W−形成法(内田法)やペアン法、酷いのは三日月型法等々です。私も三通りを使い分けてきました。でも縦方向の効果はイマイチでした。
今から17年前にZ−形成法が発表され、私も行っていました。改良されて現在のデザインになったのが10年前です。それを池田先生が取り入れて症例を見てから私も取り入れたら、結果がすこぶる良好で、二つの目的をちゃんと達成できる喜びを覚えました。この8年来、この方法以外は行っていません。しかし本邦でも(もちろん目頭切開はアジア人専有です。)数える程(東京で知り得る限りでは三店)しか行える美容形成外科院は存在しません。
ちなみに、目頭切開手術は形成外科医の独壇場の筈です。ところが患者さんは、広告にだまされて美容整形屋チェーン店に受診してしまう事が多く、目的に叶わない手術を受けて残念な結果となったり、創跡だけ残ったとの症例が散見されます。当院にもよく来院されます。
くれぐれも言いますが、形成外科と美容外科を共に研鑽した医師と、いきなり美容整形チェーン店系でビジネスとして美容外科を覚えた医師をちゃんと見分けてくださいね。
今回の症例は重瞼術の切開法も併施したのですが、画像の如く腫脹等の経過期間(ダウンタイムと言います。)では機能的結果の評価が難しいので、次回1週間後の経過提示時に説明を致したいと思います。