今回の症例は27歳、女性。18歳時にS美容外科でI型プロテーシスによる隆鼻術を受けている。
自覚的に次第に短縮してきた。太い思うとの訴えで来院されました。
他覚的には棒状でその割に鼻根が低く、またプロテーシスが短い。鼻稜が太い。鼻尖が上向いて、その下が平らで、鼻尖が角張っていて、横四角形。触診すると骨膜上に入っている。
そこでプロテーシスを作り替えて、軟骨2枚でダイアモンド型の鼻尖を形造る事を提案しました。今回は先ず、取り出したプロテーシスを画像提示します。
ご覧の様に太く、短く、しかも硬い。前医は一生懸命作ったのでしょうが、美容外科的センス、形成外科的素養に欠けるのでしょう。ちなみによく取り出す、S美容外科のプロテーシスの色です。
その為、術前の形態が格好悪い。さらに言えば、こんな形の鼻なんてあり得ないよ!、言って見れば不自然なんです。自然に美しい形の鼻を形作る為には、どの点に留意すればいいのかが反映されていません。下左図が術前で、下右図が術直後です。
申し訳ありませんが、術直後ではなく、テープで固定してからの画像しか撮らなかったので、皆様には何をどう治したのかが認識出来ない出来ないと思います。悪しからず。1週間はテープしたもらうので次回に提示して形態変化を説明します。
今回も、定型的にI型プロテーシスで鼻根から鼻陵を形成し、鼻尖を耳介からの軟骨移植で形成しました。
従来鼻の上から鼻の下または付け根までのプロテーシスによる隆鼻術は、よく行われてきました。父の時代の美容整形のみならず、戦前から象牙を削ってI型を入れる耳鼻科医が存在しました。戦後はシリコンプロテーシスが発明されました。
シリコン:Dimethyl poly siroxaneはケイ素と有機物の化合物で、生体親和性が無く癒合しません。逆に言えばその化合物は生体に対する毒性はありません。ただし、皮膚、皮下組織、筋の下にコラーゲンの膜である皮膜に包まれて、生体の中に存在するだけなので、もしそれが破綻して露出するとキズが出来る事になるのが、危険とされて来た理由です。
皮膚皮下組織や筋はある程度の緊張:Tensionには耐えます。引っぱり強度ですが、expnsion効果と言って伸びるのです。私達形成外科医、は皮膚を徐々に伸ばして面積を稼ぐ手術法である、Tissue Expander という手術法を駆使してきました。だからTension の限度も知っていますし、Tension の限度を越えると血行を阻害して組織が壊死、破綻するというメカニズム:Mechanism も理解しています。ですから、安全性を重視したシリコンプロテーシスによる隆鼻術は否定しません。
でもしかし、加齢変化は進みます。若年時にシリコンプロテーシスを挿入したときに比べ、加齢すると、皮膚皮下組織やコラーゲンは薄く弱くなります。そのため手術後数十年単位で、露出の危険が高くなります。その兆候は私の様な専門家には解りますから、直ちに組織の補充強化をすれば活かせますが、キャリアーの少ない美容整形屋では無理です。私は近年、父の入れた危なくなったプロテーシスを約10例は救い;salvage してきました。何せ長年馴染んで来た鼻の形(顔の中心ですから顔全体の印象でもあります。)を変えたくないのが人情というもの、出来るだけ形態を保持しながら助けるのが務めです。
ところで隆鼻術のシリコンプロテーシスは、露出の部位が限局します。鼻尖から下に尽きます。敢えて思い起こせば、鼻陵や鼻根からの露出は今まで3例だけ経験があります。1例は統合失調症の患者さんで、こちらが殺されそうになったので、仕方なく11㎜厚のプロテーシスを入れたら露出した症例で、抜いて縫合しました。もちろん現在は一般社会には出てこない人です。もう一例は他院で入れたシリコンプロテーシスが曲がって入ってしまっていたのを治したいとの患者さんでした。剥離腔を作り直すためポケットの中の被膜を切離していた際に、傷めたケースで直ちにプロテーシス摘出し縫合閉鎖して修復できました。もう一例は、30年前に入れたプロテーシスが、乳癌に対する抗癌剤治療後に、皮膚がやせて急に露出したケースでした。さすがに諦めてもらいました。
この様に、鼻尖に露出した症例は何らかの特殊な原因があるのに対して、鼻尖では加齢による緩徐な皮膚の菲薄化で、1、先ずプロテーシスの色が透けて見えてきます。2、皮膚がつるつるになります。3、ごく小さな孔=ピンホールが生じた後感染し、発赤します。ここまで通常月〜年単位かかりますから、多くの患者さんは美容外科や形成外科医を受診されます。そこで、皮膚皮下組織に自家組織で裏打ちをして厚くして、その分プロテーシスを薄くすれば活かせます。この方法で形態を変えずに何本ものプロテーシスを救ってきました。失礼しました。救ったのは患者さんの鼻、ひいては顔、いや人格の一部です。
そんな訳で、この十年来は、鼻尖にはシリコンプロテーシスを滅多に使いません。でも鼻根には有用です。何故ならば、鼻陵部は皮膚皮下組織が充分に厚いため、露出する危険はコンマ%しかなく、逆に自家組織では、中々難しいからです。一応の候補としては、耳介軟骨は量が不足か、場合によっては曲がる。胸から肋軟骨採取すれば量は足りますが、採取部位の創は大事な胸ですから避けたい人がほとんどです。ごく一部で骨を使った報告もありますが、曲がらない鼻は絶対変ですから、現在利用している美容外科医はいません。
ですから、鼻陵部に対するI型プロテーシスは美容外科学会:JSAPSでもJSASでも、定式であるとのコンセンサスが得られています。ただし、今回の症例の如く、短くて鼻根にフィットしていないで、骨膜上に入れられると、格好良くない。浮いているので、表情で動くのでばれる。残念ながら、大抵このような手術をするのはJSASのチェーン店系です。形成外科を研修していない美容整形屋は、経験が浅いからできません。そうかといって、JSAPSの医師でも全員が得意な訳ではありません。私達の様に形成外科で研鑽してから、美容外科を主に診療している医師は少なく(全国に100人程度)、医師を探して手術を受けるのは面倒だと思います。ですから今回「私達に任せて!」と唱えます。
鼻尖はプロテーシスを入れると加齢変化に耐えられなく、数十年後に露出する可能性があります。鼻尖はただでさえ皮膚が薄く余裕がないので、露出した孔を縫い寄せられなません。したがって創跡が残ります。正面なので目立ちます。父の時代には、鼻根から鼻尖そして鼻唇角までの台付きL型プロテーシスや、分離型プロテーシスが用いられました。また現在も少なからずL型が使われています。私達は原則的に鼻尖にはプロテーシスを用いません。そこには耳介軟骨の移植が適するからです。耳介の外耳孔の後ろの丸いお盆型の部分を耳甲介といいますが、これが鼻尖のサイズにうまくフィットし、カーブがピッタリ合うのです。これを約10×8㎜程度のダイアモンド型に切り出し、場合によっては2枚重ねにすると、格好いい鼻尖が作り出せます。平均的に耳介の耳甲介軟骨の厚さは1㎜ですから、2枚重ねると2㎜でツンとします。何より形が大事でダイアモンド型でないと不自然です。本症例は横四角で変でした。美容外科医のセンスの問題です。また同じことを言う要ですが、チェーン店系の美容整形屋は美容的センスも低いのです。彼等は宣伝広告で患者さんを引きつけているので、美容的センスは関係ね〜と考えているようです。
今回の症例は提示させて頂けるのですが、画像が解りにくいので、1週間後の抜糸時に\詳しく説明します。