口周りの手術は定式化してきましたが、手術適応を調べる為に診断します。毎週何例か行っているのですが、症例毎に何かしら工夫を加えてきました。適応が限られるだけでなく、微妙なデザイン上の差異や切除深の違いにも気をつけています。その辺の面白い点についても説明していきながら症例紹介を始めます。
症例は26歳女性。本年の3月に来院し、白唇部が長いのを訴える。その後は機会を待っていた。では下の画像を見ながら説明を読んで下さい。白唇部:鼻柱~Cupid’s bowの長さは18mmと15mm(基準値)を越える。白唇部が前突傾向であり、歯槽部とANSが前突し、白唇部が内反している。口角は画像の如く下がっている。顔面縦の比率は上顔面65mm:中顔面56mm:下画面56mmと下顔面が長くはないが、上下口唇(白唇+赤唇)の比率は上が長い。顔面部品比は内眼角間30mm:鼻翼幅33mm:口唇幅42mmと口唇幅が1.5倍はなく小さい。
計測に因りますが、何点か調節し選択枝を提示します。白唇部切除は現在は原則的に5mm切除を越えない様にしています。多すぎると緊張が強くなり傷跡が拡がるからです。内反している程度に依りシミュレーション(つまみ挙げるか?押し挙げるか?)しながら外反させるかどうかは検討します。やはり外反を求めて皮下脂肪層を全層切除しない方が望ましいと考えられました。口角は、横に拡げて口唇横幅を大きくしたいが、シミュレーション(引っ張ってみる。)の結果として、頬骨弓方向つまり45度の角度で挙げるデザインを選びました。その場合1/√2になるので6mm切除が好ましいと考えました。
画像を提示します。下の2列は術前の順に、正面像、左斜位像、左側面像、デザイン後正面像です。
下の2列は手術直後の正面像、左斜位像、左側面像、手術翌日の正面像です。
今回は撮影間隔が空いて術後5週間を提示します。その下の列には比較の為に術前の画像です。
上の2列の、比較は形態的には見事です。しかも本症例は傷跡の経過が良好で、術後5週間では目立ちません。撮影時はノーメイクですが、傷跡は鼻の影になっているのでよく判りません。メイクすれば見えないそうです。口角の創跡も後方に下がってきました。そして、もう一度この手術の形態的な留意点を何点か説明します。
まず切除幅ですが、5mmを越える切除をした症例のうちの多くは術後創瘢痕の幅が拡がりました。さらに鼻翼横の余りが多くて、Dog earが目立ちやすくなります。Dog earは月単位で皮膚が収縮して目立たなくなりますが、残った症例もありました。数か月経ても目立つ場合は、ステロイド注射かCO2LASERで焼くかで処置出来ます。
口唇の白唇から赤唇へのの外反は適度に欲しいです。白唇部の後ろは歯槽骨で、アジア人では前突している場合が多く白唇部がボテッと内反しています。長さの問題以上に治したい面となります。歯槽が発達していて前突している人は、当然白唇部の歯槽骨の縦が長い人が多く、白唇部短縮術の適応となりその際に外反を求めます。皮膚と皮下脂肪層の中間層まで切除して、その下層の皮下脂肪半層と口輪筋を一緒に縫い寄せてから真皮縫合でピッタリ縫い合わせると、外反が得られます。
最近の工夫として人中からCupidの弓を強調すると立体感が得られます。人中稜(尾根)は通常若干八の字ですから、そのまま縫い合わせると人中が幅広になり、しかも平らに近づいてしまします。そこで人中稜を真皮縫合する際に1㎜程度内側に寄せて縫います。すると人中稜と人中窩の山と窪みが明瞭化して、立体感が出ます。しかも、人中窩が深くなると赤唇部の弓もはっきりします。本症例では見ての通りに、Cupid’s bowが急峻にできました。弓がはっきりした方が色っぽいです。
口角の挙げる方向は、予めシミュレーションして決めた方向に向けて切除する三角形の頂点をデザインします。白唇部の長い人は口唇の横幅が少ない人が多く、45度方向にして横に拡げる事を望む人が多い様です。そして三角形の底辺である赤唇縁の切開線の長さは上げる長さに合わせていましたが、最近では口角からの距離を症例ごとに変えています。口角部の赤唇縁は後方にあるのですが、隠れる長さに個体差があります。白唇部が長い人は口角が下がっているだけでなく後退している人が多く、最近ではで使い分けています。本症例は口角が後退している方なので(術前の座位での正面像で見えない部位。)6×7㎜です。腫脹時は前に出てきますが、段々後ろに隠れてきます。
症例は上下の比率からして典型的な上口唇短縮術の適応症例でした。良好な結果を得られました。あとは私がいかに丁寧に3層縫合したかが創跡の質に関わりますから中期的経過を見まししたが、ご覧の様に見えません。細かいデザインと手術の工夫に付いても経過で見えてきました。
さらに経過を診ていきましょう。お楽しみに!