2022 . 6 . 1

今やブームの広範囲剥離リフト。こめかみからはよく挙がり、長持ちします。

典型的に加齢に伴って生じる変形は、三つに分けられます。下垂と減量と弛緩です。基本的に全てが同時進行しますが時間差があり、当然ながら個体差もありますし、生来の形態と機能の個体差により健在化する加齢変形も違います。また、組織の増量は加齢に伴うこともありますが、原則的に全身症状のひとつであり、加齢に伴うのでなく肥満に伴います。

減量は、皮膚伸展に対して内容物が増量しないから起きますが、部位が限定されています。生来骨格的にゴツゴツしている症例は、元々コケている部位がよりコケますから目立ちます。やはり個体差があるのです。弛緩は皮膚が伸びることです。皮膚のコラーゲンの弾力が減り伸びて、面積が増えます。面積が増えた分、扇子の様に折れ折れになればシワとなり、垂れ込んだら弛みと表現されます。また一部の皮下組織や筋や骨格は萎縮して、内容が減った分相対的に皮膚が伸展したことになります。下垂は実際には皮膚軟部組織の脆弱化で内部組織が重力で落ちることです。ただし顔全体が落ちるのではなく、皮膚軟部組織が骨や筋などの深部組織に付着している部分は下垂しないでその上の組織が落ちてきたら止まります。また、皮膚軟部組織よりも深部の表情筋はトーヌス(日常の覚醒時は微弱電流が来て常時張りがあることで精気)が落ちて、筋力も落ちるので重力に抗えなくなってきて落ちます。

治療法ですが、減量に対しては部分的に充填が可能です。現在は吸収性の注射が安全で一般的ですが、PRP療法は長持ちし、綺麗に張ります。弛緩には引き締めが求められます。面積を減らしたいわけですが、皮膚表面ですからあっちこっちを切り取る訳にはいきませんが、瞼や私の得意の白唇等切り取れる部分はあります。顔面全体には、表面から機械を当ててコラーゲンを収縮させる治療法が行われます。ただし永久的効果ではありません。何故なら、コラーゲンは3ヶ月で新しく置き替わるからです。

そこで下垂に対する治療ですが、落ちてきた部分は挙げたくなります。リフト,Lift手術です。顔の部分を引き挙げるからフェイスリフト,Face Liftです。英語ではRhytidectomy,しわ取り術とも表現されますが、引き挙げれば伸びるからです。ところで既に20世紀初頭には、医学論文発表がありました。それだけ古くから行われてきました。 逆に言えば、より良い方法を求めて模索されてきたのです。良さは何を求めるかに依ります。手術時間及び治療期間は侵襲性に依存します。効果は引き上げ度ですが、中長期的持続性は別問題です。両者は相反し反比例します。よく挙がって長持ちする手術は、ダウンタイムが長くなります。

皮膚だけ切って縫う最も簡単な手術法は手術時間が短いのですが、傷跡が綺麗になりませんし、効果が持続しません。糸で吊り上げるだけならどこかに弛みが溜まりますし、糸はすぐ抜けますから持続しません。溶けない糸は加齢で皮膚が脆弱化すると露出します。1970年代にSMAS法が考案されました。引き挙げ力に筋、筋膜を利用します。でもSMASは結局脆くて、侵襲の割に持続性に疑問が持たれました。現在靭帯の付け替え法は持続性が最も高いと考えられています。でも物凄い侵襲で手術時間も気が遠くなります。

同じ頃から広範囲剥離リフトが脚光を浴びています。学会で靭帯法の次に持続効果が高いと証明されています。切って縫うだけのなんちゃってリフトとは差が歴然です。SMASは顔の前方には無いので、広範囲剥離が不可能なのに対して、皮下剥離は前方まで可能です。剥離した皮膚を引き上げて、切除して縫合すると、剥離した皮膚は上に引き伸されながら、その位置でベースに面で癒着します。そして、皮膚が引き上げられると同時にベースの脂肪組織も移動します。耳前部からのリフトならJowlが潰され、こめかみリフトならゴルゴ線の上の弛みが平坦化してゴルゴ線が消えますし、頬骨隆起部が引き絞められます。本邦一のリフトの大家であるUt.医師も、靭帯法の次に効果的で持続すると教えてくれました。実はその後に、私は広範囲リフトを定番としたのです。

その後は、患者さんが切開リフトが出来る機会を作られたら、広範囲リフトを勧めまて来ました。ちなみに靭帯法の説明もして、Ut.先生の事も教えます。費用と時間とダウンタイムを教えると誰も興味を示しません。そこでやはり私は広範囲リフトを、上中下に分けて施行する事をお奨めします。上部はこめかみリフトをゴルゴ線まで剥離する事。中部はMACS, liftをJowl liftをマリオネットラインの外まで剥離してJowl,日本ではブルドッグと称する動物の顎を引き上げます。下顔面は下顎よりも下部の弛みを引き上げますが、耳の後から生え際に曲げて切開する場合と、二重あごを頤(顎先)の下を切開して削る場合と、七面鳥頚の場合に広頚筋をZ−形成する場合があります。

今回はこめかみからの広範囲リフトですが、ゴルゴ線が主目的でなく、下眼瞼からのMid face liftでは難しい部分、頬骨隆起部から鼻唇溝(法令線)の外側のたこ焼き状の弛みを引き上げる為に、こめかみリフトを施行します。画像を視ればその効果は判ります。

症例は34歳女性。当初は昨年他院で受けた口周りの手術の追加を希望して来院されました。その際のアナムネ(経過や既往の聴取)で、ミニリフトを受けた事。下眼瞼の脱脂と頬瞼溝への脂肪注入を受けて結果は得られているが、頬骨隆起部は剥離されていないから、鼻唇溝外側のたこ焼きが残る事。脂肪吸引も検討している事等を記載しています。ですが先ず口周りの手術から施行しました。

口周りの手術後の経過は順調で3か月目には頬前の弛みを挙げたいと仰りました。私はその際、下眼瞼からの筋皮弁法を示唆しています。

口角の肥厚性瘢痕等の修正術を希望して本年に来院された際に、頬骨隆起部の弛みと浅いゴルゴ線の改善を希望されました。目袋は認めないのでHamra法は二の次で、しかも下眼瞼の弛みそのものは軽度なので、下眼瞼からのリフト手術は第一選択では無く、こめかみからの広範囲リフトが適応と考えました。

当日には、引き上げ方向を用手的にシミュレーションして、若干目尻が吊り上がっても良いとの事で、45度方向に引き上げるデザインが決定しました。

前置きが長くなりましたが、画像は各方向を術前から視せましょう。

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上左図が術前、上右図が術直後。

下左図は翌日の画像。視ると腫脹は軽い。下右図は術後1週間。5日目から浮腫状に頬も腫れた。

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今回は切除した皮下脂肪を一層含む皮膚を撮影しました。

IMG_8535左右共に最大1.5㎝幅の切除をしています。

次に4方向も術前、術直後、翌日、1週間の順に視ましょう。右側面図から。

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上左図の術前図で、よく見ると点線が書いてあります。前方はゴルゴ線で上限は斜め上に眼窩骨縁に沿って囲み、下限は鼻翼の横から45度斜め上に囲んで剥離範囲をマーキングしています。後方で生え際に到るところに切開線がデザインされています。

上右図は術直後図で、縫合されています。前方はリフトされた範囲が平らになり鼻唇溝の外側は腫脹しています。それに目尻からこめかみの距離が減っていて顔の余白が減っています。皮膚のトーンは張りが出来て明るくなりました。

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上左図の翌日は腫脹が余り亢進していません。ところが術後1週間で視ると、内出血が黄色く拡がっています。撮影方向が違うため腫脹の比較は出来ませんが、一目診て腫れています。

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右側面も同様です。上左図が術前、上右図が術直後。下左図が翌日、下右図が1週間。

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通常術後48時間までは腫脹が亢進して、その後は徐々に吸収されます。5日目から腫れて来たのは何故でしょう。運動して血圧が上がったのならあり得ますが、不明です。今後安静にしたら引くでしょう。

斜位像では形態的変化が判りますよ!。下列の右斜位像から。

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上左図の術前と上右図の術直後を比較すると、頬前の張り具合の違いが判ります。術前のデザインはゴルゴ線が最前部です。

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上左図の翌日でも頬骨隆起部の位置が挙がって下垂感が改善しています。鼻唇溝の外側のたこ焼き状も平坦化しています。ところが上右図の術後1週間では、腫脹が亢進してプクッとしています。

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左斜位像でも同様です。縫合部のドッグイヤーは消えます。

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翌日の腫脹が軽く、1週間後に頬骨部の外表全体が膨らんでいますが、張りは後戻りしていません。日時の経過でリフト効果が判るでしょう。

術後1か月で来院されました。

IMG_9634腫れ、浮腫は引きました。ところが、左にゴルゴ線が再発しています。術前と変わりません。私正直に申し上げます。剥離操作の際に、右手で剪刀を使いますが(はさみは右利き用の合わせになっていますから、絶対に右手で使うべきです)、切開部からのむ基からして左側はゴルゴ線を越えられないのです。ゴルゴ線の中には支持靭帯,Retaining Ligamentが有り皮膚を引き込んでいます。骨とSMASと皮膚を繋ぐ柱の様なコラーゲンの束で、これを切ればゴルゴ線の線状陥凹は外れますが、左側は切れなかったのでしょう。やはり靭帯処理法は有用なのですが、この側頭リフトでは、目で確認出来ないので難しいのです。

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斜位像で視ても、ゴルゴ線の差があります。ただしよく視ると、ゴルゴ線の外上にある、頬骨隆起部の膨らみに差があります。まだ腫脹が残るのでしょう。触れても柔らかさに差が感じられ、患者さんも感じていました。優しい患者さんですから、「様子みます。」と言って下さいました。

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更に側面像で視れば、頬骨部の前突の度合いの左右差が判ります。この腫れが取れたらゴルゴ線も浅くなるでしょう。

更に改善の方法として、今回の術前に検討した下眼瞼からのMid face liftも考えられます。早速提案したら、患者さん「それで靭帯は処理できますか?。」と尋ねて来られます。私「出来ますが、それもブラインド(見えないで触覚で操作)ですね。」「つまりやってから結果を診るしか有りませんね。」と告げました。でもMid face liftはその様なものですから・・。

その意味ではFull Face liftやComposite Face liftは視野が得られるから、必要な部位の靭帯の処理も容易です。でも私は侵襲と時間の制約から部分を分けての広範囲リフトをしてきました。結果的に患者さの皆さんが受け易く、結果も得られてきました。次回本症例の患者さんともじっくり検討してみたいと考えています。お楽しみに!。

術後3ヶ月でどの様になりましたでしょうか?。

IMG_1831前回術後1か月の時はまだ腫れていたのでしょう。その1か月後、今から1か月前頃に左右対称になりましたとのこと。ブヨブヨは腫れだったのでしょう。結果的にゴルゴ線も見えません。

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上列の斜位像でも、下列の側面像でも、対称的に良好な結果を呈しています。

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画像よりも実感として良くなったと仰る。触覚的にブヨブヨ間が消失したので、それは自覚症状ですね。完成!。と宣言しました。患者さんはお悦びです。その上で、後戻りの程度はもう少し長期的に診たいとお願いしたら、「数ヶ月後には魅せに来ます。」と仰って下さいました。いつも何かとお世話になります。

当院では、厚生労働省より改定され施行された省令「医療機関ホームページガイドライン」に遵守し、ホームページの修正を行っています。

施術のリスク・副作用について・麻酔薬にて、アレルギー反応を起こす場合があります。その場合は適切な処置を行います。・腫れは個人差がありますが、手術直後から少し腫れがあり、翌日がピークで徐々に引いていきます。目立つほどの大きな腫れは1~2週間程度です。・術後のむくみや細かな左右差の改善には、3ヶ月程度かかります。・内出血が起こった場合は完全にひくまでに2週間程度かかることがあります。・感染予防のため、抗生剤を内服していただきます。・抜糸までの間、鼻下を伸ばす表情はお控え下さい。・口唇部の違和感は、2~4週間程度かかります。・手術後2週間は、口を大きく開けることはお控え下さい。・手術直後は、つっぱりを感じることがありますが、2週間程度で改善していきます。・手術当日は、洗顔をお控え下さい。・手術後3日間は、飲酒・激しい運動・サウナ・入浴など、血流が良くなることはお控え下さい。・手術後1週間(抜糸まで)は、鼻孔部位のお化粧はお控え下さい。・ケロイド体質の方は傷跡が残りやすい場合があります。

費用の説明も加えなければなりません。こめかみリフトは40万円+消費税です。こめかみリフト手術後は、上中顔面全体を載せますから、ブログ掲載の契約を受けてもらえたら、出演料として20%オフとなります。