この手術を人中短縮術と称している美容整形医師は間違っています。人中だけ短縮すると、富士山型の赤唇になります。他院での術後変形をよく見かけます。医療関係者以外の患者さんは、医療機関の流す情報を視てきますから、間違った知識を持ってきます。なお、手術名を洋語で書くとUpper lip liftです。直訳すれば上口唇挙上術ですが、手術で切除して縫合すると口唇の挙上効果を得られるので、私は上口唇短縮術と呼んでいます。ただし洋語では短縮,Shorteningとの術名はありません。
洋語のある如く、口唇は赤い部分だけでなく、その上の皮膚の部分は鼻の下まで口唇です。赤い唇を赤唇,Vermillion、皮膚の部分を白唇,white lipと称します。形成外科医なら知っています。口唇裂を手術するからです。白赤とも治さないと綺麗な形を再建できませんから当然です。鼻のすぐ下は白唇です。この部の皮膚を切除すると赤唇も引き上がります。
さてこの手術は、毎回書いてきたことですが、細かいデザインと丁寧な縫合法が求められます。
デザイン上重要なのは切開縫合線の位置です。鼻孔底隆起の下か切り取るかです。鼻の孔の底、正しくは身体から見て後側には、土手状の膨らみがあります。まれにほとんど膨らんでいませんが、土手があるから、鼻の孔の後半分は隠れています。縫合線を鼻の中に隠すために、もしも鼻孔底隆起を切り取ってしまうと鼻孔の下半分が見えてしまいますつまり丸い鼻の孔が黒グロと見えます。他院でその様にされてきた患者さんを診ると異常感で溢れています。傷跡は丁寧に縫って、幅が無く、白い線だけなら見えません。土手の麓の折れ帰り線にあれば目立たないのし、どっちにしても鼻翼下には傷跡はある。わざわざ隆起を切り取る必要はないと私は考えます。やはり洋語で論文を検索してみると、1990年代には載っていますが、鼻の孔の中を切ってしますデザインは一通しかありません。対して、Subnasal lip lift,鼻の下つまり鼻孔底隆起の下を切開して挙上する方法は10通以上あります。これも非形成外科医の間違いの一つです。
縫合は美容形成外科医療の生命です。傷跡が顔の前にあるのはこの手術の他には数少ないので、丁寧に真皮縫合をして、傷跡が広がらない様にすることに尽きます。どんな医師でも創は縫合出来ます。まともな医師なら縫合後は隙間は無くします。皮膚の表面は早ければ3日で、最長でも2週間で埋まります。ところがそれより深部の真皮層コラーゲンはまだグニャグニャでモロモロです。力に耐えません。どんな人でも皮膚は緊張があり、傷跡(表皮はついているので創ではありません。)真皮層は常に拡げられています。すると表面の表皮も引き伸ばされて”ツルッとした”(皮膚表面は必ずザラザラしていますよね)傷跡の幅が出来てしまいます。これが傷跡の幅です。形成外科医以外に縫合された患者さんに「幅がある傷跡ですね。何週間位で幅が出来ましたか?。」と訊くと「ウーン?!。」と首を傾げて、覚えていないか、後から拡がったのではないと思っている人がいらっしゃいます。
違います。傷跡は真皮層が強固に着くまでは、術後、抜糸後数週間から広がり始め、3ヶ月以上罹ります。幅の程度は緊張の度合いで個体差と部位差があります。そして、真皮層が弱い期間を寄せておく真皮縫合を強固にすれば、幅の拡がりを防げます。これが形成外科医の十八番の真皮縫合です。私達形成外科医は医師となった直後から真皮縫合のトレーニングに明け暮れます。何が難しいかって、皮膚は表面の表皮が0.2〜0.4㎜程度で約1ヶ月で代謝します。その深部の真皮層は厚さ2㎜以上ありますが、とにかく真皮縫合は表皮に掛からないで真皮全層を寄せなければ意味がありませんから、超細かい手技なんです。美容外科を含む他科の医師はトレーニングしていませんからできるはずがありません。多くの他科の医師は真皮縫合の用語さえも知りません。”中縫い”と称する医師は真皮縫合の意味を知らないでテキトーに縫っています。
私が上口唇短縮術を何百例も手術して、ブログにも200例は載っていますね。全例真皮縫合は最低18針して、測っていますが、結果的に後戻りはゼロに等しいです。ところが今回は他院での手術の後転倒して開いたそうで、しかも修復術の際には真皮縫合話されていないと、患者さんも認識しています。傷跡も幅が3㎜以上で後戻りしてほぼ元通りだそうです。可哀想ですが、アクシデントもあったし、今回私が治して差し上げたい症例です。
症例は36歳女性。3年前から当院で美容医療(手術や美容皮膚科治療)を受けてきました。2020年末に上口唇の術後瘢痕の相談を当院の他の医師にしました。その時点で人中の長さは18㎜と計測されています。
美容医療を受けに適時当院に来院されていて、昨年中頃に私に罹りました。カルテを転記します。【11年前非形成外科で白唇短縮術。1週間後転倒して創が開いて再縫合。結果的に真皮縫合が不備で幅?、傷跡の位置?。上顔面66㎜:中顔面63㎜:下顔面69㎜。上口唇25㎜:下口唇44㎜。現在は傷跡からで15㎜、傷跡の線は鼻柱基部から3㎜下で、人中の総縦長は18㎜。軽度富士山型。鼻柱下3㎜。鼻翼下5㎜切除して、C-カールをしっかり造りたい。人中が浅い。弓の底に幅。結節あるが、前に向けてセクシーにしたい。1.5㎜寄せたい。静脈麻酔も検討中。】その後もいくつかの美容医療を受けていて、頃合いを図っていた。
先月1年ぶりに私に相談。経過が難しいのでもう一度診察しました。カルテに繰り返して書いています。【顎関節症に対して上顎分節骨切り術を受けた後に、上白唇が垂直化したので、12年前上口唇短縮術を受けた。抜糸後転倒した。傷跡が幅。昨年の検討結果に沿って、現在人中部の白唇長は19㎜なので鼻柱部4㎜、鼻翼下5㎜切除。口輪筋を折り畳んで、外反をしっかり造る。結節も強調したいから2㎜ずつ寄せる。口角挙上術は後日検討する。】この様な診断の下、手術スケデュールを立てることになりました。
画像は術前から各方向を観ましょう。
人中部の白唇長(鼻柱基部〜赤唇の弓の底)は18㎜あります。近接画像で診ると、傷跡が幅3㎜異常で鼻孔底隆起は一部切り取られています。鼻孔の下半分が隠れていないから丸い鼻の孔が黒く見られます。赤唇縁の弓は明瞭ですが、人中は浅く幅広く、弓の頂点の幅もあり、結節が下向きです。
斜位像や側面像で口がE-ラインより尖ってはいませんが、逆に赤唇が貧弱感です。
術直前に確認診察。鼻柱下を4㎜鼻翼下を5㎜短縮のデザインプラン。人中部を2㎜ずつ寄せる。
デザインは10年以上前の幅のある帯状の傷跡の上を掠る線と幅4〜5㎜下に描きます。両側鼻翼基部まで5㎜切除しますから、鼻翼の横まで切除してDog earにならない様に辻褄を合わせていきます。上右図は切除した物。皮膚はもちろん、皮下脂肪も全層切除します。取った底には口輪筋が露出します。この後筋層を折り畳んで縫合後に、真皮縫合した時点で隙間はありません。下の術直後の画像を観てください。
皮膚縫合しか視えません。人中側を2×2㎜狭くして縫合していますが、腫脹で膨らんで効果は見えません。口は閉じませんが、術直後は局麻の残存の影響ですから、程度は不明です。
E-ラインより口吻が前にあるのは腫脹のためです。閉じないから余計口が出て見えます。鼻の位置は必ず戻ります。
術後1週間で部分抜糸。
腫脹が引き始めて、人中が深く、弓の頂点が明瞭で、結節が前向きになりました。まだ幅は腫脹で広いですが、これからです。口を閉じようとすると頤に軽度の梅干しが出来ます。
斜位像でも、側面像でも、撮影時は口を閉じようとして下さるので力が入って見えますし、閉じる際は口が尖ります。開口は3横指となり摂食生活に支障はないそうです。閉口時の梅干しは顎が丸く膨らみます。腫脹が気になるのでLEDや高濃度VC&水素で軽減効果があることを紹介しました。当日LEDを当てました。
術後2週間で全抜糸しました。
お確かに腫脹は軽快が早いでしょう?!。その経過が影響しているかどうかは分かりませんが、上口輪筋の回復も早い様で、写真の様に口を閉じようとしても、無理して下口唇だけの力で閉じなくても上口唇も働いています。さらにその結果口唇結節もピュンと尖って前を向いています。口輪筋はそれこそ、赤白口唇に亘って(だから口唇は赤白なんだってば!)皮下にドーナッツ状に存在しますが、赤唇部のが収縮すると中心でプクッと前に出て可愛いです。白唇部のが収縮すると人中が深くなり表情が豊かになります。まだこれから、さらに回復します。
何気なく口を閉じられると、口元がスッキリします。頤の梅干しも目立ちません。E-ラインとの前後関係も良くなってきました。鼻唇角も90度以下に戻りつつあり、鼻翼の幅も半分程度元に近づいています。今回術後2週間の画像も戴きましたが、次回術後1ヶ月でかなりダウンタイムを過ぎますでしょう。お楽しみに!
その術後1ヶ月が参りました。
やはり若干の梅干しはできます。でも上口輪筋はかなり作用する様になりました。もう少しです。患者さん本人の自覚として、まだ最大開口時に剪断力を感じるそうです。口を横に広げる時、鼻も一緒に広がるのですが、その際ズレを感じるのです。日常的には不便はないそうです。
近接画像で見られる様に、いくつかの変形は治りつつあります。左鼻翼横のドッグイヤーは縮小中で、鼻翼基部の下の陥凹=シワは浅くなりつつあります。3ヶ月経ても消えなかったらヒアルロン酸で埋めることを約束しました。
今更指摘しました。前回の手術で鼻の孔の中を切除されていて、鼻孔底隆起を切除されています。私も同じ切開線を使いました。結果的に鼻孔底隆起がないどころか、鼻孔の下の切開線の上に縦の谷が出来ています。鼻孔は丸い筒ですが、鼻孔底隆起があれば下半分を隠しますから、半円形しか見えず、前から見ても奥は見えませんが、鼻孔底隆起がないと鼻の孔が”黒く丸”見えになるのです。
斜位像や側面像で、白赤唇の可愛さを診ましょう。寄せた効果ですが、赤唇がのっぺりしていたのが、治ってお喜びです。前回は変わらなかったそうです。口唇結節も前向きで優しい。私がいつもの様に「キスシーンを演出できましたね。」「キスしたくなる唇でを造り出せました。」と言うと、患者さんに手を振って遮られました。そりゃそうです。赤唇縁のCupid’s bow,弓のカーブも唇らしくはっきりした。人中は狭くなって白唇らしい。これらはC-カールを作ったためでもあり、人中部で白唇を寄せて縫合したからでもあり、いずれにしても上口唇短縮術はデザインと手技に多くのバリエーションがあり、そのためには念入りに術前診察をする必要があるのです。
次回は完成像を観ましょう。
術後3ヶ月で完成を観ましょうか?。
やはり小さな形態的な後遺症が見れました。それも何故か左側だけに診られます左鼻翼の横と鼻翼基部にドッグイヤーの粒が診られます。早速CO2 LASERでやき潰そうと提案しました。術後3ヶ月経てば、傷跡は癒合していますから、焼けます。でも1週間程度はテープ貼付を要します。今回は見合わせてスケデュールを立てることになりました。
そしてもう一つ前医が切り取った鼻孔底隆起部に前回ヒアルロン酸を中縫うしたら鼻の孔の後側が見えなくなって良かったので足しました。ついでに鼻唇溝も。患者さんは鼻孔そこ隆起が元々ないと仰いますが、そこに鼻孔ないに向けて傷跡がありますから、やはり切り取られていると考えられます。逆に言えば、鼻穴底隆起の畝が低いから切っても良いと考えられたのかも知れません。いずれにしても鼻孔底隆起が無いと、鼻孔の後半分が隠れなくて丸く丸見えになるのです。
確かに右斜位像では、傷跡さえもよく見えませんが、左側面像では粒状に診られます。近々焼きます。その際診られます。ところで後戻りはゼロ㎜です。その点は満足されています。
当院では、厚生労働省より改定され施行された省令「医療機関ホームページガイドライン」に遵守しホームページに加筆を行っています。
施術のリスク・副作用について・麻酔薬にて、アレルギー反応を起こす場合があります。その場合は適切な処置を行います。・腫れは個人差がありますが、手術直後から少し腫れがあり、翌日がピークで徐々に引いていきます。目立つほどの大きな腫れは1~2週間程度です。・術後のむくみや細かな左右差の改善には、3ヶ月程度かかります。・内出血が起こった場合は完全にひくまでに2週間程度かかることがあります。・感染予防のため、抗生剤を内服していただきます。・抜糸までの間、鼻下を伸ばす表情はお控え下さい。・口唇部の違和感は、2~4週間程度かかります。・手術後2週間は、口を大きく開けることはお控え下さい。・手術直後は、つっぱりを感じることがありますが、2週間程度で改善していきます。・手術当日は、洗顔をお控え下さい。・手術後3日間は、飲酒・激しい運動・サウナ・入浴など、血流が良くなることはお控え下さい。・手術後1週間(抜糸まで)は、鼻孔部位のお化粧はお控え下さい。・ケロイド体質の方は傷跡が残りやすい場合があります。
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