2022 . 9 . 20

法令線は鼻唇溝と言います。シワでなく溝です。しかも上方の鼻翼横の陥没だけ埋めれば線も見えなくなります。それには注射でもいいですが、プロテーシスも安全な部位です。

一般人は美容医療の用語を知りません。専門用語だからです。日本では美容医療を医学だと認識していない人が居ます。これだけ美容医療が一般的になっても自分で勉強する市民は少ないのです。何故なら問題点は二つ。

昔戦後すぐから、テキトーな美容整形屋が横行してたからです。確かに科学(医学)的でなく、好結果も出しましたが、後遺障害を起こした症例もありました。私は父の遺した症例を見ていますから知っています。何しろ父はその後遺症のメカニズムさえも理解していなかった事もありました。むしろ他にも父に他医の起こしたまずい結果を教えてもらいました。医療サイドも美容医療を真面目に学んでいなかったという事です。当時の日本人が、美容整形をいかがわしい物と捉えていたのは仕方ないのでしょう。昭和時代はむしろ忌避観念さえあり、私は小学性の時に「お前の父さんは”やくざいし”だもんな!。」といじめられました。薬剤師に引っ掛けてヤクザ医師。金儲け主義のいかがわしい医者という意味です。

もう一つ美容外科の患者さんは普通カミングアウトしないから、本当の意味での口コミが伝わらないから、医療サイドは宣伝広告をするしかないからです。他の科目では、保険診療である限り費用がお国から決められていて同価格なので、建前上どの病院や診療所の医療機関に罹っても同じ医療水準だとされます。したがって時代によって変遷しますが、基本的に名刺程度の広告しかできません。実際の評判は地域で口コミで伝わります。実は美容医療科目でも広告規制は同様なのですが、IT時代の前は違法スレスレの宣伝広告が横行していました。雑誌等は今でもそうですが、本の広告と称して、詳しい医療?内容を載せていました。その内容が正しいかと言えば、学会でのコンセンサスなど無視しています。ホームページやSNSに対しては6年前に政府が規制法を成立させました。また、自費診療である美容外科では自由価格ですから、広告宣伝費用を上乗せして価格設定していますから、あれだけ多額の広告を打てます。S.クリニックの院長が「ネット広告が規制されたからTVCMの時代だ。うちの時代だ。」とかほざいていました。ということは逆にS.は画像改竄していたからです。インターネットでも紙媒体でも、スポンサーの番組でも、広告宣伝は医学的な知識ではなく、あくまでも宣伝です。用語なんかもキャッチーな言葉で釣っているだけです。こうして一般人は美容医療に興味を持っても、正しい知識を得られないのです。

ところで法令線という言葉は、一般的に使われますが、占いや人相学の用語です。美容医学では鼻唇溝という用語が使われます。言葉の通り鼻と唇の口角を結ぶ溝です。表情筋が皮膚の裏側に付着しています。頬骨筋群とされ、笑う際や口を横に引く際に溝の裏側が引き込まれます。常時動かして皮膚を引き込んでいるから皮膚が薄くなり刻まれてきます。患者さんは”しわ”と呼びますが、刻まれた”溝”です。

今回の命題に戻りますが、鼻唇溝は埋めるしかありません。溝の外上の脂肪塊は弛んで(下垂)する人こそあれ量がが多い人は稀で、脂肪溶解の適応も稀です。まして脂肪吸引は表情筋群や顔面神経コンプレックス(複合体)である同部には禁忌です。したがって昔から注入が第一選択でした。1960年代まではシリコンジェリーの注射が使われ、確かに非吸収性ですが、年単位で線維化して、ゴツゴツになります。芸能人でも居ました。その後1970年代にコラーゲンが発売されましたが、半年持たない程吸収が早く父は「あれじゃあぼったくりだぜ!。」と怒っていました。1990年代にヒアルロン酸が鳥の鶏冠から抽出され、年単位保つ様になり、その後遺伝子操作で造られた物は、安全性も高まりました。ところがやはり非吸収性の物を求める患者さんに答えようとアクリルの一種を混ぜた物が発売され、やはりゴツゴツになりました。残念ながら未だに使っている医師が居て先日もゴリゴリを着けた患者さんが来ました。非吸収性注入物を体表に使ってはいけないのは、経験が深い私は知っています。

そこでシリコンプロテーシスです。1962年に発売されました。シリコンゴムはケイ素を化合した物質で固体です。ケイ素は石の基本元素で、体内にも存在します。体内では免疫では壊されませんから、形を永久に保ちます。挿入後数週間で、周囲をコラーゲンの膜で包まれます。そのまま存在し続けます。ただし、皮下の浅い層に挿入する部位だと、加齢で皮膚が菲薄化すれば、形が浮いて見えてます。鼻尖が一番多く、30年単位では孔が開きます。鼻稜でも時に形が見えてきます。でも、アジア人は鼻が低いので希望患者さんは多く、私は経験が深いので詳しく説明してから鼻背(鼻スジ)だけに使います。

比して皮下どころか深い層に入れる場合には安全性が高いのです。ほぼ永久的です。ただし深い部位に挿入する為には切開からの侵入口が長く、その手術法の為の解剖学的構造を熟知していなければなりません。例を挙げると、頤プロテーシスは口の中から骨の上に乗せますが、入り口から出て来ない様に中縫いで止めます。上手く造れば下顎骨に一体化した様な形で触れません。私一回、自分で入れた患者さんが余りにも自然な形なので「入れたっけ?。」と訊いた事がありました。

鼻唇溝プロテーシスは、鼻唇溝の上の三角形の深い部分に入れます。溝に入れません。何故なら上だけ埋めれば線も押し出されて浅くなるからですし、上に書いた様に表情筋を損ねたくないからです。「本当ですか?。」「また上手い事言ってえ〜!。」と患者さんは訝りますが、経験の深い私は知っています。本症例でも判ります。そして手術法ですが、私は口内から挿入しません。坑道が下に出来ると重力で落ちるからです。他医で口内から挿入された後に落ちた人を2例診ました。ボルトで留めれば落ちないとしてもかなり煩雑で口内からは適正な位置に留められない事があり得ます。一例左右非対称に止まった症例を診ました。治せるか思案中です。

私は鼻翼の内側の切開から挿入します。画像では写せない部位なので言葉で説明します。まず鼻翼基部の直ぐ上の土手の後を縦に約5㎜切開します。その切開からすぐに後へトンネルを造り、梨状口縁(骸骨を見ればある鼻の孔を囲む洋梨型の孔の縁)と称される骨の上に達します。ところで写せない部位をどうやって手術するのかとお思いでしょうが、ここまでは鼻翼を捲れば見えるのです。ここからは手探りですが、その後直ちに曲剪刀(ハサミ)を外側に向け、予めマーキングした三角形の凹みを表から触れながら、ポケットを造ります。ちなみここの皮下の筋の裏側に顔面動脈の太い枝である眼角動脈,Angular arteryが走行していますから、ポケット作成時の剥離操作は、剪刀を骨の前面を滑らせる様に開くだけとし、絶対に閉じて挟んで切らない様にしなければなりません。かなり繊細な技です。さてプロテーシスを作成したら、挿入です。筋鉤(丁度良い曲がったへら)で入り口(坑道)を拡げて入れていってから、方向を変えて骨の前を滑らせる様に進めればポケット(部屋)に嵌ります。すると入り口から曲がっているからもう動きません。坑道と部屋の向きが違うから、自動的に固定されるのです。傷は深く2、3針縫合すれば坑道は閉じます。画像で更なる手術手技を見て下さい。

症例は46歳女性。約1年前から当院に罹っていて、当初は手術の出来ない医師に注入等を受けていましたが、本来美容医療が好きな患者さんですから、鞍替えして私に罹るようになりました。いくつかの手術を施行してきて結果を得て、いつも楚々とした物腰で嬉しそうにして下さる優しい患者さんです。私のレパートリーの広さと、真摯な診療、さらに適切な手術法の選択を認めてくれるので、診る度に私を楽しくしてくれる人です。

当初から、若干の両顎突が見られましたが、他の部位から進めました。顔面の美容的形態的改善は、全体像からのバランスが重視されるべきですから、私は優先順位を見出してきたからです。その点についても患者さんと私で充分に相談してきましたから、一つ一つの結果に満足いただけるのでしょう。

両顎前突は上白唇短縮術では、すっきりしても根本的には改善しません。長さが目的です。上顎歯槽骨の傾斜と、上下どの部分が前方にあるかはバリエーションが広いです。本症例では弓型の歯槽骨の歯の前は中央が前ですが、両側外側は前突してコの字型ではありません。ところが歯槽骨の上方の上顎骨にぶら下がる部分が外側まで前方にある。その為に折れ返りとなる鼻唇溝が深いのです。詳しいことは計測も骨のX-線写真を見たのでもないから確認はしていませんが、一目見て鼻唇溝が深めだと言えます。昨年末には他も分けてPRP注入をしましたが、鼻唇溝は吸収が早いので今度はプロテーシスを入れることになりました。

画像は各方向の経時的な変化を見ましょう。

 

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上左図は術前の正面像。鼻翼の外側に白い凹みと斜めの溝。上右図は術直後。局所麻酔で白くなっていますが、平らです。ちなみに術前に「鼻翼が拡がるって聴いたんですが・・。」と聴く患者さんがいらっしゃいますが、鼻翼内から挿入する私の手術では、広がりません。多分口内からでは鼻翼下にも入るから広がるのです。

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上左図は術後1週間での抜糸直後。この手術は早めに腫れが引いてきます。すると外側の線が見えてきます。それが自然です。でも口元の感じがスッキリしたのは見て判りますよね。上左図に下面像を載せて鼻翼内を覗いてお見せしようと思ったのですが、やはり暗くて見えませんでした。

プロテーシスの位置は動いていません。表面からは見えませんが、私が触れれば、鼻唇溝上方の三角形の中に確認できます。患者さんにも自分で触れてもらっていました。「ちゃんと確認していましたよ。」と優しい人です。ただし開口次になんとなく感じる。時に当たる感覚はあるそうです。口角を上げる表情時も存在を感じるそうです。日常生活時や社会生活上は支障はないそうです。

IMG_2481術後1ヶ月です。腫脹が軽快してボッコリしていない。患者さん「私自身は何かしたっけ?、入っているの?意識はなくなりました。」「でも、こないだ毎月会うお客さんに、『今日綺麗だね?!。』って言われました。」「今日って失礼ですよね?。」私「そうそう!いつも綺麗で優しい人ですから、だから私も診療が楽しいのです。」と答えながら、心の中では”この手術でそんなに変わるのかなあ?と考えつつ、お世辞ではなくうっとりして諭します。患者さん「信頼していますから。」「ところで次は何が適応ですか?。」と今日の診療が終わらないので「次回術後3ヶ月待って検討しましょう。」実は患者さんからこめかみリフトや鼻尖の追加を示唆されました。

下に近接画像とプロテーシスの画像。

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上左図は術前。近接画像では鼻翼横の陥凹がよく判り、口周りの前後の位置関係がモッコリ感を醸し出し提ます。上右図のデザインは点線で陥凹部を囲みました。

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プロテーシスを造りました。原型は楕円形で二つに分けて削りました。上左図は造った物をシーツ上に鼻の画を書いて撮りました。上のデザイン画の三角形に合わせて造りました。角は折れ返ると邪魔なので丸めます。上右図はこれを横から見た図。最大厚3.5㎜です。

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上左図はプロテーシスを鼻唇溝に乗せた図。マーキングにフィットしています。これを骨の前に挿入したのが上右図。乗せた分量が、中から増量されています。

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術後1週間でも雰囲気が優しい。優しくおしとやかな患者さんに似合う手術です。上右図は術後1か月の下面像。窪みが見えません。

下の列で術後3ヶ月での完成像を観ましょう。

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ご覧の様に効果は充分に診られます。入れ物(父はよくプロテーシスのことをこう呼んでいました)はシリコンですと減りません。しかも鼻唇溝では深くに入りますから、安全で邪魔になりません。つまりもう自覚的には症状がないどころか、入っている意識もないそうです。しかも位置は適切で、触れれば判ります。

実は正面像よりも3次元的に見た方が違いが判ります。代わりに側面像と斜位像の4方向を経時的に診ていきましょう。

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上列の術前像と下列の術直後で、形態的変化が明らかに見られます。一言「埋まっている!。」

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下列には術後1週間。

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線は見えても腫れがあるから三角は埋まっています。更に鼻唇溝の線が「見えなくなりましたね!、本当でしたね!、先生すごい!。」とお褒めに預かりました。悦んでもらえて嬉しい限りです。それに「口を開いても、口角を挙げても、何かある感じですが、別に困りません。」「動かしてもいいですよね?。」と、確かに経過が早い手術なんです。

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術後1か月の4方向の画像です。腫脹が引いて、鼻翼の横の折れ返り線は見えてきます。その方が自然な形態です。鼻唇溝の上三角は見えません。結果は得られています。

術後3ヶ月です。

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丁度よく埋まって、見えない手術効果にお喜びです。次の話題に移り始めました。素敵な患者さんはより向上したくなるものです。美人は高みを見ます。

当院では、厚生労働省より改定され施行された省令「医療機関ホームページガイドライン」に遵守しブログに加筆しています。もちろん画像操作はありません。

施術のリスク・副作用について・麻酔薬にて、アレルギー反応を起こす場合があります。その場合は適切な処置を行います。・腫れは個人差がありますが、手術直後から少し腫れがあり、翌日がピークで徐々に引いていきます。目立つほどの大きな腫れは1~2週間程度です。・術後のむくみや細かな左右差の改善には、3ヶ月程度かかります。・内出血が起こった場合は完全にひくまでに2週間程度かかることがあります。・感染予防のため、抗生剤を内服していただきます。・抜糸までの間、鼻下を伸ばす表情はお控え下さい。・口唇部の違和感は、2~4週間程度かかります。・手術後2週間は、口を大きく開けることはお控え下さい。・手術直後は、つっぱりを感じることがありますが、2週間程度で改善していきます。・手術当日は、洗顔をお控え下さい。・手術後3日間は、飲酒・激しい運動・サウナ・入浴など、血流が良くなることはお控え下さい。・手術後1週間(抜糸まで)は、鼻孔部位のお化粧はお控え下さい。・ケロイド体質の方は傷跡が残りやすい場合があります。

費用の説明も加えなければなりません。今回の手術:鼻唇溝プロテーシス挿入術は両側で28万円+消費税です。ブログ提示の契約を頂いたら出演料として20%オフとなります。