顰蹙、ひんしゅくという熟語があります。顰めると蹙めるの漢字部分を合わせています。意味は、眉を顰めると顔を蹙めるです。
眉を顰めるのは嫌な時や怖い時や怒った時などの感情が表情筋の一つである皺眉筋に伝わり皺を造ります。どれも良い表情ではありませんから、筋の動きを止めたいと考えてボトックスで止めるのが第一選択です。この面は他の機会に書きます。
顔を蹙めるという表情も同様に嫌な感情により起きますが、特に法令線が深くなる原因ではあります。法令線の下には頬骨筋群という鼻唇溝を斜め上に引き上げる筋達が付着していて顔の後方に引き込むから溝になります。頻回に引き込まれているうちに、皮膚に折り目が付いて刻まれてしまいます。ただし、法令線(医学的には鼻唇溝)は、骨の折れ返り線でもあります。皆さんも触れば解るでしょう。特に骨格的には、上顎歯槽骨の傾きが影響します。鼻の下から唇にかけて前に傾いていると当然鼻唇溝の折り目が深くなります。
顰蹙を買うと、顰める顔つき、蹙める顔つきをされますが、その表情が定着すると可愛くないので治したいのです。さらに鼻唇溝は角度にバリエーションがあります。鼻翼横から口角の横までの溝が垂直に近いか、横に広がってから弧を描いて丸いか様々です。窄まっていると暗い感じまたは冷たい感じで、弧を描いていると笑っている優しい印象を呈します。加齢で頬前の組織Malar部が下垂傾向で伸し掛かっていると窄まります。口の横幅が小さいと窄まります。その場合寂しい顔立ちです。もう今や言いたくないのですが、亡くなった前々総理は窄まっていて、笑っていないと暗ったい顔立ちでした。よく例に引きました。若年者ではあまり有りませんが、たまに居ます。個人の印象を左右します。
そこでどちらにしても鼻唇溝が深ければ浅くしたいのですが、今まで通常ヒアルロン酸等の注入で埋めました。もちろん吸収されるもの以外は行ってはいけません。一時紐状の固体が使われましたが、やはり中期的には周囲が繊維化して固く浮いて見えてきました。敢えて小切開で摘除してあげたことがあります。
さて固体のプロテーシスは、骨の上に乗せて、その前部の組織を持ち上げます。骨の上なので密着して、繊維化は起きますが逆にそれはカプスライゼーションと言って、包まれて動かなくなるから良いのです。また、私は鼻翼の内側の切開から挿入します。骨の上までポケットを作りデザインした皮膚の下の骨の上を、剪刀(手術用の鋏)で剥離していきながら(この際剪刀を閉じる時は血管を切らない様にゆっくり)、左手指を皮膚に置いてから剪刀の位置がデザインの中にあるのを触知して適切なポケットを造ります。その後デザインに合わせて、厚さを決めて造ったプロテーシスを、ツルッと挿入して位置を確認して、創は鼻の中で見えないので表面だけ2〜3針縫合します。韓国では口腔内から挿入しますが、通り道が出来るので落っこちていきます。何例も見ました。
何回も書きましたが、鼻唇溝プロテーシス挿入術は私と父が発明しました。30年以上前に入れた患者さんが今でもたまに来て、ちゃんと入ったままで、何も問題がなく鼻唇溝が浅く目立たないのを自慢されます。入れたのは私だったり、父だったりですが、どちらも上手く出来ています。
症例は26歳女性。私に罹ったのは4年前で、眼瞼から入りました。2年前に口元が突出して見えるから仰り、鼻唇角と鼻唇溝にプロテーシスを検討しました。鼻唇角プロてーシス挿入術から施行しました。その後眼瞼も追加手術して本年に入ってから、鼻唇溝プロテーシスを挿入したくなり来院しました。
診察は深さを測ります。側面像で、鼻唇溝上の一番深いところに定規を当てて、Malarの最前面との差を測ります。画像でご覧になれる様に、鼻翼の付け根はMalarに隠れて埋まっています。鼻唇溝とは、人相学用語で法令線のことですが、線ではなく溝で。頬骨筋群が引き込んでいますが、上方の三角形のくぼみを埋めれば線は見えなくなります。
これも何度も書きましたが、鼻唇溝プロテーシスは私と父が1990年代に開発した手術です。広告が稚拙で流行らなかったのですが、韓国がパクって、SNSで流行らせて、口腔内から入れています。残念ながら、口腔内から(上の犬歯の前の切開)挿入していくと、通り道が出来るので徐々に落ちてしまいます。何人か診ました。一人は歯茎の下に膨らんでいました。ですから鼻唇溝プロテーシスは鼻翼内から挿入するべきですが、手技が煩雑です。今回画像を撮りました。観ましょう。
画像は各方向を術前から。
正面像と三角形の頂点をマーキングで示した後。露光が変わっても影は判ります。
上段の説明にある計測はこの方向からします。鼻翼の後ろ側は隠れています。
斜位像では光の方向で溝がはっきり見えます。
下には術直後の画像群。
デザインは鼻唇溝の上方、鼻翼の側方の三角形に描いてあります。術後にも位置を知っていて欲しいので描いておきました。
鼻翼の付け根は見えます。
斜位像では鼻翼の横のくぼみが明らかに浅くなって、ホウレイ”線”も見えなくなっています。
近接画像で手術を追います。
上左図は術前の画像。上右図は仰臥位でデザイン後の画像。上向くと浅くなります。
手術を始めます。局麻後切開します。まず鼻翼の内側を矢状方向に約5㎜切開し、直ちに後方の梨状口に向けて剥離し、骨の上に達したら、クルッと外側に向けてポケットを作成します。デザインに描いた点線の範囲を反対の手指で触れながら、その下だけにポケットを造ります。
上の画像は道具を入れて創を示しています。ポケットは見えませんが剪刀(手術用の鋏)と筋鉤(直角に曲がったヘラ状)の先が入っているのは判ります。ポケットが出来たら↓
いよいよプロテーシスの作成です。上右図は原型を半円型の三つに分けた後。上右図はそれぞれを、実物の患者さんに合わせて描いた鼻翼の画の外側の、つまり鼻唇溝上三角に載せてみます。角があってまだ大きいので面取りします。↓
細かく切り取って面を丸くして、でも底面は骨に密着する様に平坦にして形を造りました。上右図のごとく、最大厚は4㎜です。
今度は人体に載せてみます。デザインにピッタリフィットしています。上右図はポケットに挿入後です。位置は表面から触れて合っていれば縫合します。
翌日も画像を頂きました。
術後鼻孔内からの出血はありませんでしたが、腫脹は強いです。Malarまで腫れています。プロテーシスの位置は自己触知して下さいました。正しい所にあります。
側面像でも腫れは診られますが、鼻翼の付け根が見えます。
斜位像では鼻唇溝の上のくぼみが見えません。線も見えません。
術後1週間です。
正面像では腫れが引いて自然な窪みは見えます。
側面像でも斜位像でも窪みが埋まって、線が見えなくて、鼻翼の付け根が見えます。
次回術後2週間も魅せてもらえます。
内出血は吸収されました。ちょうどよく埋まっていると、患者さん微笑んでいます。私「ほうれい線の”線”も浅くなるでしょう?。」と強調しますが、優しく微笑んで「そうですね。」とお悦びでした。
4方向で観ると、特に斜位像で綺麗。側面像で鼻翼が見えるのも埋まっている証拠です。
素敵な女性ですから、2週間後に診られるのを楽しみにしています。
術後1ヶ月で来院されました。
位置は適切です。
もちろん腫脹の解消とともに減って見えますが、鼻唇溝がないのも不自然です。少なくとも線は短くなっています。
術後3ヶ月の完成を診ましょう。
なんともお淑やかな容貌です。鼻唇溝が浅くなると口元の間延び感も改善します。
4方向どこから観ても、優しい表情が好まれる容貌です。
今後次の手術を検討します。口元ならまた画像提示できます。
当院では、厚生労働省より改定され施行された省令「医療機関ホームページガイドライン」に遵守しブログに加筆しています。もちろん画像操作はありません。
施術のリスク・副作用について・麻酔薬にて、アレルギー反応を起こす場合があります。その場合は適切な処置を行います。・腫れは個人差がありますが、手術直後から少し腫れがあり、翌日がピークで徐々に引いていきます。目立つほどの大きな腫れは1~2週間程度です。・術後のむくみや細かな左右差の改善には、3ヶ月程度かかります。・内出血が起こった場合は完全にひくまでに2週間程度かかることがあります。・感染予防のため、抗生剤を内服していただきます。・抜糸までの間、鼻下を伸ばす表情はお控え下さい。・口唇部の違和感は、2~4週間程度かかります。・手術後2週間は、口を大きく開けることはお控え下さい。・手術直後は、つっぱりを感じることがありますが、2週間程度で改善していきます。・手術当日は、洗顔をお控え下さい。・手術後3日間は、飲酒・激しい運動・サウナ・入浴など、血流が良くなることはお控え下さい。・手術後1週間(抜糸まで)は、鼻孔部位のお化粧はお控え下さい。・ケロイド体質の方は傷跡が残りやすい場合があります。
費用の説明も加えなければなりません。今回の手術:鼻唇溝プロテーシス挿入術は両側で28万円+消費税です。ブログ提示の契約を頂いたら出演料として20%オフとなります。