先日に日本美容外科学会,JSASがありました。我が国には同名の日本美容外科学会が二つあります。一方の形成外科医が作ったのがJSAPSで、もう一方は非形成外科医が作ったJSASです。JSASはビジネス系でチェーン店やその出身者がほとんどで最近では美容皮膚科医も参入しています。JSAPSは大学病院等で、最低でも6年間は形成外科を研修してからでないと正会員になれないので、学門的です。最近は二股の医師が増えましたが、数年前までは一方しか入れませんでした。私の父はJSAS側でしたが、JSAPSと二股でした。私は大学で研修しながら当初からJSAPSに入会し、10年目にはJSASにも入会しました。
ビジネス系なら、患者(彼らは客、またはクライアントと呼ぶ)を増やすために、やはり”切らない”痛くない”を売りにしますから、プチ整形や器械を主に使います。したがって先日のJSASでも切開リフトのセッションは設定されませんでした。逆に言えば解剖学や体表外科学を学んでいないチェーン店系の美容整形屋が、切開リフトを手術するのは怖いし、してほしくないからJSAPSで発表がなくてよかったのかもしれません。
JSAPSには切開リフトを毎年発表している美容形成外科医が数名います。かと言って手術法が毎年イノベーションされるわけはなく、大事なのは持続性をちゃんと提示することです。
それによると、S美容外科が得意とする、ただ切って縫うだけのなんちゃってリフトは言語道断です。SMAS法は形成外科医なら1970年代から行ってきました。形成外科医として顔面神経の解剖学的構造を学んだ後でなければ危ないので、チェーン店系の非形成外科医は手を出せません。ところが数年前から、SMAS,Superficial Musculo Aponeurotic System(筋、筋膜) は耳前にはあっても顔面の前方では菲薄で、Jowl やゴルゴ線を引き上げられないと提唱され始めました。
そこでUSAでは、今世紀に入ってから、SMAS法に代わって靭帯法が提言されました。PubMedという世界的なインターネット図書館で検索すると百を超える論文があります。支持靭帯,Retaining Ligamentは、骨から筋膜を貫いて皮膚に繋がる密なコラーゲンの紐です。加齢で伸びて皮膚が落ちます。逆に引き上げる際に靭帯が邪魔になります。SMAS下で人体を外して下の隣の断端と縫合し直す方法が最も効果的ですが、そこには顔面神経があるので、電気を流していちいち確認しなければなりません。片側で10本以上の靭帯処理を必要とし、約8時間かかります。当然費用も200万円以上を必要とします。
そこで二の手として,alternative、皮下で広範囲剥離するリフトもPubMedに載っています。皮下で広範囲剥離すれば、支持靭帯の筋と皮膚を繋ぐ紐を切れるので、邪魔がなくなって挙がります。顔を下から説明していくと、Jowl(一般英語で欧米では普通に使われます)は、Mandibular retaining Ligamentを切れば挙がります。ゴルゴ線はZygomatic retaining Ligamentを切れば無くせます。前額は眼窩上の支持靭帯を外せば眉まで挙げられます。この組み合わせで別々にした症例もあります。
大事なのは支持靭帯を切る事なので、広範囲剥離皮下リフトは、それぞれを別々にしても良いのです。まずJowl liftで下顎のラインを整えて、次にこめかみリフトでゴルゴ線を消して、Malarの下垂も引き上げて鼻唇溝にのし掛からないようにしたら、力がJowlまで働いて下顎ラインがさらに卵型になります。頤の下や下顎角(エラ)の下の弛みは脂肪除去と後頭部からのリフトが必要です。ここも別々に手術しましょう。
別々に行うのは、時間と費用の関係です。局所麻酔では片側ずつ行うにしても2時間半で切れます。ですから逆に、分けて行えば全身麻酔や静脈麻酔を要しません。患者さんも医療サイドも、費用対効果が挙がります。時間短縮すれば、それぞれのダウンタイムは軽く出来ます。先日の患者さんは1週間で社会復帰されました。今回遠方からでも飛行機で行き来出来ます。Jowl liftに続けてのこめかみリフトは、それだけコスパが高いと言えます。
症例は45歳女性。遠方からの来院ですが、時間さえ取れれば、飛行機での行き来が可能だそうです。部位ごとに分けて手術してその日に帰り、抜糸のために再来されます。本拠地での抜糸は難しいそうです。カルテを見直しますと、一昨年末に初来した当初から、Jowl liftに言及しています。他の部位から手術して、1年前には下顎下にも言及して、こめかみリフトも検討課題となりました。Jowl liftは本年に入って手術し、その際頤したの二重顎の問題点と頬骨隆起部のたるみも改善の希望を述べています。術後1ヶ月半で来院した際には、下顎縁下と頤下はJowl liftの隣なので経過が落ち着いてからつまり最後にするようにお願いし、こめかみリフトの計画を立てました。
用手的にシミュレーションして、やはり45度が適応でした。目尻は若干上がります。4年前に他院でゴルゴ線にPRPを注入していて線はないのですが、頬骨隆起が前方に凸で、頬骨弓の幅があるため頬骨隆起まで剥離して引き下げればスッキリすることを見せました。
画像は各方向を経時的に観ましょう。正面像から。
術前とデザイン後。ゴルゴ線は埋まっていますが、頬骨隆起部の組織が前下方にあり、たるみ感を呈しています。下顎縁のカーブは卵型ですが、中顔面の正面像が凹凸を呈しています。頬骨隆起部まで剥離するデザインです。
上左図は手術直後。目尻は腫脹で横に引かれていますが、頬骨隆起も後上方に引き上げられています。術後1週間で抜糸時に診ると、右側の内出血は黄色くなりました。触診上血腫ではありません。中顔面が挙がると、頬骨弓部の幅が有っても、重心が上がって顔が小さく見えます。今回の症例はここがポイントです。なんと若々しい!
斜位像は左右を観ましょう。
術前。頬骨隆起がこちらを向いて凸です。
デザイン。ここまで剥離します。
術直後。頬骨隆起部が挙がりました。
術後1週間。中顔面が優しい印象となります。内出血は剥離腔の下に黄色く露呈していますが、1週間で消失するでしょう。
側面像は術中写真も観て下さい。
術前の側面像です。下からは左側の手術時の画像。
頬骨隆起部のたるみまで剥離するデザインです。切開は生え際に、眉尻高から下に約4㎝です。
手術はまず局麻後に皮下脂肪層の最浅層まで切開します。できるだけその層で剥離していきます。途中で頬支持靭帯を皮下で切開しています。さて剥離したら、上左図の如く切除幅を決めます。前方の皮弁を後方に引くだけでなく、臥位ですから重力で頭皮が後ろに落ちていますから、用手的に押し上げてから前方の皮弁とを重ねてみます。ルーラー(定規)で示す通り、切開の中央で18㎜となりました。カットして糸を掛けています。上右図はここを結紮して寄せた時点です。
さらにマーキングして皮膚を切除します。上左図は切除皮膚で二つ合わせるとスピンドル型になります。上右図は切除時点です。
こめかみリフトは顔面神経が浅い部位ですから、SMASを触りません。したがって引き上げ力は皮膚の真皮縫合に頼ります。約4㎝の長さに12針以上掛けた時点で隙間なくします。皮膚は連続縫合で厚さを合わせます。
上には術後1週間の抜糸後の側面像。赤い傷跡は白くなれば見えません。
やはり術後の画像は送ってもらったのですが、メールから上手く取り出せませんでしたので、術後3ヶ月の来院の際の画像だけ載せます。
上左図が術後3ヶ月。上右図が術前。正面像は並べてみました。ご覧の様に張りは保てていて、後戻りは僅かです。明らかに重心が高くなりました。
斜位像でも側面像でも頬骨下の組織が上がっていて頬がスッキリしました。
当院では、厚生労働省より改定され施行された省令「医療機関ホームページガイドライン」に遵守し、ホームページの修正を行っています。
施術のリスク・副作用について・麻酔薬にて、アレルギー反応を起こす場合があります。その場合は適切な処置を行います。・腫れは個人差がありますが、手術直後から少し腫れがあり、翌日がピークで徐々に引いていきます。目立つほどの大きな腫れは1~2週間程度です。・術後のむくみや細かな左右差の改善には、3ヶ月程度かかります。・内出血が起こった場合は完全にひくまでに2週間程度かかることがあります。・感染予防のため、抗生剤を内服していただきます。・抜糸までの間、鼻下を伸ばす表情はお控え下さい。・口唇部の違和感は、2~4週間程度かかります。・手術後2週間は、口を大きく開けることはお控え下さい。・手術直後は、つっぱりを感じることがありますが、2週間程度で改善していきます。・手術当日は、洗顔をお控え下さい。・手術後3日間は、飲酒・激しい運動・サウナ・入浴など、血流が良くなることはお控え下さい。・手術後1週間(抜糸まで)は、鼻孔部位のお化粧はお控え下さい。・ケロイド体質の方は傷跡が残りやすい場合があります。
費用の説明も加えなければなりません。こめかみリフトは40万円+消費税です。ブログ掲載の契約を受けてもらえたら、こめかみリフト手術後は、顔面全体を載せますが目隠しします。出演料として20%オフとなります。PRPは糊と止血に有用で現在モニター症例では10万円+税を頂いています。