形成外科と美容外科は一応違う診療科目です。共に美容医療の範疇ですが、原因のある異常な形態を治すのが形成外科。正常範囲の形態を向上させるのが美容外科。でもどちらも共に、上に書いた様に形態、それも”顔面を主な対象とする体表面に近い部位の形態”を改善するという行為が行われます。ですから、顔面の解剖学的構造、神経血管などの走行を知り尽くしていなければ美容医療手術も、ましてや中を見ないで行う注射も出来ないはずです。
通常形成外科診療は病院で為されます。他科との協力が必要な場合もありますし、多発外傷などはもちろん、先天性疾患なら生下時からの継続的診療が必要だからです。そして、さまざまな原因でさまざまな形態異常を治す為には、解剖を知り尽くしていなければならないのは当然ですが、逆に、既に中身が見えてくる患者さんもいるので、医師や医療従事者が肉眼で確認できるから、解剖を学ぶ機会が多いのです。
それなのに、美容外科診療にいきなり就く医師が、いまだに多く居ます。巷間の美容外科では、形成外科を研修しないで、いきなり新人を雇います。多くのチェーン店系がそうです。彼らはビジネス(彼ら自身がその様に言っています)ですから、新人を安く雇い(卒後)医学教育無しに使います。いつも言いますが、大学医学部の学生時には一応解剖学を学びますが、局所の詳しい解剖は学ぶ時間がありません。ですから、専門分野の卒後教育がなければ精密な手術の機会は得られないはずです。チェーン店系に雇われた新人の彼らは、見よう見真似で切らない美容外科、いわゆるプチ整形からやり始めます。切らない手術や注射ばかりでは体表面の皮下の解剖さえも学べません。
もう一つ、美容医療の専門用語と、一般人が使う美容の用語は時に違って認識されています。原因の一つには、広告時に一般人に合わせて、わざと間違ったりしているクリニックが時折見受けられます。私は出来るだけ、(美容医療)医学用語と一般用語を併記、または両方言い添えて患者さんに伝えます。間違って流行している用語はブログでも時折説明しています。
さてなんでこの様なことを強弁したのか?。実は、鼻唇溝は解剖学的構造の細かい部位なんです。それに用語が混乱しています。
まず用語ですが、表題に書いた様に、鼻唇溝は洋語でNaso Labial foldと呼びます。訳語の意味は直訳で鼻翼から口角の横に流れる溝です。ちなみに法令線の英訳はありません。本態は表情筋のうちの頬骨筋群の停止部です。笑う時に、皮膚の裏側に付着した筋が斜め上に皮膚を引き込む為に出来ます。だんだん皮膚が折れ返って刻まれていきます。また鼻翼の横は、骨格的に深い凹みで、外側の溝と鼻翼の付け根と口側で三角形の凹みを作っています。ここだけでも埋めたら、溝が上から下まで押し出されて目立たなくなります。私は経験上知っています。しかも鼻翼も前に押し出されて若干鼻が高くなる効果もあります。何度も言いますが、鼻唇溝は線でなく、表情ジワが刻まれていった溝で、特に鼻翼の横の三角が深いので、埋めるところを間違えない様に心掛けています。
ところで鼻唇溝周辺には、解剖学的に難しい点が幾つかあります。まず血管ですが、眼角動脈と言う太いのが、鼻唇溝の最低5㎜外側を走っています。これは顔面動脈から目頭へ向かい、表情筋の前を走行しています。また鼻翼への枝も枝分かれしています。ですから、プロテーシス挿入のためのポケットは梨状口縁から骨の前だけに造ります。そうすれば動脈はポケットの前だけにあり、剥離時に剪刀(手術用の鋏)を閉じなければ動脈を傷つける危険はありません。この様な解剖的構造は形成外科医は見て知っています。なぜなら、ここの動脈を使って鼻の基底細胞癌の再建の為に皮弁を回す手術は定番で、直接動脈を見て知っているからです。次に神経ですが、縦に下眼窩神経からの上口唇枝が放射状に走りますが、筋層の裏側を通るので骨の前で剥離すれば触りません。これは白唇短縮術の際に知っています。
まだまだ用語や解剖の知識の間違いは多々あります。日常診療で、患者さんが語る言葉や情報(学術的”知識”でなく、あくまでもSNS上の情報)に対して、一々私は修正を加えています。最近はちゃんとJowl fatとかMalar fatという言葉を使って効いてくる人も居ます。その様な患者さんを診察する際は、話が進め易く、しかもお互いの理解も深まり、治療結果も良好です。巷間で鼻翼基部プロテーシスと宣伝広告しているクリニック(特に韓国)が目立ちますが、用語は大間違いです。ちなみに今回の患者さんは永らく私に罹っていて、鼻唇溝に定期的にヒアルロン酸を注入してきました。私の注入部位に満足されていました。チェーン店系で注射を受けて、血管や神経を傷める合併症が報告されていますから、私が原因を説明してきました。その際解剖学的な注意点も教えてきました。ですから#”鼻唇溝プロテーシス挿入術”を受ける考えが固まったのでしょう。
症例は30歳女性。ある時いきなり「鼻唇溝プロテーシスして下さい。ヒアルじゃコスパ悪いし〜!。」とかわいい顔して何げなく言ってくる女子です。永年で信頼関係が醸成されているからで、もちろんブログも観て下さっているから理解が深いのでしょう。カルテを読み直しますと、約10年前から来院されています。当初は私に罹っていませんでしたが、8年前から私が担当しています。涙袋を造ってきました。これが似合う女子で、毎回私が喜ばせて、毎回私が「可愛いい!。」と誉めてきました。その後私が他の部位も手術させて頂き、毎回お喜びでした。3年前に鼻の診療中に、鼻唇溝が深いのを気にされ、歯槽の傾斜があるからとも指摘しています。頤プロテーシスで対処しています。やはり気になる鼻唇溝はH-Aで埋めてきました。そしてある時突然上の様に”もう手術しちゃおう”となりました。
画像は各方向を経時的に追いましょう。正面像から。
上左図が術前。上右図が術直後。比べてみると明らかで、術前はやつれて見えます。術後は可愛らしさ倍増です。
上左図の翌日はフルメイクで来院されました。口元が綺麗です。魅せてくれます。ということは社会復帰可能だからです。鼻唇溝プロテーシスはダウンタイムが短いし、マスクで隠せます。有頂です。腫脹で動きが落ちています。患者さんは「笑えないんです。」と言っていましたが、それも腫脹の為です。治ります。
上右図は術後1週間の抜糸後。鼻翼内側の傷の部分を押してもプロテーシスは触れません。プロテーシスはだから適切な位置にあり動いていません。聴くと、周囲に若返ったと云われたそうです。年齢は高くないのですが、違いは→鼻翼横の鼻唇溝上三角の窪みにプロテーシスを入れると、実はヒアルロン酸でも、ほうれい線が裾広がりになります。すると、笑顔に見え、明るい雰囲気となり、結果的に若返って見えるのでしょう。副次効果です。それに社会復帰の早い手術ですから、周囲から評価が得られるのです。
術後1ヶ月を経ました。いろいろ話したかもしれませんが、一言で「嬉しい!。」との感嘆。こう診てくると、鼻唇溝の鼻翼の横の三角形の窪みが、術前は深かっただけでなく、狭くて窄んでいました。術後は浅くなっただけでなく、三角形が大きくなって、ほうれい線が広がって、笑っていなくても、微笑み顔に見えます。
近接画像で術前から術中画像を観ましょう。上左図は術前。上右図はデザイン後点線で入れるべき三角形の凹みを囲みました。
毎回撮り損ねるのですが、鼻翼の内側の切開は見えません。見えない部位だから受けるのです。プロテーシスは顎プロテーシスの最小版を切り分けます。最大厚さが6㎜です。上右図がそれですが、もう切り分けました。これを左右の三角形に合わせて剪刀で削っていきます。上右図は器械台の上に、ペンで実物大?の鼻の画を描いて、置いてみました。厚さは4㎜です。
今度は上左図の様に、鼻唇溝の上に置いてサイズを確かめます。すでに切開とポケット作成は終わっていて、プロテーシス作成の間は創とポケットにガーゼを挿入していました。出血は吸い出されて見えます。上右図は挿入後で縫合も終わっています。挿入は約1㎝の切開口から骨の上に滑り込ませます。プロテーシスを乗せた厚さと術直後はマッチしていますね。
上左図の翌日は腫脹がピークです。影響して鼻翼も広がっています。必ず治ります。鼻翼横〜白唇〜赤唇にかけての前後位置が整うと確かに綺麗な口元で、女子力がアップします。
上右図は抜糸後。また綺麗にメイクしてくださりセクシーな女子を魅せます。
4方向では法令線が変わっています。
上列の術前と下列の術直後を比べると、法令線の長さが浅くなっているだけでなく短くなっています。ただし腫脹が影響していますから、次回に診て確かめましょう。
本症例の患者さんはE-ラインが直線上ですから、深い鼻唇溝がもったいなかったのです。赤唇は形が綺麗です(入れています)(生来綺麗ではあります)。顎があるので口元がスッキリしています(入れました)。でもキャラクター的に美しくいたい心掛けが高く、こちらとしても好結果を得られて、楽しい患者さんです。
上4葉は術後1週間で抜糸した後。E-ラインとの関係が赤唇を引き立てます。アッ、おとがいは私が入れたんでした。鼻唇溝が浅くなると口元がより明るくなります。
術後1ヶ月です。どこから見てもセクシーな口元です。
当院では、厚生労働省より改定され施行された省令「医療機関ホームページガイドライン」に遵守しブログに加筆しています。もちろん画像操作はありません。
施術のリスク・副作用について・麻酔薬にて、アレルギー反応を起こす場合があります。その場合は適切な処置を行います。・腫れは個人差がありますが、手術直後から少し腫れがあり、翌日がピークで徐々に引いていきます。目立つほどの大きな腫れは1~2週間程度です。・術後のむくみや細かな左右差の改善には、3ヶ月程度かかります。・内出血が起こった場合は完全にひくまでに2週間程度かかることがあります。・感染予防のため、抗生剤を内服していただきます。・抜糸までの間、鼻下を伸ばす表情はお控え下さい。・口唇部の違和感は、2~4週間程度かかります。・手術後2週間は、口を大きく開けることはお控え下さい。・手術直後は、つっぱりを感じることがありますが、2週間程度で改善していきます。・手術当日は、洗顔をお控え下さい。・手術後3日間は、飲酒・激しい運動・サウナ・入浴など、血流が良くなることはお控え下さい。・手術後1週間(抜糸まで)は、鼻孔部位のお化粧はお控え下さい。・ケロイド体質の方は傷跡が残りやすい場合があります。
費用の説明も加えなければなりません。今回の手術:鼻唇溝プロテーシス挿入術は両側で28万円+消費税です。ブログ提示の契約を頂いたら出演料として20%オフとなります。