続きです。
水晶体は、ご存知の通りレンズですよね。とは言っても、カメラのレンズはガラスですから、厚さを変えられないので、前後に位置を変えてピントを合わせます。しかし、人間のレンズはガラスではなく、軟らかく厚さが変えられる仕組みです。厚みを変えられるということは、屈折率をかえることができると言う事です。凄いですよね。ここで屈折が出てきました。目に入ってきた光は、水晶体で曲がって、近くの物を見る時は水晶体が厚くなって(丁度遠視や老視の人が厚いレンズの眼鏡をかけているのと同じですね。)網膜に像を結びます。遠くを見る時は、水晶体が扁平になってピントを合わせます。これが屈折です。
よくカメラや目の仕組みを説明する絵として見ますよね。ろうそくが網膜で逆さに映ったり、フィルムに写るヤツ。レンズ(動物では水晶体)がピントを調節して、像を結ばせるのです。そこで大事なのは、ピントが合わないと見え方がぼやける。つまり視力が落ちるという事です。実は視力の要素の中では屈折調節が大きいのです。近視、遠視、老視。乱視、これらは屈折調節障害です。正視では、約30㌢から無限遠までを水晶体が調節して網膜に映せます。何らかの原因で調節が不良になったのが、上記の屈折異常です。近視は近くしかピントが合わないので、3mの視力検査ではよく見えない。遠視は3mは良く見えても近くが良く見えない。老視(老眼)は、水晶体の弾力が落ちて厚くできなくなった状態で、近くが見にくくなります。乱視は角膜がドーム型で無くなった為に像が合わなくなる為に起きます。
ここで、度数という言葉を出します。屈折率を表す数字です。ディオプターと言います。ピントが合う距離の分数です。1/焦点距離です。正視では無限遠から33㌢にピントが合う目だとすると、1/∞=0〜1/0.33=3に調節可能な屈折率を持ちます。屈折率の範囲は3あります。これなら、生活で不便はありません。近視では例えば、1mから25㌢にピントが合う目なら、1/1=1〜1/0.25=4です。ここで近視の人でも屈折率の範囲は3ある事が重要です。正視だった人が老視になると例えば、無限遠から50㌢になります。つまり、1/∞=0〜1/0.5=2となる訳で、調節できる範囲は2となります。これが老視の本態で、屈折率の調節範囲が狭くなるのが、老視です。もちろん眼鏡やコンタクトレンスで矯正すれば見える距離を変えられます。レンズはやはりディオプターで選びます。1〜4の人には1度(ディオプター)のレンズを使えば、0〜3に矯正できます。つまり正視と同じ距離が見える様になります。これが度数です。ところが、老視では例えば0〜2だと1度のレンズを使うと、1〜3になり、近くはよく見えても1m以上はピントが合わなくなります。近くだけ老眼鏡を使うのはその為です。水晶体は必ず、加齢と共に弾力を失い、40歳代からは自分でも判ります。私は今、近くは1.5D、遠くは0.5Dの矯正をしています。でも、そうしていればよく見えます。
なんでこんなに屈折にこだわったのかというと、私達の患者である加齢性(老人性)眼瞼下垂症患者さんは、皆さん老視を伴っているし、若年者では近視者も多いからです。術前術後に患者さんによく問われます。でも度数を聞いても、視力しか知らない患者さんがほとんどで、答えようがありません。視力値からは屈折率は判らないからです。度数は眼鏡やコンタクトレンスの選択の際には処方箋としてもらいます。覚えておくと便利です。眼瞼下垂症の患者さんで手術前と手術後でピントが変わる人がいます。近視が改善する方向で、いい事ですが、老視症状は悪化しかねません。老眼鏡を作り変えればいいのですが、これは負担がかかるので文句を喰らいます。困らない方がほとんどですが、知識人やスポーツマンでは、近くの見え方に敏感なので、予告しておく様にします。だからその為にも、社会状態が術前に必要なのです。そして、実際に困られた患者さんもいます。もちろん老眼鏡を変えてもらいました。患者さんが度数を知っていたから対処できました。
卑近な例ですが、娘が先日眼鏡を壊れたと言うので、急いで買いにいきました。「度数知ってるの?。」と聞いたら、「コンタクトレンズに書いてあるヤツでしょ。」というので、「Dだよ。」と言ったら「1.5Dって書いてある。」と言います。眼鏡屋さんで1.5Dのレンズを選んで掛けたら、「バッチリ見える。」と娘は言い、可愛いフレームを選んで、ニコニコして買ってあげました。度数を知っていると矯正が簡単で、視力が得られるという事です。娘はスポーツ(テニス大好き)以外は眼鏡で、ちゃんと勉強もしている様です。
ちなみに私も半年程前の朝に老眼鏡を壊してしまいました。手術用の物で、これが無いと手術ができません。昼に慌てて近くの眼鏡屋さんに駆け込んだのですが、度数を忘れてしまい。壊れた眼鏡のレンズを調べてもらって、同じ度数にしてもらいました。老視は進むものですから、年に一度は計った方がいいです。先日測ったら、まだ今の度数で使えましたが、いずれは変える様でしょう。
最近は患者さんにはできるだけ、屈折の症状も聴く様にしています。「近くと遠くはどこまで見えますか?。」「矯正は合っていますか?。」などと聴けばつかめます。もし術後に変わっても、説明できる様にしています。眼瞼の手術は奥が深いのですよ。
本日屈折の話に重きを置いてしまいました。患者さんへの啓蒙と、患者さんを手術する私の確認の為です。次に網膜の話をしようと思いましたが、長くなったので次回に続けます。