2013 . 9 . 18

美容医療の神髄本編―美容医療の基本―その2治療:形成外科的縫合とは

美容医療の中で、皮膚科的分野は置いといて、今回は形成外科、美容外科の分野での、侵襲を伴う治療について、その機序、生理、解剖について述べたいと思います。

まず、今回は切開手術に於ける、形成外科的縫合の意味、特徴、違いについて述べると共に、形成外科の優位性についても触れます。

縫合:これまで、26年間形成外科医として、診療してきて、もっとも啓蒙が不足で、そのためもっとも残念な点。何のために、形成外科を受診するのか?。なぜ形成外科医が顔面を手術するべきなのか?。何が言いたいのかというと、私達形成外科医認定医が手術したら、傷跡が消えるに等しいからです。本当?。また偉そうなこと言ってエ~。という声が聞こえそうですし、「だって顔出し,怖いし、傷跡が残るんでしょう?。」といわれると、「じゃあ!外科や皮膚科で手術したらア!。どんな事になるかは知ってますよ。その跡見たら悲しくなりますが・・。」なんて、突き放したくなりつつも,そこは抑えて、「心配しないで下さい。」と、言って、手術します。そこからが腕の見せ所です。丁寧に,時間をかけて、1㎜の隙間も無く縫合します。1週間で抜糸したら、メイクで隠しましょう。だいたい1ヶ月で傷跡は見えなくなりますよ。その後私が見ても,判らない。「どこ手術しましたっけ?。」と訊いてしまって、「この医者馬鹿じゃないの?」って顔されても、「傷跡見えないのでよかったですね!。」と言ってかわします。

さて、戯言は置いておいて、何故形成外科医の手術は傷跡が消えるのでしょうか?。=真皮縫合の質が、その全てです。真皮縫合って何?。最近術中に「皮膚の裏側をしっかり合わせます。」というと、理解してもらえます。裏側って?。次の皮膚解剖で詳しく説明します。

臨床的皮膚解剖:皮膚は表面から,表皮=厚さ0.2〜0.5㎜程度の細胞層で血行は無いが,細胞は再生するため元に戻る。ダメージに対し,数日内に細胞分裂して、カバーします。そして次が大事です。表皮のすぐ下に真皮=厚さ1.5〜2.5㎜程度の弾力のある層、コラーゲンが主体で,毛細血管や神経も豊富、コラーゲン等は繊維芽細胞という細胞が作る。ダメージに対してコラーゲンを生産し,隙間を埋める。コラーゲンは日本語で,膠原繊維と言い、日常見るものとしては,にかわ=煮こごり、または豚足のゼラチン。それが硬くなった感じ。ただし生体内では、コラーゲンがしっかり固まるまで約3ヶ月かかり、その間に負荷がかかると、折角できたコラーゲンが引き延ばされ、脆く薄いコラーゲンができてしまいます。つまり凹む、またはつるっとした皮膚になってしまいます。逆に、傷がなかなか治らないときには、繊維芽細胞のコラーゲン産生がいつまでも続き、コラーゲンが盛り上がります。これがケロイドやケロイド状(=肥厚性瘢痕)です。

皮膚の傷跡の性状を、元通りの皮膚に近づける為には、傷跡の弱く薄いコラーゲンをできるだけ少なく,平らにすればいいのです。そこで,先程の真皮縫合がものをいいます。

形成外科的切開縫合法:縫合に戻ります。真皮縫合は、文字通り真皮を縫い合わせることです。そして、真皮のコラーゲン線維が成熟して密になり、もう伸びなくなる約3か月は、支えていてもらいたいのです。ですから、表には糸は出しません。あくまでも真皮層だけを合わせます。現在では、3か月で吸収される糸を使用しています。創傷の治癒過程を比較ながら、もう一度説明します。表皮は、約4日目には再生して、創縁を埋め、シールします。だから顔では7日間、他の部位でも、2週間で抜糸します。真皮縫合をしない縫合法では、この後真皮層が成熟するまでの期間に、傷の間をうめる薄く、平板で弱い(幼弱なといいます)瘢痕のコラーゲンが。引っ張られることで伸びていってしまします。つまり平板な真皮層の帯ができてきてしまいます。表皮層は引っ張られると伸びても避けません。広がりつつある瘢痕性真皮層の上に乗っています。そうして気が付くと、ツルッとした、皮膚の紋のないいわゆる傷跡ができます。ここで間違った認識をしている人が少なからずいますので、説明しておきますが、この瘢痕をケロイドという人がいます。Ⅱ度のやけどの跡も、ツルッとした皮膚になることが多いですよね。そして、もっとひどいⅢ度のやけど跡はケロイドになることが多いのです。ケロイドとは、傷跡が赤く、または赤茶色く盛り上がった状態を言います。ミミズ腫れともひょうげんされることがありますよね。これらを混同している人が少なからずいらっしゃいます。また、縫合創でも、場合によってはケロイドや、ケロイドもどきになります。話しを戻します。真皮縫合の目標は何かというと、真皮の瘢痕性コラーゲンが成熟してもう広がらなくなるまで支えることですから、真皮縫合が終わった時点で創が隙間なく寄っていれば、その後も瘢痕に幅ができません。そうして幅0mmに等しい傷跡になれば、見えなくなるのです。傷跡が消えるに等しい?。ホント?。との疑念はこの説明を読んだら解消するでしょう。ホントです。そのために私達形成外科は手間をかけます。保険診療で費用が同じでも、私達形成外科医は、特別に手間をかけて差し上げます。

真皮縫合の話しに終始しては片手落ちなので、切開から説明します。その前にデザインですが、丸いものを切り取って縫い寄せると凸凹になるので、直径の2~3倍の紡錘形にします。ところで、私は英国製の刃を使っています。英国はGiliesという近代の形成外科の発祥者がいました。世界中のほとんどの形成外科医はこれを愛用しています。創縁が線にできるスグレモノです。切開は、皮膚に対して垂直か、80度程度八の字に切開するのがコツです。Vの字に切開して寄せたら線が凹んでしまうからいけません。その後真皮層の下で皮膚を外して縫い寄せるのです。毛細血管を極小の二股電気メスで挟んで、血は完全に止めます。それから肝心の真皮縫合です。身体はほとんどの部位が緊張がかかるので、八の字に切開して、真皮縫合でしっかり寄せて、創の線を畝の様に盛り上げます。硬くなるまでに平らになりますから、心配いりません。顔面ではぴったり平らにします。そのためには、皮膚の表面の縫合も大事で、真皮縫合終了した時点で残った0.1mm単位のずれも許しません。皮膚縫合で段差が一切ないように縫い上げます。術後に血が滲んできても、創縁間に固まって挟まらない様に軟膏で溶解しておきましょう。ほくろなどの手術は怖くありません。ただし私は手間をかけます。時間も掛けます。ここまで形成外科的手術法の基本を説明しましたが、他科の医師はここまでしません。ほとんどの形成外科認定医でない美容外科医も、この技術を研鑽していないでしょう。

今回は、切開縫合という形成外科手術の基本を詳しく説明しましたので、ほかの点については次回としましょう。次回は形成外科の優位性である顔面解剖と生理機能の知識について述べていきます。

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