前回やっと各科目のうち形成外科を詳しく説明しました。見直してみたら、学会のカテゴリーの説明に終始していました。もっと広くコンセプトを説明したいとは思いましたが、それでは進まないので、もう一言、コンセプトを述べます。
医療とは、第一に生命の存続を助けることが至上目的とされ、第二に身体機能の改善、温存が目的に加わって来ました。病気や怪我で死なない様に救う医療と病気や怪我で生活が困難になるのを社会的に救う医療が主体でした。では美容医療はというと、形態の変形によって、社会的な損失を被る場合や、形態に対する劣等感で、精神的な損失が社会的に影響している人間を救うことが目的と考えられます。つまり、個々人の形態の改善は社会的な要請であり、個人の人格の向上にもつながると考えてよいと思います。
第一の生命の救命、第二の機能の改善と同様に、第三の医療として形態の改善も、国家の国民の社会的向上を目的としていると言えます。
美容医療は形態を改善するとしても、その閾があります。形態の評価には、個々人は主観的な閾を使いたくなりますが、医療をする限りは医学的評価基準が必要です。国民が、容認できる基準は見いだせます。その上で、零点を設定し、マイナススタートからの美容医療を形成外科が、プラス指向の美容医療を美容外科が担当することになったとされています。これは各学会が境界線を引いた際のコンセプトとして記載されています。形成外科医療は原則保険診療で、美容外科医療は原則自費診療です。
そこで形成外科ですが、マイナススタートと言うことは形態の損失に原因疾患が存在するかです。その原因を羅列したのが、前回の学会のカテゴリー分けに反映しているのです。もう一度基本的コンセプトをいえば、形成外科医療は、原因がありそうな形態異常や機能的損失を伴う傷病の治療における形態的な損失の最大限の減少を目的とします。
そこで、前回は美容医療の基礎的素養として日本形成外科学会のカテゴリーを説明しましたが、さらに学会のカテゴリー毎に、コンセプトに一致するかを考えてみます。
- 新鮮熱傷;救命を必要とする場面もありますが、形態的損失は計り知れないので、形成外科の診療知識で最大限改善を計ります。
- 新鮮外傷;顔面骨骨折および顔面軟部組織損傷;もちろん体表の形態的損失を最小限にするために形成外科医の腕の見せ所ですが、体表近くの神経や、血管の解剖的知識は形成外科医にかなうものはありませんから、その点での機能と形態の構造的相関も形成外科医療を必要とする所以です。
- 唇裂・口蓋裂;手、足の先天異常、外傷;その他の先天異常;単純に他人より造作が劣っているというだけでなく、先天的な異常範囲という閾がある形態損失は、形成外科領域です。機能的な損失は軽微でも併発しているものです。例えば、口唇裂はただ縫えば食物は漏れなくなりますが跡が目立ちます。今や形成外科の技術で判らなくできる様になっています。手足の指の損失は、母指(親指)以外では、機能損失はほとんどありませんが、(有名なのは昔の野球のH選手)やはり見せたくないものです。形成外科では、形態的にも機能的にもできるだけ取り戻す治療を心がけます。
- 母斑、血管腫、良性腫瘍;悪性の可能性が皆無ではないので、切除生検手術をするとしても、形成外科医は最高の技術を持ってして、形態的な損失をもたらさない様に丁寧に縫合します。具体的には真皮縫合が鍵で、皮膚の裏をピッタリ合わせれば、創跡は見えなくなります。
- 悪性腫瘍およびそれに関連する再建;取って調べて、万が一悪性だったら、拡大切除しないと生命に関わります。その場合でも形成外科では形態の損失を最低限にするようにいろいろな方法を駆使します。
- 瘢痕、瘢痕拘縮、肥厚性瘢痕、ケロイド;初期治療が不適切で傷跡が目立つ際に、目立たなくする形成外科の治療は原因がある限り(体質も原因です。)、形成外科医療の対象となります。また傷跡が引き攣れて機能障害がある場合にも、形成外科の技術を駆使すれば、機能障害の改善と形態の改善を望めます。
- 褥瘡、難治性潰瘍;形成外科は体表付近の治療を主体としますから、皮膚軟部組織の治療法に精通してきます。皮膚科は手術しないのが通常ですから。
- 美容外科;形成外科の診療カテゴリーに美容外科が入ったのは、最近で、以前は整容外科とかいう訳の解らない項目でした。でも、何度も言いますが、本邦では形成外科と美容外科は、別々の標榜科目です。ですから、後日美容外科の説明をします。
- その他;加齢現象での機能障害を伴う形態異常の中で、顔面等ではやはり形態が重要なので、形成外科の知識と技術が必要です。後天性眼瞼下垂が典型的です。
またまた、説明始めたら、長くなってしまいました。簡単にコンセプトを説明しようと思ったのですが、具体的に該当する内容を記載しないとご理解が得られないと考えました。
とのことで次回美容外科の説明を、やっと始めたいと思います。