4ヶ月前に大きなほくろを切除し、皮弁形成術で再建した患者さんが終了診察に来院してもらえましたので、提示します。
上左図の如く、長径12㎜で口の横なので、縫縮すると変形を来す可能性がるため、広報の余裕がある部位からの皮弁形成術で被覆し、変形を回避しました。上右図がデザインです。
上左図が1週間後の抜糸時です。一部抜糸時に出血しています。上右図がその1週間後です。まだ糸の跡が見られます。画像では解りませんが、縫合創跡は硬く触れます。真皮縫合の影響です。
ご覧の通り、縫合創跡は赤く見えます。聴くと「時によります。」と優しく患者さんは言ってくださいました。私も合わせて「日によるでしょう。時にもよるのでしょう。血行の影響です。何年余を得て通常は白いのが、例えば飲酒すると赤々と浮き上がって来る人もいます。」と図に乗って説明し、さらに傍らのナースも「そうそう、お風呂入ったら赤くなるって言われたことあります。」と付け加えてくれました。要するに形成外科医が縫合しても、傷跡は消失するとは限らないということです。個体差があるのです。症例患者さんは、普段は目立たなく、気にならないそうです。
4ヶ月前に記載しましたが、本症例患者さんは形成外科医療の技術の違いをご存知で、ブログ提示して皆さんに理解してもらえるなら、喜んで協力すると申し出て下さいました。感謝いたします。そこでもう一度ほくろ等の除去術について説明します。
ほくろでも何でも、できものが目立って邪魔な時に、取り去りたい気持ちは誰でもあり得ます。これは美容上の適応ですが、病変が大きい際は場合により悪性を否定する必要があります。そこでひとつ覚えていておいて下さい。悪性を心配するなら、切除して病理組織学的検査に提出することが肝要です。時折少なからずの患者さんが、「悪性だったら触ったらよくないんじゃないですか?。」とか「取ったら悪性になるんじゃないんですか?。」とか迷信みたいなことを言います。反知性主義国民なので仕方ないのですが、そんな時私は「それがもしも悪性なのに取らなかったら、転移して死んじゃうかも知れませんよ。その時に責任は取りませんよ。」と言い放つこともあります。怪しかったら切除し検査することが先決です。くれぐれも、医師の診断に従ってくださいな!
ほくろが悪性である可能性は、我々専門家なら視診でピンと来ます。10年前からはダーモスコープという拡大鏡で、深部も透視して診断しています。普通のほくろで悪性が隠れているのは万が一程度の確率です。小さいものほど率は低く、径3㎜以下では10万分の一以下です。それより大きい物は病理検査に出す方が安心です。もし視診で怪しいときは速やかに手術視病理検査するようにお薦めしています。
もう一つ、ほくろは必ず、皮下数㎜まで細胞があります。ですから、全摘するには、孔を掘らなければなりません。でも深さ1.5㎜以下の孔なら皮膚が再生して平らに近づきます。ですから、LASERで孔を掘るか、縫って閉じるかの選択が要されます。
私達は概ね3㎜以下のものはCO2 LASERで孔を開けます。ダーモスコープで深さの推測が付きます。深いものは場合によっては全摘をしません。また色が薄くてドーム状のほくろ(平滑ならイボじゃないです。)は全摘せずに平らにすれば目立たなくなるので、そうすることもあります。どうやっても創が埋まって皮膚の表皮が再生するまで数日以上かかります。その孔の中にコラーゲンが再生して平らになるのにも2週間以上かかります。その間に軟膏を塗ってテープでカバーしてWet Dressingにすることが大事です。かさぶた(痂皮)にすると凹みが治りません。一部の美容整形クリニックではオープンにしていますが、凹みが残って見える様になってしまいます。いずれにしてもCO2 LASERでのほくろ除去は出血も少なくて簡便ですが、術後ケアーが重要です。さもないと跡が目立つ結果になり得ます。
径3㎜以上でも通常1.5㎜以下の浅いほくろは、CO2 LASERで孔を開けても目立たない跡に出来ることがありますが、それも径5㎜を限度と考えます。もちろん濃いものは深いので、手術をお奨めします。青味がかったのも深いです。ほくろを取って孔が開いたら、皮膚を縫い縮めて孔をなくします。丸い孔を巾着型に縫うこともありますが、線に縫った方が綺麗です。両端に余りが出来て膨らむのでそこも除去しますから、直径の3倍近くの長さになります。線状に縫合した創跡は形成外科医の手になれば幅が出来ません。真皮縫合の技術が違います。もう一つ、線の方向はしわの方向にしなければなりません。皮膚のコラーゲンの配列に沿う為です。念のため述べておきますが、医者の中で形成外科専門医の縫合した創跡は、他科の医師の縫合した創跡とは質が違います。その修練をするのは形成外科医だけだからです。数㌢までの創跡は消えるといってもいいでしょう。
さて本症例の様に形成外科的再建術が必要なのは?。上記を超えるものです。通常5㎜を超えても縫えますが、皮膚の余裕にもよります。もちろん年齢が行けば伸びますし、場所にもよります。70歳超の患者さんで頬の真ん中なら、径10㎜のものでも3㌢の創で縫合できます。問題は若い患者さんで、部品に近いときです。
そこで形成外科の基本的な、でも特有な技術の一つに被覆法があります。皮膚や皮下組織の欠損に対し補う方法です。本来近代の形成外科医療は外傷の修復に対する要請でした。第一次大戦時にヨーロッパで発展しました。戦傷者は救命されても体表の特に顔面の欠損を残しては社会復帰出来ませんから、修復したい要請があるのです。ちなみに紀元前にインドで、ルネッサンス期にイタリアでも皮弁法は行われた記録があります。
皮膚欠損に対して、遠くの皮膚だけをいただいて貼付けるのが植皮術ですが、厚さがなく単に補うだけですから、元の皮膚と同じにはなりません。
それに対して、皮弁形成術は欠損した皮膚の厚さと同じだけの組織を移行する方法です。ただしこの場合、血行を維持しないと壊死してしまいます。そこで二つの種類があります。
一つは、血管を付けてもらって来て欠損部の血管と吻合させる方法です。遠位皮弁や遊離皮弁が当たります。かなり大きい物でも可能です。乳房再建に典型的に利用されます。ここでは割愛します。
もう一つが局所皮弁法です。欠損が小さくても、緊張があり縫い寄せられない時や、特に顔面の目や鼻や口等の配列を損ねかねない場合に、緊張を緩和して、部品の変形を避ける為に計画されます。ほくろ等でも鼻の横や口の横の大きめのものや瞼ではこれに限ります。やや大きい低悪性度の腫瘍や外傷性の小欠損でも利用出来ます。シミュレーションすれば適応が判ります。簡単に言えば術前に手で引き寄せてみれば判るのです。そこで変形が起きそうな時、余裕のある隣を寄せてみて引っ張られないならそこから持っていけばいいのです。頬や額等が余裕があります。今回の症例は口の横ですから、外側の頬から移行しました。デザインは種々ありますが、美容的に良好な方法は限られます。創跡は丁寧に縫合すれば線は目立たないです。本症例が証明しています。
ちなみに私の形成外科専門医認定の為の10症例の中には、顔面の低悪性腫瘍の切除後皮弁形成術が3例提出しました。変形無く綺麗に完治したので、学会の認定委員に誉められたのを誇りにしています。アッこれは歴史の話題だったっけ。珍しい綺麗な手術経過画像はただいま作成中です。
今回の症例により基本的な知識をかなり紹介させて頂きました。機会を与えて頂いた患者さんに感謝します。