2016 . 2 . 25

美容医療の神髄40-歴史的経緯第40話- ”口頭伝承”:父は美容整形屋、私は形成外科医。自分史話へ”その17”

私の歴史でなく、美容医療の歴史を書いてきたはずですが、私の医師7年生の時点で形外科医として深く入れ込み始めた話が続いています。繰り返しになりますが、その後美容外科医療にも入れ込んでいくに当たって、形成外科医としてのスタンスが有用性を表してきます。9年生からはさらに美容外科にも深く携わります。6年目からの銀座美容外科でのお手伝いから、そこを足場にいくつもの美容外科院に修行に行くことになるのです。とはいえ、7年次8年次の茅ヶ崎徳洲会総合病院形成外科での診療、教育、認定医試験の日々は、今でも楽しく思い起こせます。引き続き時計を戻して7年次8年次の話題を続けます。

先週は日本形成外科学会認定医試験のために提出した詳細な手術10症例の説明をしました。形成外科医療の基本の説明になったと思います。病院での診療内容もこんなところです。症例数はどんどん増やしていきます。しかし、試験場での試験に向けての勉強の座学も同時にしていかなければなりません。学会発表も試験と似たもので勉強と準備を要するのですが、発表時は試験されないし、どこの学会でもそうですが議論の時間が少ないので頭の回転の速さは要しません。じっくり研究をまとめればいいだけです。それに比べて認定医試験は筆記試験はマークシートで1時間の制限中に100問というスピードを要し、口頭試問はその場で答えを出さなくてはならないから、頭の回転を要します。

そもそも医学部卒業試験と医師国家試験以来の筆記試験です。理解と記憶を要します。ですから試験に向けて茅ヶ崎に赴任してすぐに1年前から座学の時間を作りました。何を勉強するのかというと、過去問の問題集があります。(受験生みたい。) でも実際の試験は新しい問題がメインですから、問題集は要求されるレベルを知るだけです。成書の内容を頭に入れるしかありません。そこで前に記しましたが、4~6年次に成書を読み下し、どこに何が書いてあるかをうろ覚えし、その際タグを張ったのが役立ちました。4冊の成書と2冊の解剖学図譜を並べて、問題集は400問ですが、例によって10のカテゴリーに分かれていますから、1カテゴリーに約1か月をかけて、成書の約50ページを解剖学図譜と首っ引きで見比べながら、どんどん頭に入れていきました。何を得られたのかというと、それまでバラバラに入っていた知識が、カテゴリーごとに、頭の中にまるでフォルダーを並べるかのように、まとまって知識が整理されて入るようになったのです。知識を取り出すときにも、芋づる式に繋がって出てくるようになりました。もちろん試験の時にも、頭の中のフォルダーを取り出せばすぐ答えが見つかるようになります。これは実は試験の際だけでなく、その後の診療時に有用でした。形成外科医としての質が一段上のステージに挙がったように思われたのでした。

ところでどのくらい何を勉強したのか?。実は茅ヶ崎徳洲会病院に、私は形成外科医長という立場で出向赴任しました。一人医長です。なんじゃそれって思うでしょう。でもそれが違うのです。私が診療実績を向上させたらレジデントを一人送ってもらう約束を、大学医局と病院院長とのそれぞれにしていたので、予め医長にしてもらったのです。それは翌年8年次までのこととして、ところで医長はスペースを得られるのです。レジデント(前後期研修医)は普通のデスクとその上に本棚だけなのに対して、医長以上は両袖のある倍以上の幅のデスクと、床からの大きな本棚があり、しかもパーテーションで仕切られているスペースが与えられるのです。だから持っている成書をすべて持ち込み(7年目なら本棚人竿くらいは当然ある。)デスクに常時成書を三冊と問題集と解剖書を並べて首っ引きで勉強できたし、出しっぱなしで開きっぱなしでも誰にも見られないから、診療の合間を見て時間があれば、勉強に専念できたのです。たとえば手術も外来のない日は珍しいのですが、そんな時は半日勉強に専念できたし、通常勤務の日は病棟回診後の6時頃からたいてい8時くらいまで1時間半から2時間の勉強の時間を作ることにしました。これは7年次としては優遇されていて助かりました。週5日は勉強できたの頭の中に知識が入っていくのが楽しい日々でした。

内容はそれまでの形成外科医療で身に付けて来たレベルですが、形成外科に特有の知識で、他科では知り得ない知識です。まして大学の卒前教育では全く教えられていない事がほとんどです。唯一解剖や生理等の基礎医学的知識は、卒前教育の知識がなくては理解不能なものでした。例として口唇裂のカテゴリーについて説明しますと、先ず解剖学的知識は当然必要です。次に発生学つまり顔の出来方のどこに問題があるか?、その発生率が約500人に一人は生じる事等、型が様々でそれぞれに発生率が違うこと等は、その際に私の棒に刻み込みます。さらに外科的に手術法の仕組みや種類、その特徴と長所短所まで覚えて、これで大体5問は答えられる様になります。この程度の知識でいいのですが、確実に覚えるのに10時間はかかったでしょう。これで1カテゴリーの5分の一程度ですから、多大な時間と脳のエネルギーを要して、やっと試験に臨めるのでした。

さて試験はというと2月にあり、先ず筆記試験をちゃかちゃかこなして、これだけ勉強したからいけると思いました。次に口頭試問です。試験官が三人。大学教授一人と助教授二人です。私が34歳ですから大先輩でした。そのうちの二人はその後も懇意にしてもらいましたが、もちろん現在はリタイアードです。まず、筆記試験は合格点(70点だったと思います。)だと告げられ、直ちに口頭試問を始めます。先に提出してある50の症例数は問題ないと言われ、次に詳細な10症例について、順に口頭試問が始まります。

こういう時の事ってまずい面を覚えているものです。二つ思い出しました。試験官「顔面骨多発骨折の手術後何故気管切開をしたのか?」との質問に対し、私が「多発骨折だと通常そうしています。」と答えたら、試験官に目を吊り上げて「それじゃあ答えになってないでしょう?、何故かと訊いているのです。」とにらまれました。「呼吸管理が必要だからです。」と答えたらもう一度「じゃあ顔面骨折術後はみんな気切するんですかあ?」と怒らせた。「多発骨折では通常します。」と答えながら、実は、気道閉塞の症例を経験した事があるからですが、ここでまずった症例の事は話しだせないと思い直して躊躇していたら、試験官が「だから、顎間固定するし、腫脹による気道閉塞を防ぐ為に気道確保が必要なんでしょうが!」とこちらの心を見透かして云われ、変な汗をかいたのでした。もう一問、耳下線腫瘍の症例の際に試験官は本邦でも有数の専門家でしたのでいきなり「この組織形、多形性腺腫とは何ぞや?」と基本的な知識から訊かれて「いろいろな細胞が混ざっているのです。」と答えたら、「原則論ではなく、何が入っているのか?」と訊かれ、「多種の細胞原基が入っているから多形性というのですよね?」と逆に訊いてみると、試験官は念を押す様に「軟骨です。それが決め手です」と簡単に教えてくれました。偉い先生に教えてもらって嬉しかったのですが、試問的にはバツでした。そのKy.大学のOg.教授にはその後も合うたびに挨拶をしています。教授には「先生その世界では(美容外科という意味)いい立場にあるのだから、頑張って下さい。」とか言われます。彼も日本美容外科学会JSAPSの大学系からの理事の一人でしたが、私は彼が、JSAPSでもJSASでもないShibuya整形(父親同士がライバル関係で、息子は短期だけ形成)で美容外科診療をしていたのを知っていました。もしかして負い目があったのでしょう。学会にはこんな有象無象の世界もあります。

口頭試問は一発合格とは行かずに、再試問を試験委員長に受けて、簡単な質問だったので覚えていませんが、一問一発回答で合格しました。筆記試験が充分な点数だったからとも言われました。ちなみに、北里の同年の受験者4人のうち一人は落ちました。今はもっと難しい様です。

こうして日本形成外科学会認定医(現在は専門医と言います。)を取得しました。今から21年前の事ですが、医師として形成外科医としての画期でした。私は美容外科医に成りたくて、悩んだ末に大学形成外科に入局しましたが、次第に形成外科が面白くなり、しかも認定医と成ったら、やっと一人前の形成外科医に成った気がして、さらに気合いが入りました。もっともその後の事を思えばぶれています。

学会的には、形成外科医療を極めてから美容外科診療をするべく誘導しています。日本形成外科学会専門医を取得してから3年後でないと、日本美容外科学会JSAPS専門医を申請も出来ない、定款を立てています。それは安全性と言う面では判りますが、形成外科と美容外科は違う標榜科目ですから別の専門医制度を作るべきです。そうかと思えば、その後の動向を見ると、美容外科をしたくて形成外科に入局する新人医が増えて来ていますが、下働きを9年もしていられない、こらえ性のない輩が多くいます。形成外科認定医取得の7年さえも待てないで、形成外科医局を辞めてチェーン店系美容外科に転向するものさえいます。私共は形成外科診療に携わって体表の形態機能の医学的知識を得てから、美容外科診療をもするべきだと考えています。東京皮膚科・形成外科ではそのような医師を集めています。何故なら、美容外科の医院では教育の機会が希薄で、上級医に指導能力がないからです。大学等の病院の形成外科で教育を受けながら、市中の医院で美容外科の経験を積んで行くのが、【美容医療】の良質な医師のキャリアーだと思います。

やっと形成外科医の認定医を取得した頃まで話が進みました。そう成れば次は、形成外科診療に邁進しながら、徐々に美容外科診療の経験を積んで行きたくなります。JSAPSの専門医も念頭に入れて置くべきですし、症例経験を積みたいとも思います。そこで8年次はどう動いていくのか?、研修医との形成外科診療と、銀座美容外科での美容外科診療が併行するのか?、次回はそこから再開します。