JAASは、私達が設立した美容医療の研究会です。基本的に年1回ですが、今回は5月に引き続いて9月にも開催しました。二日間の日程で、午前中は口演を連ねて、関連する手技を午後に実演します。所謂ライブサージェリーです。日曜日に今回の二大テーマのうちの一つの眼瞼下垂手術の手術を私と池田先生で1例ずつ行いました。
私の担当は2例の診断と、そのうちの一例の切開法の実演でした。実はいつものやつです。
まずは術前と術直後の画像を提示します。
今回は翌日と翌々日までの経過写真を戴きました。
本症例の術前画像をご覧いただくと、挙筋滑動力は正常だが、若干の開瞼不良が診られ(MRD2.5㎜)左右差もある。その結果として重瞼にも左右差が見られ、眉が挙がっている。蒙古襞の突っ張りの為に目頭から上眼瞼内側の瞼縁が引き下げられていて、皮膚も引き下げられている為に末広型の二重で結果として吊り目が見える。
この状態に対しては、いつものやつ=眼瞼下垂手術切開法に重瞼固定を加えます。挙筋は内側をLT法で引き締め、外側はMT法でも銃剣固定が出来ることをお示ししました。目頭の蒙古襞による拘縮の解除術は一辺4㎜のZ−形成法を重瞼線に連続させました。
術直後は軽度の腫脹が生じました。私としては通常程度だと思いますが、見学者や聴衆は「腫れて無いですねえ!」と感嘆してくださいました。瞼縁の形は、ご覧の様に内上がりでLT法の糸が掛かっている点にnotch;切痕=切れ込みさえ見られますが、経験上=本ブログの過去の症例でもご覧いただけますが、必ず落ちて来て丁度良くなります。敢えて今回は外側をMT法で重瞼固定したので余計に目立つだけです。またその点から目頭に向かっての瞼縁が直線的なのは腫れて引っ張られているからです。目頭の蒙古襞の拘縮が治ってないからじゃあないか!と指摘する聴衆も居るかと構えていたのですが、そこまで理解している医者は居ませんでした。残念ともいえますが、その程度のレベル相手だからこそ、ライブの意味があると言うことです。過去のブログを見れば、徐々に瞼縁が丸くなって結果的にアーモンドアイになるのは判り切っていますよね。
術直後より翌日の方が腫脹亢進するのはいつもの通りです。膨らむ為に当然に開瞼がしにくくなります(フラッシュの反射の位置に注目)。翌日より翌々日と腫脹が亢進する筈ですが、挙上(立位や座位)と冷却を励行すれば軽減傾向となる症例も多いです。本症例では翌日は品川院で朝診たら腫れていたそうですが、翌々日の昼近くに私が診た際には、引き始めていました。この分なら、予定通り1週間の抜糸の頃には社会復帰できましょう。
敢えて外側の挙筋の強化をしなかったのですが、瞼縁のカーブがアーモンドにならなかったらLT法だけの追加をして差し上げます。そういえば、前回のJAASの症例もその後何回か修正しました。切らない手術は簡便なので、修正追加をサッと出来るのがメリットです。微調整はダウンタイムを要するなら見合わせることが多いのですが、ダウンタイムが無いに等しいなら希望に応じてすぐにします。特に提示症例では経過の一貫として使わせてもらえますから、こちらとしても歓迎します。
JAASの学会としての進行上時間が取れなかったので(私も開催者の一人ですから遠慮しました。)、私は口演できませんでした。そこで、いつもの知識の紹介の代わりに、プレゼンテーションの為に作ったファイルを下に添付します。これは眼瞼下垂と目頭切開の普遍的な知識のまとめとなっております。
眼瞼下垂症とは?
- 第一義;上眼瞼挙筋筋力の低下
- 第二義;上眼瞼挙筋力の瞼縁への伝達不良
- 第三義;抵抗勢力(主に前葉)の存在
歴史:文献的考察 術式の変遷
- 1950年; Blaskovics, operation of eyelid ptosis
- 1952年; Berke, resection of the levator muscle through a incision in congenital ptosis.
- 1971年; Fasanella-Servat, resection of the conjunctiva,tarsus, and müller’s muscle using a conjunctival approach.
- 1971年; Beard, Fascia lata
- 1975年; Putterman, Müller muscle-conjunctiva resection.
- 1985年; Anderson, anterior approach for levatoraponeurosis shortening
- 2000年; Matsuo K., 腱膜剥離:Disinsertionの修復術
眼瞼下垂症の分類 筋性(狭義)と皮膚性(広義)
1、筋性 先天性=筋原性;Myopathy 後天性=腱膜性;Disinsertion,attenuation
その他=神経性、外傷性、ホルモン性
2、皮膚性(前葉性) 先天性一重まぶた&蒙古襞の拘縮 後天性加齢性皮膚弛緩
眼瞼下垂症の原因
- 先天性;遺伝性、症候性、アジア人(モンゴロイド人種)
- 外傷性;神経性、瘢痕性、上眼瞼挙筋障害
- 後天性;慢性擦過による腱膜性(コンタクトレンズ長期装用を含む)原因不明の腱膜性
- 前葉性;皮膚性、前葉の抵抗勢力、眼窩脂肪ヘルニア、蒙古襞の拘縮=吊り目
鑑別診断
- 病歴;⑴先天的 or 非先天性→親の聴取⑵手術歴⑶疾患に伴う合併症
- 視診;⑴一重瞼 or 二重瞼⑵前頭筋 ⑶Chin up
- 動態的視診; ⑴眼位による差⑵Simulation ⑶FMST
- 計測:⑴LF,Levator Function(挙筋滑動距離) ⑵眼裂横径/内眼角間距離/角膜中心間距離
- Fenirephrin (Neosynesin) test=Simulation
- 錘等の松尾法検査
病態別治療法
- 後天性腱膜性→腱膜修復術(前転短縮の必要が無いかは筋力による)=通常はLTで可能
- 先天性筋原性→挙筋前転(Tucking)か短縮(Shortening)
- 先天性皮膚性→重瞼術埋没または切開法(重瞼固定は必須)眼窩脂肪焼灼は邪魔な際のみ。
- 加齢性皮膚性→皮膚眼輪筋切除。重瞼再建。
- どの場合もLT法か前転の使い分けで、術中判断もあり。
- その他→当科の守備範囲ではない。
では、切開法の眼瞼下垂手術に於いて目頭切開を併施するべきか?、切らない眼瞼下垂手術=黒目整形に於いて目頭切開を併施するべきか?。Simulationとセンスと希望次第
内眼角形成術の歴史:術式の変遷
- 1975年; Mulliken, W-epicanthoplasty
- 1984年; Lessa, Double Z-epicanthoplasty
- 1996年; Ma S, L shaped epicanthoplasty
- 1996年; Park JI, Z-epicanthoplasty in Asian eyelids
- 1978年; Kao YS, modified Y-V
- 2000年; Lee Y&E, anchor epicanthoplasty
- 2000年; Park JI, modified Z-epicanthoplasty
- 2002年; Yoo WM, Root Z-epicanthoplasty
- 2006年; Zhang H, A new Z-epicanthoplasty
- 2007年; Oh YW, skin redraping
- 2007年; Park Z-epicanthoplasty
- 2016年; Zhao J, Vertical axis of Z-plasty
内眼角形成術(Z−形成法)の術式
- Z-形成術の縦辺を開瞼時の蒙古襞の稜線に沿わせる。縦辺の下端は蒙古襞の下端。
- 60度のZ−形成術のデザインとする。
- 上の三角皮弁は内眼角靭帯;MPTの側面まで眼輪筋を切離しながら剥離。下の三角皮弁は眼輪筋をMPTから外し、涙湖ごと挙上し、涙湖の位置も移動させる。
切開法眼瞼下垂手術の術式
- デザイン;下切開線は原則的に重瞼線。一重瞼の場合にはSimulationで探す。目頭から目尻は同幅が原則。両端はスピンドルで跳ね上げるか下げるかはケースバイケース。
- 蒙古襞の上なら平行型、下なら末広型。切除幅は年齢÷10㎜が基準。重瞼線の高さににより調整する。Z−形成術による目頭切開を併施する場合は内側まで同幅でデザインし、Zの上辺に繋げる。
- 眼裂横径内は出来るだけ同幅で切除。だから、蒙古襞が強くて取りたいなら目頭切開を加えるべき。
- 眼輪筋は皮膚と同幅か最低2/3幅は切除。
- SOOFを摘出し、眼窩隔膜を露出する。隔膜に包まれて眼窩脂肪がヘルニアしている際には、剥離してどけてみる。
- 眼窩隔膜&脂肪が重瞼線(瞼板上縁)に被さる時はまず焼いて収縮させる。それでも被さるなら、切除焼灼。
- 瞼板上縁の挙筋腱膜を露出させる。
- 下横走靭帯は硬ければ切離または切除。
- LT法(結膜側からのMuller筋と腱膜のPlication)は瞼板を掬えば腱膜修復になる。
- 術前の計画通りに必要なら腱膜縫合。術中LTで寄せてからでも判断出来る。
- 腱膜修復縫合は箱マットレスで瞼板を横に掬う。
- LT糸をそのまま重瞼固定に使用。瞼板上縁で結紮後、三角形に掛ける。
- 重瞼固定は論文にある様に皮膚または眼輪筋最浅層に横5㎜は掛ける。
論文:Aesthetic Plast Surg. 2001 Jan-Feb;25(1):20-4.Scanning electron microscopic study on double and single eyelids in Orientals.Morikawa K, Yamamoto H, Uchinuma E, Yamashina S.、Department of Plastic and Reconstructive Surgery, Kitasato University School of Medicine, Sagamihara, Kanagawa, Japan.
- 皮膚(表皮と真皮)のみ縫合。小さいBiteで約3㎜の間隔でRunning suture, Stay suture 必要。
Live Surgery の手順
- Simulation : ブジーと皮膚切除幅=見かけの重瞼幅差÷2−1
- Design :目頭部~目尻部。跳ね上げor spindle
- Procedureの要点 : ⑴目頭切開の要否。⑵切開切除法。⑶眼窩脂肪の処理。⑷腱膜の修復or前転。⑸重瞼固定の強さ。⑹止血と縫合。
上記の考え方にしたがって、2症例を診察し診断しました。(診断は治療=手術法の選択を目的とします。診断の為の診察ではありません。) 一例を診断に基づき手術しました。
もう一度ここで、診断します。1、後天性腱膜性眼瞼下垂症、特に内側。2、重瞼の左右差と弱さ。3、開瞼が強化されると皮膚の余剰が生じる。4、蒙古襞が⑴拘縮⑵末広型⑶開瞼障害⑷吊り目の原因。
上の講義に基づき診断すると手術法は上の様な適応となります。切開法の理由もお判りだと思います。その通りに手術しました。今後も経過画像を提示していけるのが楽しみです。
実は本症例は5月のJAASで鼻翼縮小術を実演した方です。丁度いいのでその中期的経過(4ヶ月)も提示します。ちゃんと数字を計っています。
上左画像が術前で鼻翼最大幅36㎜、中央の画像が術直後で32㎜にしました。右の画像が今回の4ヶ月後の画像です。34.5㎜まで戻りましたが、あぐら鼻が丸い鼻翼に変わったのは保たれているため患者さんは満足されています。これまで提示して来た症例の如く、2回目の手術をすればさらに縮小をはかれることを説明しています。この手術の経過も適時提示します。
次回をお楽しみに!