今手許に2003年に投稿し,受理された私の博士論文のコピーを置いています。久し振りに読みます。何故か今回のテーマでも読むことは無かったのです。大筋は記憶していますから。でも詳細な方法論は忘れました。何しろ私は臨床医で、研究者ではありませんから、この後は基礎研究に携わることもなかったからです。
正直に書きますと、これまで論文を訳して記載しようと思ったのですが、ブログを書く際には手元になくて、見合わせてきました。だから、この相模原編は7回もグダグダと前置きばかりしてしまいました。それにこの研究員の1年は、濃厚で有意義だったので思い出すと様々なことが走馬灯の様に巡ってくるのです。でもそれでは進まないので、論文を手元に置いて読み、訳し始めます。
今回は走査型電子顕微鏡Scanning Electron Microscopeのための標本作成法を説明します。論文Paper中のMaterial and Methodsの抜粋です。と思って読み始めたら、抄訳ではない詳述は久し振りなので、つっかえて辞書も必要になりました。辞書といっても、スマホに入れた三省堂の英和辞典です。チョット待って!、まず読み始めますが、訳すのに楽なので、英論文の原文を載せちゃいます。
The remaining each two samples were prepared in accordance with the tissue-treating method with NaOH in order to observe the fibers of collagen tissue by SEM .The pieces were fixed in 2.5% glutaraldehyde and immersed in a 10% aqueous solution of NaOH for 4 to 7 days at room temperature. The cellular elements were then removed. After being rinced in distilled water for 1 day, the pieces were placed in 1% tannic acid for 1 to 2h, rinced in distilled water, and then postfixed in 1%OsO4 for 2h. The spicimens were dehydrated in a series of graded concentrations of ethanol and t-butyl alcohol, and freeze-dried in a ID-2 dryer. The dried specimens were mounted on a brass stub and coated with gold. Observations were made under an S-4500 SEM by low magnification at ×30 to high magnification at ×100,000 早速この英文を訳します。
残りの二つの検体をSEM;Scanning Electron Microscope,走査電子顕微鏡でコラーゲン組織の線維を観察するためにNaOH,水酸化ナトリウムで組織処理法で調製して用意します。検体は2.5%のグルタールアルデヒドで固定し、水酸化ナトリウム10%水溶液で4~7日間部屋温度で浸します。細胞成分は取り除かれます。蒸留水で1日濯いだのちに、検体辺は1%タンニン酸に1~2時間置かれ、蒸留水で濯ぎそして、1%参加オスミウムで2時間後固定します。標本は濃度勾配のあるエチルアルコールとブチルアルコールで脱水し、ID-2ドライヤーで凍結乾燥します。乾燥標本は真鍮台に据え付けられ、金でコーティングされます。観察はS-4500 SEMで30倍の低倍率から10万倍の高倍率まで為されます。
さーてなんのこっちゃですが、方法はもちろん解剖学教室の技術者に手取り足取り指導を受けながら、しかし、次からは自分一人でします。標本の製造には時間が掛かりますが、実際に手を動かして機械に付きっ切りになる時間は一部です。
献体を液に浸して観察しているだけの操作はまだいいのですが、水酸化ナトリウム処理は液に浸しておいて、1日1回液を取り合えるだけの操作を繰り返す必要もありました。しかもこれには一週間近く掛かります。この場合休みの日も液を取り換えなければならないので、家に液と標本を持って行く日曜もあり、バイトで遠方に行く日も持参することになりました。水酸化ナトリウムはご存知の通り家庭の排水管洗浄剤なんかにも入っている化学薬品で、タンパクを溶かす作用です。あれもかなり薄めてあるのに触ると指腹の角質が解けてヌルヌルしますよね。それに水で洗うと水和熱といって熱を発生します。この実験では、標本である眼瞼組織の中の細胞成分(脂肪や筋内)を溶融して除去し、コラーゲンだけ残すために使いました。透明容器に入っているので、毎日見ていると次第に網状のコラーゲンだけが透けて見えてきます。コラーゲンは眼瞼挙筋腱膜や、真皮。また細胞の抜けた部分の蜂の巣状の網目が残ります。つまり私の見たいものだけが残ります。なんかわくわくしました。ただ、通常の排水管に流しても環境に害は及ぼさないのは判っていましたが、古い塩ビの排水管では亀裂が付着する汚れで閉じていた場合漏れだす可能性があると後で技術者に怒られました。そもそも、水酸化ナトリウムは生物のタンパクを溶かす作用ですから、ヒトに触れたら危険ですから、家に持って行った際はビクビクしていました。子供の手が届かないように棚の上に置いていたら妻に「落ちたらどうするのよ?」と逆に怒られました。
次々に段階を踏んでSEMでの観察のための標本を作製しました。真鍮台に乗って金でコーティングされた標本ができた際にはいよいよ観察と画像データに残すのが楽しみでウキウキしました。ですからこの後は、論文で言うと結果Resultの項となります。引き続き記載していきたいと思いますが、長くなりましたので次回に続きます。