2017 . 2 . 22

上口唇短縮術と口角挙上術が流行っていますが、術直後はすごい画像です。

何故か口唇短縮術と口角挙上術の組み合わせのブログ提示が続いています。ブログ提示の承諾(いわゆるモニター)を得られれば20%offとなり、経済的に有用だからです。しかも口周りの手術は、局所画像だけなら顔が判らないので、ばれない部位の手術でもあります。 いやいや、それだけではないと自負します。私は形成外科と美容外科を30年診療してきました。形成外科医の創傷治癒の特殊性と美容外科医の形態に対するこだわりを備える本邦では数少ない医師です。日本美容外科学会JSAPSと日本形成外科学会の専門医(後者がないと前者が取れない。)を共に取得した医師は100人以下です。だからなんだの話は後段で書き連ねます。 症例は26歳、女性。ご覧の様に歯列矯正中ですがそれは前後位置で、上下長を治したい形態。内眼角間30mm、鼻翼幅36mm、白唇長17mmと長いし、鼻の幅もある。相対的に唇の横長も短い。逆に横長に比して厚みはある。 OLYMPUS DIGITAL CAMERA なかなか評価が難しい症例です。口元が出ていたのを後ろに下げている最中。これは前も述べてきましたが口が出ていると長さが目立つ。逆に下がっていて薄いと寂しい。唇は数字的な絶対的な長さが基準にならないのです。さらに横長と厚みも影響します。さらに鼻とのバランスも大事です。 本症例はそのような面を何回もの診察において検討しました。そうして、患者さんと私の(患者優先です。)見解を議論していきました。まずどう見ても長い。だから切りたい。前後関係は矯正後に検討しましょう(たぶんイケる。)。鼻の下だけの白唇を切除すると口角が下がって見えるので口角リフトは必要です。鼻翼のサイズがあるのですが、顔面とのバランスはよい。だとすれば、唇を大きくしたい。なので口角リフトのデザインを検討した結果斜め方向45度に向かってあげたらいいのではないかということになりました。さらにシミュレーションして、切除は口が閉じるギリギリの7mm。口角は8×8mm頬骨弓方向へつまり45度方向に引き上げると同時に内側に向けて丸く増やすデザインにしました。 術前術直後の正面像と右側面像を提示します。 OLYMPUS DIGITAL CAMERAOLYMPUS DIGITAL CAMERA 鼻の下が長いのは一見して確かです。頤がありえらが張ってないのはいいのですが、なんか下顔面が間延びしている。特に側面像でエステティックラインがゼロなのに鼻の下が長いのでバランスが白唇がべたっとしている。もう一つ唇の裏返りは少々足りないので、白唇部切除の深さは口輪筋までではなく皮下脂肪層内に留めて、軽く外反させる事にしました。 OLYMPUS DIGITAL CAMERAOLYMPUS DIGITAL CAMERA 術直後の正面像はすごい画像となります。腫脹が起きます。いきなり医学的な解剖学的説明です。口鼻周りは血管が豊富です。顔面の体表の血管は外頸動脈系で(頭蓋内には内頚動脈系)、(総)頸動脈から二分岐してエラの内側から顔に回ってマリオネットラインや鼻唇溝(法令線は人相学用語)の外側約1㎝を斜めに上行しながら、口角の外側から上下の口唇へ、その上で鼻に向かって枝分かれしていきます。それも両側から来ますから、この部分は太い血管が多いのです。口はしゃべる食べる為にいつも動くから、血流が豊富でなければならないのです。しかも、内径動脈は脳に血液を供給しますが、脳は重量が体重の2%しかないのに、栄養を25%、酸素を20%、血液を15%も使うので頚から上には多量の血液が流れています。同時に顔面にも多量の血液が流れます。だから、顔面の血管は身体の例えば手首で脈を取る橈骨動脈と同じ程の血管が沢山走行しています。 なんか言い訳話しになりましたが、特に口周りは動静脈が豊富ですから、術後も血が滲むのです。実際術中に口唇動脈は見えました。一回出血しましたが、飛びました。電気メスで焼いて止めました。鼻翼枝の枝からも出血しましたが、30㌢は飛んで私に掛かります。もちろん止めました。丁寧に三層縫合するのですが、縫合するから血が止まるのではありません。隙間から滲み出ます。でも、血が滲み出る隙間はほとんどないので、皮下組織内に流れます。それが激しい腫脹になるのです。でも逆に血流が豊富な部位では、吸収も早いのです。意外と一週間後には目立たなくなります。これまでの症例をご覧いただくと、腫脹は遷延しない傾向にありますよね。ただし口輪筋の運動の回復には更に時間を要する事があります。それも治ってキスも普通に出来るようになります。 学術的説明に終始して、形態的評価をおろそかにしてしまいましたが術直後には評価に堪えないからです。要するに強い腫脹で膨らんでいるし、筋の運動低下があるため静的形態の変形も想定内です。ここで、術直後に診られる形態的評価点は、側面像での長さと前後位置だけです。術前に患者さんと私が念入りに検討したデザインの結果として、満足な形態が得られると考えられます。 そしてもう一つ、術直後には血がにじんで判り難いかも知れませんが、鼻の下の創はピッタリ寄せられています。いや本当は二層目の真皮縫合をする時点でピッタリ寄っていました。ここがこの手術のポイントです。美容目的で顔の前方を切開する手術は数少ないのですが、目立ったら嫌だから当然です。だからこの手術は、形成外科医の独壇場だといえます。 縫合法は外科系の基礎的技術であるのは当然ですが、皮膚体表に於いては形成外科的縫合法は特殊で、もっとも丁寧で、中長期的結果がもっとも綺麗に仕上げる事が出来ます。いいですか!、他の外科系とは全く違う質ですから!。形成外科医の行なう真皮縫合の重要性と質的差異を認識して下さい!。 真皮縫合が重要です。創は縫合直後に隙間がなく寄っていても、数週間のうちに幅が出て来てしまう事があります。皮膚の表面の表皮は数日で着きますが、深部の真皮層が強固に癒合するまでは約三ヶ月はかかるからです。だから真皮縫合で真皮層を寄せ続けないと、中に隙間が出来て折角出来た表皮層も幅ができてしまうのです。引っ張られて広がるので当初は線だったのがツルッとした帯が出来てしまうのです。これが他の外科系が縫合した創跡が目立つ原因です。実は顔面は上に述べた様に血行がいいので、真皮層が一度くっ付いたら広がらない部位なのです。ですから、真皮縫合で数ヶ月間まで広がらなければ線のままで治り、見えなくなります。 大学医学部を卒業して国家試験に合格したばかりの医師は最低限の医学知識しか持ちません。ましてや医師になる前の学生時代には技術的修練はしていませんから、外科的技術は皆無に等しいのです。技術は医師になって大学病院等で修練して身に着けます。そしてその目的と質は科目(医局とも呼ぶ)によって差が生じます。腹や胸の内臓を手術する外科では内臓の縫合を主に勉強しますが、皮膚の縫合は最低限しか修練しません。他の臓器を担当する科目でもそうです。対して形成外科医は皮膚の縫合に命をかけます。特に真皮縫合を上手に出来る様になるまでは、形成外科医として一人前とは見られません。また真皮縫合の糸切りは1㎜以下単位でないと出てしまうので精密に切れるまで練習します。桃栗3年柿8年に例えて、糸切り3年真皮縫合6年と唱えて修練します。私も上手に創跡が見えなくなるまで8年かかりました。30年生になった今では「顔の創跡は私が縫合したら見えなくなるに等しいです。」と豪語していますが、万が一目立ったら頭を下げます。 日本では開業時に診療科目を選ぶのに、修養した科目の証明を要しません。法律の不備なんですが、先進国では日本だけです。だから、形成外科や美容外科を開業するのに形成外科・美容外科を修練していない医師でも診療しています。だから形成外科の修練をしないで顔面を切る医師が横行しています。これまで他医(皆チェーン店系)で白唇部切開を受けた後に創跡の幅が広がっている患者さんを沢山見て来ました。「先生なら治せますよね?」と頼まれても、創跡の幅を切り取ったら口が閉じなくなる可能性大な場合がほとんどで、お断りしています。一人だけしました。また、初診時によく訊かれます。「口唇短縮術は後戻りがあると聴くのですが?」私は「戻りません。」と押し問答になりますが、しまいには私、「はっきり言いますと非形成外科医が行なうと創跡が広がります。そいつらと一緒にしないで下さい。」と言い放つ事になります。そりゃそうです。非形成外科医がすればそうなるのです。日本は酷い国なんです。 今回の症例提示はまだまだ結果が出ていないので、後半はグチになってしまいました。気を取り直して次週の短期的経過をお楽しみに!