昨今再生医療が持て囃されていますが、ノーベル賞を受けた名医が売りつけているからですし、失敗研究を改ざんした女性研究者が騒がれたからでもあります。
まずは画像を!術前(注入前)と術直後(注入後)の比較です。当院での初めての症例ですから、対象患者は例によって池田先生で、実験させてもらいます。
再生医療は、組織の再現のため用の細胞を作製することで、失われた成人の体組織を補うことを目的としています。体細胞のうち多くは自己再生能力に限界があるか、再生しないものも多いのです。そこで自己の細胞を取り出して人工的に増やすのが細胞培養です。また同種細胞を移植しても抗原性が問題にならないものもあります。いずれも、使える量は限られ、資源も限られるので実用化されている部位は皮膚や、角膜、臓器移植などまだ数少ないのです。また同種移植では提供者も限られます。
それに対して胚細胞などの未熟な細胞から多能性幹細胞を作って、それを移植する移植する方法は資源が無限なので有用性が高いということで喧伝されているのです。そもそも、高等生物はたった一つの受精卵の細胞が二つに分裂し、さらに倍々に分裂していき数を増やして何種類かの幹細胞に分かれていき、さらにそれぞれが成熟したそれぞれの種類の体細胞に分かれていき、それぞれが分裂して増えて成長します。あたかも木の幹から枝が出て、それぞれに葉や花ができるように様々な種類の細胞に分かれていくので、分化といいます。
成熟した体細胞の中には、細胞足りなくなった際に、ある環境では細胞が分裂して再生するものもありますが、減った(死んだ)ら、再生しない種類の細胞の方が多いのです。前者の代表は皮膚の表皮細胞や、消化管の粘膜細胞の一部や血球や骨などです。後者は肝細胞や神経細胞など機能する細胞のほかに、何種類もの細胞が組み合わさって構造を作っている場合には元の構造に戻らないという意味で再構築が不可能な臓器も多くあります。
多能性幹細胞は後者を再構築する能力があり得るのですが、まだ研究が端緒したばかりで、実用的に可能な臓器は数少ない現状です。
また他家移植も一部で実用化されています。動物からでも抗原性を無くした構造物だけなら移植できます。心臓弁などはよく使われます。ただし抗原性を無くすということは細胞は死んでいます。また人工物も他家移植と同じ様ですが、異物反応の可能性もあります。完全に単体ならヒアルロン酸注入などは安全です。このように他家移植は限られいています。
現在までに自家細胞培養や同種移植は実用化されてきました。同種移植の場合。抗原性が適応すれば拒絶反応は軽く、臓器移植は実用的です。皮膚はバリアーとして必要で、やけどなどで広範囲に欠損すると再生しないのですが、被覆だけなら同種移植で一時的に凌げます。この方法も実用化されています。同種の組織を抗原性をなくして移植することもできます。コラーゲン注入はそれです。自家移植の場合。欠損組織が再生する細胞なら他部位からどんどん供給できます。植皮がそれです。また自家組織の培養は小さな細胞塊を採取して培養して細胞を増やしてから、戻す方法です。私は大学病院で、皮膚の表皮細胞での培養移植をもう20年以上前に実施しましたが、面倒で時間ばかり掛かるので実用化していません。上に述べたように一時しのぎなら、同種植皮のバンクがありますし、自家植皮で足りることも多いからです。
そこで、今回は繊維芽細胞培養移植の実用化症例です。まずは池田先生で実験してみました。先週の注入前と、注入後の画像を再掲します。
皮膚は表面から、①角質(垢)になる表皮細胞が脱核して死んだケラチンタンパクの膜、②表皮細胞層:細胞が石垣の様に積み重なってくっ付いている層、0.5mm以下の厚さだが、硬いバリアーになっている。血管はなく、液成分で栄養されています。表皮細胞はの最深層は日常でも分裂増殖していて次々表面に向かって押し上げられ、平均4週間で表面から角質が剥れていわゆる新陳代謝しています。③真皮層:線維がヒアルロン酸等のジェリーの中に詰まっていて毛細血管の網目が栄養している。細胞成分は状態により免疫細胞なども存在するが、構造を決めるのはコラーゲン線維を製造する線維芽細胞が当します。④皮下脂肪層は、クッションのために必要で、栄養の貯蔵庫でもある。脂肪細胞は再生しないと言われてきたがある環境では分裂増殖することが判ってきましたが、あまり必要性がない様ですし、例えば乳房への脂肪細胞移植はまだ実用的とは言えません。
今回の線維芽細胞培養移植は上記の③のコラーゲンを作らせる線維芽細胞を培養して移植します。1か月前に耳の後ろから、私が米粒大の皮膚を採取しました。培養センターが再生医療法に合致して厚労省から認可を受けていますから、そこで培養してもらいます。そして培養が飽和して、出来上がる日が来ました。
いよいよ培養されて、当日搬入されました。それを下の様に注射器に詰めます。画像の如く、クリーンベンチ(=ご覧の様に携帯型のフィルター層流式ですが、PRPの為に使う仕様で認可されている。)内で無菌に近い操作です。細胞培養液は要するに栄養液ですから、細菌が混入しない様に無菌操作が必須です。
こうして、1ccの注射器に2本用意されました。今回は下眼瞼と鼻唇溝に注入します。
実は右側はセンターの北条先生が実演してくださいました。引き続き左側を上図の如く私が注射します。35ゲージ針で細かく打ち分けます。世界に一つしかない極細の針で、私たちはいつも使っていますから、使い慣れていますが、他の医者(もちろん北条先生も)はまず使えこなせないので、たとえ培養は依頼していても、注入は当院のオリジナル治療となりました。
上左図は下眼瞼部のくぼみに0.02cc×20回ほど打ちまくりました。上右図は鼻唇溝に注入して埋めます。30回以上打ちましが、35ゲージ針なので我慢できます。
もう一度術前と術後1時間の画像を提示します。下眼瞼はクマが消えています。しわは折れ返りですからコラーゲンが造成されると消えます。鼻唇溝は針孔の赤みがまだ残りますが浅くなっている?。実は液が入った分埋まっているのが1時間で液が吸収されます。この後線維芽細胞がコラーゲンを産生して、鼻唇部の皮膚が厚くなり溝が浅くなるのです。その画像は来週以降にします。
コラーゲンは線維芽細胞が産生します。本来身体はホメオスターシスと言って恒常性を保とうとしています。コラーゲンは身体を形作る布みたいなものですが、生きている限りリサイクルしています。古いコラーゲンを溶解吸収し、繊維芽細胞が新しくコラーゲンを作る繰り返しをし続けます。約3ヶ月毎に置き換わります。でも年齢と共に再生量が不足してコラーゲンは減少し弾力が落ちて来ます。繊維芽細胞は骨髄中で生産されるのですが、活性が下がるからです。毛織物の毛玉が取れてやせて行くと薄くなり、もこもこ感が無くなり、寒くなるのと同じです。
残念ながら生物は、恒常性を保とうとしても細胞分裂には限界があり、1個が「参った!」と言って終わっても他の1個が「頑張るぞ!」と交代しますが、みんなが「もう代わりは居ないよオ!」となると生産が落ちます。こうして長い年月の間には分裂再生が減り、しまいにはアポトーシスといって再生不能となります。これが寿命です。池田先生の寿命は、平均値としてはまだ30年以上ありますが、繊維芽細胞の減少は来していますからコラーゲンも減量が診られます。
細胞培養とは、組織を取り出して、目的とする細胞を単離してから、培地という栄養の豊富な液の中に置いて、細胞を分裂増殖させる方法です。要するに栄養状態がいい環境を作って細胞をどんどん増やすというだけの行為です。繊維芽細胞はよく増えます。米粒大の皮膚片が1ヶ月で2ccの容量になりました。これでこの症例の上記の画像の部分の皮膚の厚みを倍加出来ると考えられます。もちろん理論的にですが、医学的に効果は絶対にあります。
今回の画像では細胞培養して増やした自家繊維芽細胞を局所に投与したまでです。上に記した如く、コラーゲンは月単位で産生を繰り返しますから、徐々に増える筈です。じゃあ3ヶ月後からはまた元の状態に戻るのでは無いかと問われそうですが、一度久し振りにコラーゲンが増えた場所はそこにスペースができるため、そこにコラーゲンの産生が増える状態を持続出来るのです。これも理論的ではありますが、だから実験なのです。
池田先生には実験材料となってもらいました。ご苦労さんでした。次回先ず数週間の経過を提示します。いいなと思われたら皆さんもどうぞ。