眼瞼の手術症例のブログ提示が引き続いています。最近の症例は全例切開法の眼瞼下垂手術および重瞼術に目頭切開は蒙古襞の拘縮解除を求める一辺4mm60度のZ-形成法を定式となりました。こればっかりジャンと云われそうですが、これがいいんです。結果が本当に良好なんです。その訳はこれまでも書いてきましたが、医学的、文化人類学的に、また生物学的に説明できます。だからとにかく、この手術を受けて生体機能と社会的機能(美容的形態は社会適応です。)を向上させましょう。今回の症例は両側後天性眼瞼下垂症でも、片側が重い患者さんですからよく判ります。
症例は27歳女性。2年前に眼瞼下垂症を指摘された。ソフトコンタクトレンズ装用歴17年で、挙筋筋力15mmと正常です。5年前S美容外科で埋没。その後左に眼痛、痙攣、頭痛を生じてきた。この既往歴から、C.L.による後天性腱膜性眼瞼下垂か?、埋没法重瞼術時の何らかのダメージによる医原性(*注釈1)眼瞼下垂を疑われた。左眼瞼結膜側に一時的に眼瞼挙筋を収縮する作用のフェニレフリン点眼テストをすると、右以上に開いた。眼裂横径26mm、内眼角間35mm、角膜中心間62mmと目が離れてるわけではないのに蒙古襞の被さりがあり、拘縮を伴うため、開瞼を阻害している。形態的にも内側が挙がりにくい吊り目に見られる。
腱膜性あれ、医原性であれ、フェニレフリンテストに反応するなら、先天性に筋力が低いのではなく腱膜が伸びているのが原因であると考えられる。従って腱膜修復術で可能と考えた。二重瞼のラインはしわがある末広型では最高位の6mmとし、切除はその分多く4mmをデザインとしました。目頭は定式の一辺4mm60度のZ-形成術をデザインしました。
画像を見ましょう。
まずは開瞼は改善できました。重瞼線は変えていませんが切除を致しましたから、二重幅は広くなりました。目頭は自然な形態で開瞼機能向上に寄与しています。近接画像を見ましょう。角膜(黒目)の上に掛かる瞼縁のカーブに注目して下さい。
右眼瞼は下垂が軽度でしたが、さらによく開きました。少なくとも前葉成分(皮膚、眼輪筋)が挙がって目頭方面の突っ張りが無くなったから瞼縁が露出したので瞼縁の形が見えます。そのカーブは内側と外側がやじろべえの様にバランスの取れた弧を描いています。見事な挙がり具合です。直後なので、糸のかかった点が、カクっと切痕,Notchになっていますが、これは消えます。
左眼瞼は下垂が中等度です。MRD,Margin Reflex Distance: 瞼縁と角膜中心の距離(正常<2.5㎜)が訳1㎜です。一目見て、これはLT法では難しいと思ってしまいそうです。でも私はちゃんと診断しているつもりでした。フェニレフリンテストで挙がるなら、LT法で挙がる筈です。シミュレーションの通りに良く開きました。とはいっても内側は不足感が見られます。
角膜の上に架かる瞼縁は増大しましたがカーブは内下がり気味です。やはり若干の先天性の要素があったのでしょう。患者さんに訊いてみたら「小さいときから若干の左右差があったかな?。視力も!」との言。そうか!。視力(*注釈2)の左右差は先天性眼瞼下垂の証拠です。術前に計った挙筋筋力は同値だったのですが、微妙な差だから差を計りきれなかったのです。そして先天性眼瞼下垂は筋力低下ですが、通常は特に内側が弱いのです。本症例では術前には開瞼(MRD)に左右差が見られるのは後天性眼瞼下垂の為と考えましたが、術後の微妙な左右差を診て先天性の要素もあったのかも知れないと思いました。
そうしてもう一度両眼部の画像を見ると、かなり良く出来ています。瞼縁のカーブの微妙な左右差を認識可能な程度かどうかは判明しません。患者さんは喜んでいます。実は先天性眼瞼下垂症にLT法をしたら数日で戻り始めることが多いのですが、本症例では術後3日には戻っていません。後天性または医原性対先天性の要素の割り合いの問題でしょう。やはり先天性の要素は僅かだったのでしょう。よく見ると瞼縁のカーブに差があるだけです。私も難しい症例で混乱しています。今後の経過が待たれますし、戻らない事を楽しみに待ちます。
注釈1:医原性とは読んで字の如く医療が原因となった場合を言います。埋没法で重瞼術だけした後に、後天性眼瞼下垂症が起きることがあり得ます。元々軽度の先天性眼瞼下垂症があり、皮膚を持ち上げたら瞼縁が見えて下垂状態が露呈した症例は少なからずあります。これは術前診断の不備で、医原性とは言えないかもしれません。また、手技的にや腫脹や出血の影響で、挙筋にダメージを与えた為に起きることもあります。通常この場合、ダメージから回復したら治癒しますが、数ヶ月掛かることもある様です。重瞼術だけしたら、持ち上げる量が増えた為に挙筋の負担が増えて隠れていた後天性眼瞼下垂症が増悪することもあります。私の経験では稀ですが、他院での埋没法の後で(特にチェーン店系は診断不備)は起こす様です。だから私達は、後天性眼瞼下垂症が疑われる症例に初めて埋没法をする際には、切らない眼瞼下垂手術=黒目整形を併施することをお奨めしています。本症例は医原性も疑われますが、先天性も疑われます。後天性も加わっている診断が難しい症例です。
注釈2:視力と屈折障害は別ものです。視力とは、あの上下右左って言う検査(ランドルト環)の数値で、レンズを付けての検査は調整視力です。つまり眼鏡やコンタクトレンズをすればちゃんと見えるなら、網膜やそれに繫がる視神経は機能低下が無く、調節視力が得られないのなら、網膜や視神経の成長不足です。新生児は視力が弱く、概ね3歳児までに網膜や視神経は成長します。先天性眼瞼下垂症で前をみにくい眼は視力が発達しません。本症例ではどちらか不明です。
屈折障害とは視力とは違います。人間は正常では約30㎝〜無限大にピントを合わせられます。近視とか遠視や老視等の屈折障害はピンとが合う距離が変わることです。いわゆる度数ですが、ディオプター(D)という値があります。1/距離ですから正視者は0D〜3Dで3D分の調節が可能です。例えば近視で1m以上はピントが合わなくて、代わりに25㎝が見えると1〜4Dですから、3D分の調節は出来ます。これに対して1Dのレンズを掛ければ正視と同じ範囲にピントが合わせられます。このレンズのDを度数といいます。眼鏡やC.L.の処方箋に書いてあります。
老視は調節範囲が狭くなります。例えば元々は正視の人が老視になり、50㎝離さないと読めないなら、0〜2Dに調節範囲が狭まったという訳です。老視に対しては近くを見る時に30㎝付近が見える様にレンズを使います。ただし加齢に因りレンズの後ろ側、つまり水晶体が濁る白内障や、網膜や視神経の異常を来す緑内障や網膜剥離、糖尿病性網膜症や加齢色素変性等を発症すると屈折異常をレンズで調節しても視力は低下してしまいます。私は調節すれば視力が1.0ありますから、まだ手術をまだ上手に出来ます。
ですから、屈折障害に対する調節の度を覚えておきましょう。近視の度を訊くと、1.0とか視力を答える人が多く、度数を答えられない人が多いです。実は、加齢やC.L.に因る後天性腱膜性眼瞼下垂症を治した後に調節(D)が少し遠方に変わる可能性があります。医学的には自律神経系の改善が影響するからです。年長者では老視が悪化したように感じることがあります。この際に老眼鏡を調節する必要があり得ます。ところがそのような指示をしても、ほとんどの人が理解できません。最近は予めDを聴いておいて術後に変わったかを訊くようにしています。
本症例の患者さんは軽度の屈折の差があり、視力にも差がある様です。片側優位の先天性眼瞼下垂症があったのでしょう。でも経過的には成人後悪化したそうです。しかも埋没法を受けた後から早まったそうです。いくつかの要素が組み合わさっているのでしょう。私は混乱してしまいました。
今回は関係ない話を書き連ねていて1週間経てしまいました。そうしたら予定通り抜糸のために来院します。その後約束通り画像を頂きました。上に近接像を加えます。下に術後1週間の画像を載せます。
私が「落ちました?」って訊いたら、「ええ!」と答え否定しません。「でも、術直後から不足だったかも?」と私。押し問答の様になって判らなくなりました。落ちるなら1週間より次週以降進行するかも?。という訳で今回は評価を書かないで、2週間後に判断しましょう。お楽しみに!