今回は難しい症例です。難しいというのは結果が悪いということではなく、形態的変化が解りにくいかもしれないと言う意味です。量的変化は少なく、形態的に自然にというか美しくしたのですが、一般人にはそうすれば美容的に良いかを説明しなければわからないと思います。
一言でいえば前医の作り方が下手だったのです。それはこのあと説明しますが、要するに個体に合わせた医療をしていないからです。しかも患者さんの希望なんか汲んでいないし、訊いてもいない様です。私は医師です。美容外科医は医師です。患者さんを診察して治療法を検討するのが仕事です。残念ながら、美容医療の医師の多くは稼ぐのが仕事になっていて、診察のスキルを身に付けていないものが横行しています。
何がおかしいのか?。頤とは、「アゴで使う。」の慣用句の意味からも、字の成り立ちを見ても分かるように、臣の顔です。臣は偉い人、頁はページの意味だけでなく、顔の部品と言う意味です。
ですから言いたい事は、頤は人格を現すのです。頤が前突して幅があると、強く偉い人に見えます。偉い人が威張っている印象です。昔のヨーロッパの王室であるハプスブルグ家は、血族結婚でしたが、頤の幅があり割れている形態を発言する遺伝子を継いでいました。偉い人だから合ってます。USAでは、今の大統領もそうですし、20世紀に一世を風靡した西部劇の主役俳優は割れ顎で強そうな人が配されていました。カークダグラス、マイケルダグラス親子なんかは遺伝子を継いでいます。これらの例は強そうな男性を揚げているのはお分かりでしょう。
頤の幅がある女性は人格が左右されてしまします。容貌は特性ですが、人格は社会的な印象が作り上げるからです。美容医療は人格を左右します。美しい女性は社会的に優位で豊か(経済性に限りません)です。上に書いた様に頤の印象は人格に大きな影響を与えます。好むならそうしますが、一般的に女性で強い頤を求める人は少ないと思います。ですから、この様な形態を作った美容外科医は診察行為の不作為だと言えます。
症例は49歳女性。本年に入り来院されました。それまでの美容医療の経過は、私が診ていないのでカルテ上網羅されていません。アアッ~、それも診療行為の不備ですね。当初は他医が幾つかの手術を施行しました。ある時白唇の長さが気になり訴えて私に回ってきました。その時同時に顔のバランスを見るために診察して計測したら頤の形態が気になりました。白唇部短縮術を3月末に施行し、経過中3ヶ月待って治そうと考えました。
顎プロテーシスが四角いのは本人も認識しています。E-ラインの改善のために、厚さつまり前突は保ちたい。でも頤の幅がある。これだけですが・・、治さないと不自然な形態です。しかもわずかに下垂している。その点に対しては、ポケットの前壁を吊り上げるように縫合して、下垂状態を改良してみようと考えた。
画像を見比べてみましょう。
正面像での変化はなんとなくです。顎が細くなりました。腫れているので短くなったのは解らないと思います。
近接像では、角張った頤(下顎の先端)が丸くなりました。そうしました。結果的に長さも短くなったように見えます。
プロテーシスの比較をしてみれば判ります。
上左図が抜いたやつ。こんなに横長の物の入っていました。そりゃあ幅広の、強そうな、偉そうな頤になりますよ。しかも硬い材料です。幸いな事に骨に喰い込んではいませんでした。さらに何年か置くとその可能性があります。もっとも骨に喰い込んだら低くなります。なお、これは既製品です。これまでにも抜いた事があります。私の手元にコレクションがあります。
上右図が今回入れた物。シリコンプロテーシスには違いありませんが、柔らかい材料です。シリコンとはケイ素Siを酸素原子Oで架橋したポリマーでメチル基が二つずつ着いています。正しくはディメチルポリシロキサンと言います。分子量の長さで固さを変えられ、オイル状の物は潤滑材(新幹線の軸受けはこれで世界一)など、ジェリー状なら豊胸術バッグの中身、ゴム状の固さの物が上右図のプロテーシスですが、画像では分かりませんが上左の物はゴム状でなく、プラスティックみたいでした。
シリコンのケイ素は石の腫瘍元素ですが、これを精製して、化合物を作れる会社は、特許の関係で世界にも何社しかありません。シリコンは分子結合が強いため生体に反応しません。従って身体には安全性が確立しています。ゴム状の物は生体内を移動しないのですが、ジェリー状のものやオイル状のもの(昔の注入材:人形の家が代表例)は移動しかねません。
体内に皮下に入れられたシリコンプロテーシスは、一応異物と認識されるので、数週間の後に身体が動員するコラーゲンの膜に包まれ、体内から隔離したふりをします。身体の気持ちの問題です。膜は薄くても破けませんが、その外側の身体組織は、特に皮膚や皮下脂肪は加齢に従って薄くなりますからプロテーシスのコントウールまたはシェイプが見えてくる事があります。鼻プロテーシスでは数十年単位で棒状に見える事が多く、他の部位でも形が、目立つ様になることがあります。本症例もその要因があります。あゝ〜、そういう要因もあったのですね。
とにかく入れ替える事の目的は解りました。
ところがこれが翌日に診察しますと、腫脹が亢進して、強そうになります。本症例では困ってしまい画像を撮り忘れました。腫れにしても内出血にしても48時間がピークです。ですから、抜糸する術後1週間には形の良さが見えるでしょう。
いよいよ術後1週間です。口腔内の抜糸は2週間としますが、頤尖の固定糸は抜きます。
腫脹が軽快してきました。
少なくとも術前よりは頤の幅が減りました。
患者さんはお慶びです。今後まだ変遷します。お楽しみに!。