歯槽とは、歯牙(歯)の植わっている骨のことです。歯は噛む為の臓器ですが、ついばむ作用もあり、鼻や頤よりも前にある方が使い易いのです。ただしそれは人間以外の動物のことです。人間は(一部の類人猿も)手を使い食べます。それが進化の一つです。正視なら口を前に出さないで、手で箸やカトラリー類を使い、約30㎝の距離から持っていって食べることが出来ます。読み書きするのも30㎝前後が楽です。細かい道具(パソコンなども)を使うのも同様です。つまり人間は食べる姿勢も上半身は直立するから安楽なのです。頭を使う仕事でも見易く安定した姿勢なのです。つまり人間は細い作業時に、目と手を使い易いから進歩してきたのです。その結果啄ばまなくなったのかもしれません。だから人類は口が鼻と頤より後ろにあるのが標準です。とはいってもバリエーションはあります。骨格は個体差があるからです。
側面から見て、鼻(鼻尖:鼻の頭)と唇と頤(下顎の先端)を結んだ線をE-ラインと言います。米語でEsthetic line(英語ではAesthetic line)の略で、日本語では美容線ですね。唇の厚さは差異が少ないので、歯槽骨が位置決めし、鼻尖の軟骨と頤尖の骨格の発達が関与します。日本人(アジア人)は鼻が低いので口が相対的にE-ラインより前になりがちで、顎は短く後退しているのも関与します。もっとも日本人は横並びで、しゃくれ顎を嫌いますから、これは仕方ないのです。但し結果として頤が後退しているだけでなく短いから、下顔面の中での上下の比率から見て上白唇が長いのが目立つことにもなります。私はいつも、黄金分割比率を計算してから、人中部中心の白唇短縮術を施行して、理想的な下顔面を作り出してきました。本症例もその一つです。
歯槽が凸のE-ラインより口が前にある(これをE-ラインより何㎜前かでE-ラインプラス何㎜と表現します。)症例では頤が短いか口が頑張るので、上白唇の短縮が功を奏します。本症例がどうかは画像を見れば判ります。
症例は32歳女性。5月に来院。人中部の白唇長は16㎜。E-ラインはプラス3㎜。上顔面65㎜:中顔面58㎜:下顔面62㎜と長くない。上口唇(白+赤)24㎜:下口唇〜頤38㎜で黄金比率の5:8ではある。Gummy smile(ガムはゴムは歯肉の事)である。歯槽がコの字型で両サイドまで突。3㎜切除予定。人中の深さとと弓のカーブはある。口唇結節はない。0.5㎜寄せるプランとした。内眼角間36㎜:鼻翼幅37㎜:口唇幅50㎜で、黄金分割比より口唇幅は54㎜目標。歯肉を先ず治したい予定を述べられて手術は一回ペンディングした。
6月に再来。歯科では歯齦削ってラミネートベニアする事になり時間がかかるため、口を先に治す様に云われた。もう一度シミュレーションすると、白唇を5㎜短縮すると口は閉じない。4㎜は可能と診られた。結節ないが作りたくはないとの希望で寄せない。口輪筋を折り畳んで外反をしっかり。口角は計算して目尻方向に4㎜挙上のプランとした。
手術直前に診て、口角は明らかに下がっているため、目尻方向に5㎜挙上するデザインとした。Nostril sill,鼻孔下の土手がないので創は谷線に縫合する。
画像は各方向を経時的に診ます。
正面像は上段左から術前の長さがデザイン画の通りに手術直後に短縮され口角が三角形の頂点に移動しました。手術翌日には腫脹が亢進します。48時間がヤマです。
近接画像で術前、デザイン後、手術直後、翌日を診ると、直後は口が閉じませんが、翌日には閉じられます。でも腫脹は増えます。
E-ラインは骨格が決めますから変わりませんが、上口唇が短くなると口元がすっきりします。
今回は手術前後の画像を載せました。この手術の経過は3か月は診ていきましょう。次回術後1週間の抜糸後に画像を戴きます。
話が飛びますが、視機能の説明です。一般市民にしてもいや、ほとんどの医師にしても誤解が蔓延っているからです。視機能は視力で診ますが、大事な要素は屈折です。つまり距離です。
正視とは、あの輪っかの切れている方向を見て、1.5とか0.1とか調べる視力の問題とは違います。屈折度は水晶体レンズと瞳孔の問題で、どの距離にピントが合うかの問題です。
正視は30㎝から無限遠にピントが合うことを指します。距離(メートル)分の1の分数をD:屈折率といい、(メガネの度数と基本的に同じ概念です。)正視は3〜0Dにピントが合います。屈折率はスライドします。例えば眼鏡の度数2の近視とは3+2=5〜0+2=2Dですから、1/5m=20㎝から1/2m=50㎝にピントが合います。老視はピンとが合う近くの距離が減るので、例えば2〜0Dとなれば50㎝から無限遠が見えますが、それより近くにピントが合わなくなります。
関係ある話しに戻します。視機能の影響で、顔を前に倒すか後ろに倒すかは姿勢の問題ですが、下顎の動きや、成長中の上下歯槽の発達に影響します。近視で体幹を前屈すると、前が見えない為に頚部を後屈します。すると下顎を前に引き出します。成長段階からだと下顎に引かれて上顎歯槽も前突して来ます。場合によってはその骨格が定着して口が尖った顔になります。
本症例がどうかは聴いていませんが、時折口を尖らす表情をしています。少なくともE-ラインより口が前にあります。この様な骨格的形態では、長さはどうあれ白唇の短縮術が効を奏します。口が出ている症例の多くは下口唇に力を入れるため相対的に口角が下がっていますから、口角挙上術の併施が必要です。
術後1週間の抜糸後の画像を載せます。
鼻の位置は半分程戻りつつあります。口は閉じられますが、頤部に梅干しが出来ます。聴くまでもなく「前からありましたから!」と云われました。口角の上の真皮縫合の点状の凹みはありますが、訊いたら「これですか?。気になりません。」と処置は不要とのこと。「3か月で消えますよね?」とよく理解しているので安心しました。いい患者さんです。ご覧の通り形態的には整いました。
術後2週間の画像です。
口は閉じられますが梅干しは出来ます。鼻の位置はもう少し、特に下の方つまり鼻翼基部が拡がりますから、胡坐になるのです。必ずもとの位置に戻ります。
口角の真皮縫合の掛かっている点はやはり気になりました。指摘されたそうです。やはりヒアルロン酸注射を希望されました。当院には細い針と微量ずつ入れることができる器械がありますから凹んでいる点を埋められます。何しろ口角挙上術は、持ち上げる組織が赤唇ですから真皮がありませんから、頂点の上の真皮と口輪筋をしっかり中縫いします。皮下直下に掛けますから点状の陥凹が起きます。しかしだから、口角挙上術も後戻りが無いのです。この点は患者さんも理解して頂き、だからヒアルロン酸で埋めておくのは良い手です。糸は3ヶ月で溶けて吸収されますから、それまで隠すためです。
術後1か月です。
まだ左口角の点は見えます。500円分のヒアルロン酸で埋めました。外糸(皮膚縫合糸)が残っていました。縫う時は明るくして細かく縫うのですが、抜糸時には見落としがあり得ます。拡大鏡で診て見つけました。抜き取りました。直径0.05㎜の極細い糸ですから、孔は毛穴よりも汗腺よりも小さいので感染の危険はありません。
斜位像や側面像では優しい口元が演出されました。創跡は術後1か月の標準です。幅はゼロです。
次回術後3ヶ月でも後戻りゼロであると祈念しています。
当院は、2018年6月に厚生労働省より改定され施行された省令「医療機関ホームページガイドライン」に遵守しホームページの修正を行っています。
施術のリスク・副作用について・麻酔薬にて、アレルギー反応を起こす場合があります。その場合は適切な処置を行います。・腫れは個人差がありますが、手術直後から少し腫れがあり、翌日がピークで徐々に引いていきます。目立つほどの大きな腫れは1~2週間程度です。・術後のむくみや細かな左右差の改善には、3ヶ月程度かかります。・内出血が起こった場合は完全にひくまでに2週間程度かかることがあります。・感染予防のため、抗生剤を内服していただきます。・抜糸までの間、鼻下を伸ばす表情はお控え下さい。・口唇部の違和感は、2~4週間程度かかります。・手術後2週間は、口を大きく開けることはお控え下さい。・手術直後は、つっぱりを感じることがありますが、2週間程度で改善していきます。・手術当日は、洗顔をお控え下さい。・手術後3日間は、飲酒・激しい運動・サウナ・入浴など、血流が良くなることはお控え下さい。・手術後1週間(抜糸まで)は、鼻孔部位のお化粧はお控え下さい。・ケロイド体質の方は傷跡が残りやすい場合があります。
費用の説明も加えなければなりません。上口唇短縮術は28万円+消費税。口角挙上術は25万円 +消費税。ブログ掲載の契約を受けてもらえたら、出演料として20%オフとなります。