私は粗製濫造しません。手術に臨む前段では広告やSNSが誘引する手段ですが、当院ではTVCMはもちろん、雑誌広告も記事広告だけです。SNSはインスタグラムも一部使われていますが、そこでは詳しい説明が出来ないので私はほとんど使いません。私は唯一ブログだけで紹介しています。そ子では詳しい(過ぎる?)説明と歴史まで記載したり、裏話しや楽屋話しまで記載して(一部に揶揄も加わる)、真面目な啓蒙活動をしています。本来美容医療は患者さんのためになる筈ですが、間違った情報は患者さんの為になりません。何故そうなるかと言うと美容外科の患者さんは、本当の意味での口コミ(オープンにして伝える)を控える人がほとんど(SNSは患者さんの費用を援助するためで契約です)ですから、美容医療クリニックは自らの優位性を広告して誘引するしかないのです。計算上広告費が売り上げの40%を超えるクリニックもあります。その中で、私はちゃんと学会でも認められた医学情報をブログで提示してきました。
こうしていざ患者さんが来院したら、多くの患者さんは私のこのブログを視ているから、知識を持ってきます。でも患者さんは一人一人違う顔です。私は理想像を学術的に学んできましたし、キャリアーが醸成してきました。更に顔面のバランス、身体とのバランスも人それぞれですから、こちらが診察で情報を得なければ、、手術法の提示にもデザインにも至りません。だからまず計測、検査が必要です。口周りは顔面の中でも大きな部品ですから、顔面との比率が重要です。正面で上中下の顔面の比や口唇交連の上下の比を測ります。また赤唇の厚みや形、赤唇縁のカーブも診ます。次に側面から診て鼻、口唇、頤などの位置関係を調べます。要するにE-ラインや鼻唇角の位置や角度も診ます。こうして患者さんに合ったデザインを提示し、シミュレーションして見せたりします。手術法とデザインを決定するまで手間暇を掛けます。昔から形成外科領域では、先輩医に、出来栄えにデザインが半分、手術が半分は寄与すると言われてきました。
こうして手術に至るまでも時間を掛けますが、手術も時間を取ります。一般的に手術は早いが巧いとする評価がありますが、それは全身麻酔や半身麻酔での体力への影響のためです。形成外科領域ではデザインを精密に描くだけでも時間を掛けますし、切開も精細です。更に切開切除手術では縫合が重要です。傷跡を目立たなくするのには真皮縫合の質と量が担保します。患者さんは知り得ませんが、真皮縫合をを終えた時点で隙間がなく合わさっていないと術後傷跡が広がるのです。形成外科医局で手術していた若い頃、真皮縫合を終えた時点で先輩医が引っ張ってみて、隙間が出来たら、切られて「やり直しい〜!。」と意地悪されたものでした。今でも肝に銘じています。だから後戻りしないのです。
症例は、44歳女性。約8年前に当院に通っていた。14年前には当院で下眼瞼の?手術を受けている。更に16年前にSでL型プロテーシスを挿入している。経年変化でショートノーズになった。20年以上前に頬部の脂肪吸引受けて、げっそりしたのでその後脂肪注入やヒアルロン酸注入をしてきた。この間いろいろ気になったが、特に上口唇が長くなったので悩み、調べているうちに前に罹ったことのある当院のHPやSNSを見つけて、私が多くの症例を経験しているので、久しぶりに来院した。
早速診ます。一目見て、長い上白唇と小さい口唇横径。そうであれば計測に移ります。人中部の上白唇の縦長は23㎜。上顔面60㎜:中顔面63㎜:下顔面65㎜と下が若干長い。上口唇(白+赤)31㎜:下口唇(赤〜頤尖)34㎜で黄金比率よりも上が9㎜長い。E-ラインよりも口唇が4㎜前方。赤唇は前突。C-カールはある。従って造らなくて良い。6㎜切除では、下口唇を挙げる為に頤に梅干しが1ヶ月以上続く可能性大。鼻孔底隆起,Nostril sillが低い。人中には溝はあるが、稜線が低い。笑顔を造る癖でCupidの弓がだるい。口唇結節=上赤唇中央の膨らみはある。強調したいから鼻柱基部で1.5㎜ずつ寄せる。
顔面部品の横の比率は、内眼角間29㎜:鼻翼幅35㎜:口唇横径54㎜で口角挙上術は垂直から25度斜め方向に6㎜が適応か?。
1週間後再診。他症例も視て、23㎜を6㎜切除しても17㎜2しかならないと訴えられる。無理はしないで3ヶ月以上空けたら3〜4㎜追加切除可能と説明した。できれば半年待ちたいとも告げた。すると患者さんは、合わせて10㎜短縮なら赤唇が厚くなるので、予め横径を拡大して置きたいと希望を述べた。計算して45度6㎜を予定した。念のため漢方処方も希望された。
1週間後に手術直前診察してデザイン決定した。上白唇は6㎜切除。1.5㎜ずつ寄せる。口唇横径は真顔では49㎜でした。黄金比率を計算して56㎜目標とし、45度方向に6㎜挙上を予定。
今回は各方向の術前、術直後の画像を並べてご覧頂きます。
上に正面像。お望みの形態を得られました。
実は本症例は無理にお願いして、術中の画像をたくさん撮らせてもらいました。手術の直前から順を追って魅せます。
上左図は術前。上右図はデザイン開始。まず上の線、両側鼻翼の付け根と鼻孔底隆起の直下。と鼻柱基部を結びます。
次にキャリパー(コンパス型の精密計測器)で両側鼻翼基部下と鼻柱下に6㎜の点をマーキングし、それを結びます。そこから両側の鼻翼の上に向かってすぼめていきます。
いきなり笑顔で口角を挙げてもらいました。先ず口角の角をマーキングし、上下赤唇縁を鼻翼基部の垂線下までマーキング。
口角点から斜め46度方向にマーキングし線を書きます。上赤唇の線と三角形で結びます。上右図は!さていきなり、局麻直後に口角のデザインを切ります。といっても、浅〜くスワンモートン社(UK製ですが、形成外科の発祥地で形成外科では定番)の#15Knife(メス)でデザインをトレースする様に切開しておくのです。消えると困るからです。
口角を挙上してからだと、白唇が縫いにくいので、やはり白唇から手術開始します。いきなり皮膚、皮下脂肪全層を切除します。底には口輪筋を全層残します。右図はその口輪筋を縫合しました。折り畳む様に縫い寄せて外反を意図します。
上左図は両側鼻翼基部を矢状方向に真皮縫合(*脚注1)後。すると、そもそもデザインを視ても外側の線と内側の線は長さが違うので、鼻翼横にDog Ear(*脚注2)が出来ます。対処としては外側の皮下を剥離トリミングしてから、つじつまを合わせて真皮縫合します。上右図の如く、巧く合わせられました。外側の皮膚がわずかに膨らんでいますが、術後経過中に収縮して平坦化していきます
創全長を、真皮縫合します。この時点で隙間が無い様にしないと創跡が拡がって後戻りします。全長で最低18針真皮縫合して、隙間無く寄せました。続けて皮膚上から外縫いします。6カ所結び目を造って、間を連続縫合します。真皮縫合で縫い合わせたのにわざわざ外縫いするのは、わずかな段差でも合わせたいからです。真皮縫合の倍以上、細かく、小さなバイト(咬む事=掬う幅)でピッタリ合わせます。
続けて口角挙上術へ移ります。上左図は右口角上の三角形を切除しました。皮膚、皮下脂肪を全層切除し、口輪筋を露出しました。更に赤唇部と白唇部の口輪筋層を切開して分けます。止血後、上右図の如く口角を三角形の頂点に縫合します。赤唇には真皮がないので筋肉と真皮を真皮縫合(?)します。皮膚も一針縫合してあります。
仕上げは、上下の口輪筋を縫い合わせてから皮膚縫合します。下口唇の創は赤唇と白唇の長さに差があるので、つじつまを合わせて縫います。
上の図集の様に手術が進みます。上白唇短縮術は約1時間45分。口角挙上術は約1時間。合わせて3時間近く掛かります。そうでなければ丁寧な手術が出来ません。
今回手術中に沢山の写真を撮りました。実は学会発表を依頼され、その為の画像が必要となったからです。北里大学形成外科医局時代の後輩で、私が指導した事もある医師が、5月に開催するJSASの会長を勤める事になり、断れなかったのです。本症例は学会発表に利用する事も快諾して下さったので、沢山撮りました。誠にありがとうございました。
1週間後鼻翼部を除いて抜糸しました。
形態は良好で患者さんは満足しています。腫脹は軽減傾向です。左頬にある内出血は手術の影響でなく別物だそうです。
ちなみに患者さんは慎重で、48時間までは食事や会話を制限し冷却したそうです。その結果として、創傷治癒が順調で、腫脹軽減も周囲の組織に注入がなされている割に早い。脂肪注入や、ヒアルロン酸の入っている組織が隣にあるとそれは水分を吸着するので、腫脹が倍加する筈です。訊いたら、「周りもずっと冷やしていました。」と当たり前の様に答えます。私「あゝ〜よかったですね!。」と感嘆すると同時に、そういえば術前にも術直後にも翌日にも、予め釘を刺しておいたと思い出しました。守ってくれて結果が早く治って、いい患者さんです。いや、この患者さんは取り組みが真面目なんですね。術後の精神性も安定しているからより経過が順調なのです。
術後2週間で鼻翼の横の糸も抜糸します。
創の経過は順調です。
赤唇の位置も可愛いです。白唇は明らかにスッキリしました。まだ腫脹は残っています。
術後1ヶ月で魅せて下さいました。
形態的にお悦びも、二回目を確実に希望しています。
二回目は3ヶ月以降とします。ですから来月にも傷跡の状態を診ましょう。さらに他の部位も相談しました。その節も使わしてもらえるかな?。
今回詳しく丁寧に書いたので、患者さんも満足され、「よく書いてくださってありがとうございました。」とお礼をいただきました。いやいや、私の方こそお礼を言いたい優しい患者さんです。今後ともよろしくお願いします。来月をお楽しみに!
脚注は順次加筆していきます。
脚注1:これまで何度も書いて来ましたが、真皮縫合は切開(切除)縫合術の中の最重要手技です。形成外科医の独自の技術です。何故ならトレーニングに何年も要するからです。これもいつも言いますが「糸切り3年、真皮縫合6年、皮弁形成と眼瞼形成10年。」と唱えてきました。ですから形成外科医局で6年以上トレーニングした医師しか出来得ません。美容外科に最初から入った若造の医師や他科からの転向医には不可能な技です。見分けるには経歴を読みましょう。
ところで真皮とは、皮膚の表層では無く、約0.2〜0.5㎜深部のコラーゲンの層です。切開縫合した皮膚は、創治癒の際に、先ず表皮が4〜7日で癒合します。でも真皮層のコラーゲンが強固に癒合するには最低3週間、成熟するには3か月掛かります。この間を真皮縫合で寄せておかなければ徐々に幅が拡がってしまうのは当然です。真皮縫合を強固にすれば創跡の線は幅がゼロで済み、つまり後戻りもしない訳です。ちなみに糸は約3か月で溶解して吸収される素材の物を使っています。それにしてもわずか0点何㎜の深さにちゃんと糸を掛けるのは難しく、トレーニングを要するのは当然です。
美容医療の手術の中で、顔の前面の見える部位に創跡を造る手術は主に上白唇短縮術と眉下切開術の二つだけです。ですからどちらも形成外科医の独壇場であるべきですが、真皮縫合を出来もしない、またはその意味も知らない、またはさぼる美容外科屋が時折手を出しますから、皆さん気をつけましょう。
脚注2:Dog Earとは読んで字の如く〔犬の耳〕です。書籍のページの角を折るとこの形が出来ます。”しおり”の替わりですね。私は毎朝新聞を読む時にペラペラめくりながら面白い記事が載ったページにDog Earを沢山造ってしまい家族に怒られます。同じ様な形で、切開切除創を線状に縫合する際に両端に余った皮膚が膨らんでしまうのを、Dog Earと称します。以前に若い形成外科医が自らを戒める様に言いました。「ドッグイヤーは形成外科医の敵ですよね?!。」彼はトレーニングして上手になりました。私は最近口周りの手術の専門家の様に云われていますが(違います)、この手術では必発です。最近やっと、巧くつじつまを合わせて、ずらして縫合していけば目立たなく出来るようになりました。
当院では、厚生労働省より改定され施行された省令「医療機関ホームページガイドライン」に遵守しホームページに加筆を行っています。
施術のリスク・副作用について・麻酔薬にて、アレルギー反応を起こす場合があります。その場合は適切な処置を行います。・腫れは個人差がありますが、手術直後から少し腫れがあり、翌日がピークで徐々に引いていきます。目立つほどの大きな腫れは1~2週間程度です。・術後のむくみや細かな左右差の改善には、3ヶ月程度かかります。・内出血が起こった場合は完全にひくまでに2週間程度かかることがあります。・感染予防のため、抗生剤を内服していただきます。・抜糸までの間、鼻下を伸ばす表情はお控え下さい。・口唇部の違和感は、2~4週間程度かかります。・手術後2週間は、口を大きく開けることはお控え下さい。・手術直後は、つっぱりを感じることがありますが、2週間程度で改善していきます。・手術当日は、洗顔をお控え下さい。・手術後3日間は、飲酒・激しい運動・サウナ・入浴など、血流が良くなることはお控え下さい。・手術後1週間(抜糸まで)は、鼻孔部位のお化粧はお控え下さい。・ケロイド体質の方は傷跡が残りやすい場合があります。
費用の説明も加えなければなりません。上口唇短縮術は28万円+消費税。口角挙上術は25万円 +消費税。ブログ掲載の契約を受けてもらえたら、出演料として20%オフとなります。