何度も記してきましたが、口唇は赤い部位だけではありません。赤い部位が赤唇、その上の白い部位も口唇で白唇と書きます。読み方は’せきしん’と’はくしん’です。白唇を【鼻の下】と著すことが多いのですが、部位の名称になっていません。白唇と著す方が逆に解りやすいと思いませんか?。
洋語にはちゃんと単語があります。VermillionとWhite lipです。ご存知の人もいると思いますがVermillionはColor,色の種類です。赤唇の色を表します。綺麗な言葉でしょう?。White Lipは訳すと読んで字の如くです。形成外科医は口唇裂の治療に携わるから、口唇の正常な形状を学びます。口周りは繋がっていても、各部位ごとの解剖学的構造を知らなければ、口唇裂の手術をできませんから用語を世界共通にしなければ学べません。そう言えば進化人類学分野でも赤唇と白唇との用語を使います。人間だけ赤唇がVermillion colorで、性的象徴としている(例えば猿はお尻がVermillion)のは直立しているからです。
もう一つ人中短縮術と称する手術名は誤りです。そもそも患者さんと話していて、人中とは何か(人の真ん中=鼻柱から赤唇の弓の底=実は胎内で顔が造られていくも過程で最後にくっ付く溝)知らない人もいます。そして人中だけ短縮する手術は最悪です。富士山型製造術です。どうも韓国を発祥とするらしく、SNS上で横行しています。ビジネス的美容整形屋が利用して、人中短縮術との手術名が患者さんを騙すために使われています。創を短く出来るから楽なのです。その結果私に富士山型の修正術が殺到しています。
昨今の美容医療はインターネットでの情報が横行してきたため、患者さんが”情報”を得やすくなっために、身近になったのです。ただしそれは”情報”で”知識”ではありません。インターネットはクオリティーの高い、科学的(医学的)に認められた説でなくても流布できます。本来身体に関わる医学的知識は、その分野の経験の深い専門家が集まって議論して、普遍的な学説が成立するのです。ビジネス的美容外科は、あたかも自説を医学的に認められた正しい知識を装って、インターネットに載せて客(患者さん)を誘引しているのです。私は学会で勉強して、論文も読んで、少なからず発表もして、普遍的な美容医学を基に診療してきました。
前に言いましたが、父は約60年前に美容外科を開業しましたが、他の医療者に限らず市民からも揶揄され続けました。私も小学生時に、「おまえのお父さんはやくざいし(薬剤師でなくヤクザ医師の意味)だ。」とバカにされて、悔しい思いをしました。父は学術活動に精を上げていました。私が医師になって大学病院の形成外科に入局したのは、「勉強して来い!。」との父の進言が影響しました。ですから私はビジネス的チェーン店系美容整形屋とは一線を画して、一人一人の患者さんに合わせた、しかも医学的に認められた診療をモットーとします。
本題に戻ります。赤唇減量術はオーソドックスな手術です。日本人は厚い赤唇を好みません。品性の問題です。唇は摂食の入り口ですから、厚いと食い意地が張って見えるのです。骨格的に歯槽が出ていて赤唇がでていると尚更です。
E-ライン,Aesthetic line は鼻ー口ー頤を結んだ線だ直線が理想とされます。症例は鼻も高くし、頤は前方にあり、骨格的に上下歯槽骨が前突していないのに、赤唇が厚く、口を尖らして見えるから赤唇を薄くする手術の適応があります。赤唇切除術は露出部でなく、口を閉じた際に上下が合わさる交連線の後を切ります。最近見聞きする、M字型に切除して赤唇の形をセクシーにするデザインは目的が違います。私がよく書く、キスシーンの口を造るデザインです。ですから特に男性には似合いません。今回は取る部位をよく検討して適度にスッキリさせます。画像を視ていけば判ります。
赤唇の皮膚との差異は、皮膚には角質があって表皮細胞を包んでいるのですが、赤唇の外側は角質が薄いので乾燥してカピカピになり易いし、また真皮層がなく粘膜下組織なので軟らかい。薄いので皮下の血管が透けて見えるから赤いのです。チアノーゼ(血流が落ちて酸素不足になり還元ヘモグロビンの色)で紫になるのもそのためです。そして上下の口唇が合わさる交連線の後ろ側は、いつも唾液で濡れているから潤いがあります。その境界は診て分かります。私たちはドライウェットボーダー,Dry-Wet borderと呼びます。そこで赤唇縮小術の傷跡は乾湿境界線のすぐ後ろにします。もっと後ろだと効果がないし内反してしまいます。でもそれでも、切除幅は最大3㎜に留めます。通常赤唇縮小術は、外反して品性を欠く人に適応しますが、内反が強いと貧相に成り、周囲とのバランスが崩れるからです。
症例は34歳男性。何年か見てきた患者さんですが、当初から赤唇が厚いのは気になっていた。男性でもキャラクターに似合わない印象だった。画像で見てわかる様に、口角挙上術も受けていて、その際昨年暮れにも赤唇の縮小術に触れている。本年に入ってからも毎回相談されていた。途中他院でも相談して、安価なので迷っていたが、デザインが不可解なのを指摘したら、やはり私に戻ってきた。今月に入って再相談時に、口輪筋と赤唇の厚さのバランスがあっていないのを指摘した。力を入れないで開いているとぼてっとしている。結局口元の問題は、口、鼻、骨格の三要素が影響することを説明し、まずは赤唇縮小術を行って一つ前に進めることを進言したら、やはり手術に到った。デザインは画像を見てわかる様に、上口唇は全長を薄く、下口唇は口角部のサイドが薄いのに、中央部だけ厚いのが野暮ったい印象なので、中半だけ切除することとした。切除幅は上に書いたように3㎜です。
画像を視ながら説明します。
上左図の術前像は締まりのある口ですが、白唇から前傾しながら赤唇が前に出ています。上右図は上下の切除デザイン。Dry-Wet border の後で、上口唇は両側口角間を全て3㎜切除するデザイン。下口唇は中半分を3㎜切除するデザイン。
上左図は更に上赤唇を外反させて、上口唇のデザインを見せます。乾湿境界は視て判りますね。交連の直ぐ後に切開線があります。従って逆に下口唇は外反させないとデザインは見えません。上右図は下赤唇を見せます。唇から歯槽に折れ返る前庭線からは離れています。
術直後です。創は交連線より後ですが、糸が見えます。厚さは腫脹で増強していますから薄くなっていません。
右斜位像でも上左図の術前と上右図の術直後で減量して見えませんが、下口唇は術前は中央が厚く、口角部が貧弱だったのが、術後は全体がなだらかなカーブの厚さになりました。
右側面像では減量して見えますが、縮尺の差かも知れません。術前は赤唇縁からぼてっと厚かったのが、術後は 赤唇縁から後に巻き込んで品があります。そこが狙い目です。
術後2週間で診ました。
腫脹が軽快すると形態が見えます。上赤唇の中央が前突していたのが治りました。下赤唇縁のカーブが台形から円弧に変わりました。中央部を内反させたので頤唇溝がはっきりして締まりがある口元です。
斜位像でも側面像でも品が出ました。患者さんは「もっととってもよかったんじゃない?。」と訊いてきましたが、私「丁度良いしデザインの勝利だぜ!。」と釘を刺しました。次に進めます。
術後4週間で診ます。
口周りは運動範囲が多く、しかも無意識に動くので画像も変わります。無理に閉めないでもスッキリした感じが落ち着いた雰囲気です。
追加切除を希望しましたが、術後3ヶ月に検討することにしました。
術後3ヶ月で完成を診たいところです。
充分満足されました。「サイズ気に入りました。」と言ってくれました。その際、久しぶりに笑顔を作ってくれました。なんか明るい表情です。
話題は他の部位の問題に移りました。