もう20年近く前になりますが、本邦で唯一と言っていいと思われる、リフト手術に命を掛けているUt先生と、学会の帰りに新幹線の中で勉強会をしました。彼はその数年前まで、世界的にリフト手術の定評の高いテキサスに留学していましたから、リフト手術に関しては今でも深い知識を持ち、研鑽を続けています。その際に第一声、「Jowlは一時的だ。そうそう腫れている間は挙がっても後戻りが多く、直ぐ戻るのですよ!。」私は当時、北里大学形成外科・美容外科医局で助手兼研究員を勤め、医学博士論文を書いていたのですが、大学病院で美容外科臨床部門にも携わりながら、時間があるので医学論文を読みまくりました。Ut先生の話すテクニカルタームをかなり理解出来る様になっていて、「森川先生結構勉強しているね。」と誉められました。彼は4学年上の元上司2年間一緒に仕事をした事がありました。
その際に教えてもらいました。リフト手術はいくつもの方法が有るが、評価点は二つ。形態的変化の効果と持続性がポイントで、相関するが同時に満たす訳ではないと力説してくれました。その手術法ですが、剥離層と剥離範囲が結果を左右するから、Sクリニックとかでやる様な、切って縫うだけのナンチャってリフトは話しにならないし、糸を掛けるだけでは持続性はゼロに等しいと云われました。リフト手術に命をかけているUt先生の言なだけに重みがありました。
剥離層は表から、皮膚+皮下脂肪浅層、筋膜と筋のコンプレックスつまりSMAS、骨膜の三層がまず思いつきますし、当時はリガメント法が概念だけで、まだ手術法としては開発されていなかった時代でした。そして剥離範囲は結局、SMASは耳下腺より前はペラッペラで使えない事。ならば皮下剥離でもJowlの直ぐ後まで達すれば良いと教えてくれました。骨膜の下に入るのは難しいだけでなく、ものすごく大きな侵襲なのでやりたくないと言っていました。なお持続性に関して、Ut先生は頬に黒子状にTatoo を入れて、手術前から移動距離を計時的に計測して、後戻りの量を毎年学会報告していました。定量的で科学的です。美容外科を医学に昇華しようと言う心掛けに同意したものです。私は産まれながらの美容外科医として、美容医療を医学として捉えることが務めだと思っていましたから、感動しました。
こうして順番を教えてくれました。一番効果的で長持ち(持続性大)なのは、リガメント法だろう。次に広範囲皮下剥離リフトは、Jowlには効果的で、持続性は2番手。SMAS法は剥離範囲が限定されるから。意外と保たないと教えてくれました。私何ぞは、形成外科出身の美容外科医として顔面神経をこの目で見て同定しているのでSMAS法は得意だったので、頭をかち割られた気がしました。ついでに言えば、北里大学形成外科・美容外科医局では、当時のUc教授の下、耳下腺腫瘍手術を積極的に教えていましたが、Prof.Ucが言うには「耳下腺腫瘍の手術は顔面神経の勉強になるから、美容外科のそれもSMAS法リフト手術に役立つから、私は皆に経験させたいのだ!。」と医局員には優しく豪語していました。また勉強してこないと、術者を交代させることさえありました。
こうして切開リフト手術は、10年前くらい前までSMAS法を使ってきましたが、ここ数年は広範囲皮下剥離リフトを多用してきました。Ut先生が言うに、Jowl に関しては何をやっても難しいが、皮下広範囲剥離リフトはお奨めの一つだと、教えてもらっていたからです。
そして約5年前に3Dリフトが導入されました。これは耳前部から、直径5㎜のコーンが1㎝間隔で付いた糸を直接Jowlに一度引き出します。その時「糸でも直接Jowlに掛ければ挙がるな!。」「これだ!。」と思いました。それまでのスレッドリフトと違い、挙げるのが難しいJowl を、確実に挙げられそうだと思いました。ただし糸は永久に入っていると、加齢で皮膚が弱ると皮膚を突き破って出てきますから、絶対に吸収性のものしか使えません。従ってもちろん、持続性は有りません。毎年受けている人も居ますし、長くても3年で後戻りします。瘢痕が出来て持続する等と言う人も居ますが、実際に5年後に切開リフトしたら瘢痕は有りましたが、線状の瘢痕は引き上げ効果の持続性を保つ程ではあり得ませんでした。
前置きが長くなりましたが、3DリフトでJowlに溜まった皮下脂肪を抱え上げて、結果的に持ち上げた皮膚皮下脂肪が、エラ(人間は水棲動物=魚ではないので鰓はなく、本来は下顎角部)の上に膨らんでしまうので、皮膚を平らにするためにコグ(トゲトゲ)糸リフトを併施する方法を、私は多用しています。Jowl を引き挙げる効果は充分に得られます。ですからJowl lift と称する場合、スレッドリフトと切開+皮下広範囲剥離リフトの二方法を含む様になりました。
Jowl は一般英語で、動物の垂れた顎という意味です。4足歩行の動物は下顎の後ろの組織が垂れるのです。人間は下顎の下は首ですから垂れないで、下顎の上の組織が膨らみます。日本ではブルドック状態と捉えます。判りやすいので、私はよく使う言葉ですが、美容医学の勉強を怠るチェーン店系の美容整形屋の頭の中には、この様な概念を持ちません。
今回はスレッド(英語で糸,string より太い)リフトでJowlを挙げます。症例は50歳女性。7年前から当院に罹って幾つかの美容治療を受けてきました。
画像は各方向別に術前とデザインから術直後、術後2週間まで並べて観ましょう。まずは正面像。
上二葉は術前とデザイン後。デザインは下顎縁より側方へ膨らんだJowlに2点を描きました。
術後は、両側の2点がわずかに凹んでいます。
下には側面像群。
上に左右の側面像。Jowlの前にマリオネットラインが見えます。
上にデザイン。Jowl の2点の刺出部と、耳前部に2点の刺入部が描いてあります。耳前の刺す点は頬骨弓より下に置きます。骨の上は刺しにくいからです。
上に術直後。やはり刺出点は凹んでいます。ただし糸は一度出してから、糸がまだぶら下がっている状態で座位とし、挙がり具合と凹みを見てもらいます。通常は、1週間で凹みが消えるこの程度をお勧めとして、よければ皮膚直上で切り捨てます。
マリオネットラインは見えません。
上に右斜位の術前像と術直後像。ちょうどJowl の正面から見るので、膨らみは見えませんが、マリオネットラインは明らかに浅くなりました。
左斜位像でもマリオネットラインが浅くなりました。
スレッドリフトは数ヶ月の中期的経過が重要ですから、先ず術後1か月まで載せようと考えていましたが、とりあえず術前から術直後まで載せ始めました。
術後2週間で画像をいただきました。
よく挙がっています。まだ腫脹は残っていますが、下顎ラインがカーブを描き、その上の頬の外側への張り出しが減っています。
両側斜位像では、Jowl を正面から見ますが、膨らんでいません。
両側面像では、下顎縁のラインより下に垂れていません。失礼な言ですが術前は”しもぶくれ”の容貌でした。骨格的には下顎骨が張っていないのにもったいない弛みでした。見事に引き上げられ、重心が揚がりました。今後の中期的経過が楽しみです。
当院は、3年前に厚生労働省より施行された省令「医療機関ホームページガイドライン」に遵守しホームページの修正を行っています。
・麻酔薬にて、ごく稀にアレルギー反応を起こす場合があります。その場合は適切な処置を行います。・腫れは個人差がありますが、手術直後から少し腫れがあり、翌日がピークで徐々に引いていきます。目立つほどの大きな腫れは2日~1週間程度です。・術後のむくみや細かな左右差の改善には、3ヶ月程度かかります。・内出血が起きる可能性があります。・感染予防のため、抗生剤を内服していただきます。・手術直後は、糸を挿入した部位は、笑ったり・触ったりすると違和感や痛みを感じることがありますが、2週間程度で改善してきます。・糸を挿入したところが、一時的に違和感(異物感)や引きつれ感を感じる場合があります。1~3カ月程度で徐々に改善していきます。・稀に、糸を挿入する針孔から感染する可能性があります。その場合、適切な処置を行いますのでご来院ください。・手術当日は、洗顔をお控え下さい。・手術後3日間は、飲酒・激しい運動・サウナ・入浴はお控え下さい。・手術後3日間は、手術の刺入部位のお化粧はお控え下さい。
費用の説明も加えなければなりません。3Dリフトは14万円+消費税。コグ糸は一本3万5千円+消費税。ブログ掲載の契約を受けてもらえたら、出演料として20%オフとなります。