2017 . 4 . 15

眼瞼の作る窓の形態は重要で、機能を司ります。

今回の症例はPolysurgeryとなっている患者さん。まず機能的改善が不足なので、私共としてもやるしかないのです。結果的に形態的にも良好といえない状態ですから、とにかくきれいにしましょう。とはいってもそれなら、機能と形態の持続性も求めたくなるのは人情というものです。症例は36歳、女性。先天的には狭い二重瞼で、15年前に他院で埋没。ラインは浅く残るが、皮膚が弛緩したため、5年前に当院で眉下で皮膚切除して、開きやすくはなった。その際の画像でも既に瞼縁は挙がっていない。つまり眼瞼下垂を呈していた。その後徐々に眼瞼下垂に気づく。一度「情熱です。」で、なんたってな切らない眼瞼下垂手術を受けたが、開かなかった。萎える!

LF12mmと正常下限。眼裂横径27mmと標準的、内眼角間は既術にも拘らず36mm、ただし角膜中心間距離66mmと眼球位置が離れているから内眼角間距離がある訳で、あまり蒙古襞を除去しては涙湖(赤肉)が見え過ぎて奇異となるタイプ。ただし前医で蒙古襞は切除されたのに、拘縮が解除されていない。こうなれば私の出番です。Z-形成術による拘縮解除が求められる訳で、ブログをご覧になり、手術を希望されました。吊り目は蒙古襞の拘縮が関与しているが画像をご覧のとおりモンゴリアンスラントも傾きが強い。後天性腱膜性で左の外側だけは挙がっている。今回は一辺4mmのZ-形成法での眼頭切開をメインの希望とされ、後天性腱膜性眼瞼下垂に対しては当院のオリジナルの(なんちゃってではない)切らない眼瞼下垂手術=黒目整形ーNILT法で予定しました。

ところが手術当日の診察時にもう一度話し合い、どうせ目頭切開をするなら同時に眼瞼で切開を繋げた方がデザインがし易いと私は提案しました。さらに開瞼向上と持続性も求め、また前回の眉下皮膚切除手術からしばらくして、前頭筋の収縮による眉毛挙上が起きてきたために(画像で判りますよね)、5年でも皮膚が少し伸びたと考えられるし、どうせなら少しでも重瞼線を広くしておきたい希望もあり、切開法で行うこととなりました。

まず下に術前術直後の画像を並べます。

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本症例の術直後の画像では左右が違う大きさを呈しました。「大丈夫です。」この結果は挙筋の前転の程度に差が付いて見えますが、それは緩みを生じて揃ってきます。いいですか?、お間違えなく!、重瞼の差は瞼縁の挙がりの差に反比例するのです。決してラインが合っていないのではありません!。上図で左の重瞼が狭いのは開瞼が強すぎるからです。その原因の一つは術直後だからで、局所麻酔の影響の差も関与しています。局所麻酔は眼輪筋によく効いてしまい、閉瞼力を低下させますから、開瞼がオーバーになります。平均的には局所麻酔は2時間出切れますから、その頃には少し落ちます。手術は右から行いましたから局所麻酔を作用させたのも1時間程度の差がありますから、右側は局所麻酔の影響が焼失し、左側はまだ局所麻酔の影響が残るために開きすぎているのでしょう。

と言いながら、その後の画像はありませんからどうなったかは不明です。術後7日目には撮影させていただきますから、その節に説明を加えます。ならば術前術直後の比較は片眼でしてみましょう。

OLYMPUS DIGITAL CAMERAOLYMPUS DIGITAL CAMERAほーら、右眼瞼はとてもきれいな形態で良好な機能を魅せています。吊り目からアーモンドアイに変化しました。

OLYMPUS DIGITAL CAMERAOLYMPUS DIGITAL CAMERA実はその目で見ると、左眼瞼も開きすぎですが、瞼縁の形そのものは丸く挙がりました。もちろんオーバーであるのは認めます。

OLYMPUS DIGITAL CAMERAそして、術後4日目に消毒に来て下さったので、撮影させてもらいました。でも下から撮影したので、開瞼状態は不明です。左眼瞼はちゃんと下がって来ていました。次回の撮影予定は1週間目の抜糸時です。

いつものデザインを提示します。とはいっても、数字が重要です。

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下の線は、これまでの埋没でのラインである7.5mm高とし、切除は3mmとし上の線を設定します。外側から内側まで同幅とし、目じりを越えたらTaperします。目頭でのZ-形成は、縦辺は蒙古襞の稜線に蒙古襞の最下点から4mmとし、上辺も下辺も縦辺に60度で4mm長とします。眼瞼の切開幅の最内側をZの上辺でふたをする形にします。

今回はこのようなデザインでした。「って言ってもいつも同じじゃあないかあ?!」とおしかりを頂きそうですが、微妙に違うのです。人はみな同じ構造と形態ではありませんし、患者さんの希望も考慮しますから。数字が違います。それにこのデザイン法を自由自在に使えるようになるまで何年もかかりました。それに術中の所見は症例ごとに違います。特に複数回の手術症例では普通じゃない所見を呈しています。

一つは眼頭切開の再手術は創内に瘢痕があるために剥離がしにくいのですが、だから面白い。腕の見せ所です。画像はないですが、特殊な症例なのでロジカルに覚えています。蒙古襞の拘縮解除術のポイントは内眼角靭帯(用語では腱)の自由化です。上下に付着している眼輪筋の切離をどれだけできるかで眼頭の位置の移動の結果としての形態が変わります。本症例では、靭帯の前面に縦に走るはずの眼輪筋が瘢痕化していてどれが靭帯が見いだせなく、丁寧にしてやっとブラブラにできました。靭帯の深部には涙小管があるのですが、どこまで剥離していいかスリリングでした。人体を自由化できれば眼頭の涙湖が水平まで移動できるので、ここで剥離を止めればよいのです。上の近接画像で眼頭の位置が三角形に真横向きに変化したのが見て取れますよね。

もう一点、眼瞼には糸があるので、その周りに瘢痕がこびりついていますから、剥離中に部分的に引っかかり、そのたびに力を籠めなくてはなりません。そのたびにペースが変わり、時間もかかりますが、丁寧に剥がしていくしかないのです。そもそも手術の第一段階は壊す作業です。皮膚切除、眼輪筋切除、SOOFの切除、眼窩隔膜の前面の剥離までは、ばらしていく手技です。洋語ではPreparation といいます。学校で理科の実習とかで顕微鏡で見る標本=プレパラートと同義であれは準備された材料という意味です。つまりPreparation とは準備段階ですが、きれいにバラさえれば次の段階=組立というか強化固定がよりうまくいくのです。次の段階は脂肪除去するかの煩悩と安寧。その後挙筋の修復強化と固定、重瞼作成固定と、創縫合と進みます。

もちろん2次手術なので程度が難しく、やり過ぎ感が出ない様にデザインに細心の注意を払いました。同時に術前のConsultation:相談、診察(Counseling:助言、忠告、指導ではない。)を念入りに、時間を掛けて行って患者サイドも、医療サイドも丁度いいと考えられる手術の程度を見出してきました。結果は自ずから得られると思います。

とにかくこの手術は形態と機能を向上する目的ですが、形態はほぼ予想できます。機能上の不足はないでしょうが、オーバーな開瞼とその結果のバランスの不揃いは変遷していきます。中期的にはたいていの場合、残るオーバーコレクション:Over correction のサイドを気に入ります。つまり相対的にUnder correction となった方に追加したくなります。中期的=月単位に診て行って検討しましょう。まだまだ長い付き合いをしたい患者さんです。次週をお楽しみに!