症例は37歳、女性。細面(ほそおもて)で結構美人の患者さん。
顔面の縦と横の比は卵型で丁度良い。(画像提示できないのが残念です。)ただし上中下の比率は上顔面(生え際~眉の下)70㎜:中顔面(眉下~鼻下)60㎜:下顔面(鼻下~頤尖)65㎜であり、おでこが広いのは髪で隠せるが、中下のバランスが不満。中が短いのは鼻尖が上方にあるためで、下が長いのは上口唇(白唇部)が長いためです。
計測すると、鼻唇角が(側面で鼻柱と口唇の角度)110度を超えるので鼻尖が上方に向いている。鼻尖が上方で、しかも定規を当てると、鼻陵の延長線よりも低い。鼻柱基部〜Cupid‘s bowは20㎜です。15㎜以下が望ましいし、鼻柱基部が前方にあるために外反が無い。いわゆる鼻の下が長くて、ストンとしているタイプです。
鼻尖部隆鼻&下制術は耳介軟骨の2~3枚重ね:onlay がきれいです。但し軟骨移植はオープン法が好ましいです。軟骨移植鼻翼幅は34㎜と大きくないが、細面なので比べると大きいし、よく笑うので拡がらない様にしたいとの希望でした。でも縮めすぎると、逆に鼻尖との比率が崩れるので33㎜にデザインしました。
口唇は長いものは長いので、ちゃんと5mm以上切除したいし、口唇横長と鼻翼の比率からして口角挙上も必要なタイプです。デザインの数字も検討しました。
上記2点を治しましょうということになりました。患者さんも既に理解していて希望されました。どちらも何回もブログで提示している手術です。さらに付随する手術も検討しなければならないのは、これまでの症例を診て理解しているし、そうなるととにかく、優先順位と日程の決定が難しいのでした。
鼻尖への自家組織移植は、中央または適切な位置に確実に置かなければならないので、オープン法が好ましいのです。ガルウイングとも称します。カモメの飛ぶが如く鼻翼軟骨上で皮膚を持ち上げるのです。鼻柱の中ほどを切開します。口唇短縮手術は両側の鼻翼基部から鼻柱基部を切開切除します。つまり、鼻柱を下図の様に横に2か所切開しなければなりません。またフリーハンドでデザインを書いてみました。
同時に2本の切開をすると、少なくともその間の皮膚の血行が低下して、傷の治りが悪くなります。創傷治癒が遷延します。サイドからの血行はあるので治りはしますが、創傷治癒は一次治癒ならば早ければ72時間で表皮は癒合します。その深部の真皮は、数週間で毛細血管が再生し、傷の間をコラーゲンが橋渡しし、強くなってきます。だから通常1週間で抜糸ますし、そうならば傷跡は拡がらず平坦なままで、凹みも膨らみもしません。通常鼻柱の傷跡は見えなくなります。
ではどうすればいいか?。1、無理して同時にすれば、やはり傷跡が凹んだら、治すのが難しいので却下。2、第一段階を口唇とすると、傷が落ち着くのに半年かかるかも知れない。万が一肥厚性瘢痕になったら当分近くの手術はできない。つまり第二段階の鼻の手術が可能になる時期が予想できない。3、鼻の鼻柱の傷跡はまず3か月で安定します。コラーゲンが充分に析出して真皮層がしっかり硬くなり、毛細血管が再生して血行も正常化します。そうなれば第二段階の口唇の手術が可能となります。早ければ瘢痕が成熟化するのは3か月、遅くとも6か月はかからないでしょう。
ということで鼻の手術を優先します。まずは術前、術直後、テープ固定後の正面像を提示します。
13×10㎜の耳甲介軟骨を三つに分けて重ねてOnlay graft しました。鼻翼は33mmに寄せました。鼻尖の形はダイアモンド型に作れました。これがきれいな鼻尖の条件です。しかも、正面像でもハイライトが小さく見えます。位置は?、撮影の角度の差もありますが、鼻尖の下がりが描出されていません。撮影者のせいにしたら怒られますから正直に言うと、「そうです。」鼻尖下制術は腫脹によって鼻柱から鼻尖が持ち上げられてしまいます。正面像ではむしろ鼻尖が上に向いてしまいます。但し鼻翼は僅かでも縮小し、(術前では鼻翼をおっぴろげている。)あぐら鼻から丸い鼻翼に変化しています。
それでは、斜位や側面では?。上図は左から術前右斜位、術直後右斜位、術前左側面、術直後左側面の画像です。やはり鼻尖の上下の位置関係については角度の違いでよく判りませんが、下がって見えません。でも鼻尖のツンッとした感じは見事に作れました。側面像でも斜位像でも、術前は鼻稜(鼻スジ)の延長線上より、鼻尖が後ろにあります。術後画像では鼻尖が、鼻稜線よりわずかに前にあります。その結果鼻尖が認識されます。アップノーズとはこの形を言います。後で説明します
下面像では 術前と術直後で鼻翼の差と鼻孔の大きさが変わりました。鼻尖の両サイドの影も見られます。上右の画像では定規で鼻翼の幅が30㎜になっています。下面像で創をご覧いただくと目立つように思われるかも知れませんが、この創跡は見えなくなります。これまでのブログで証明されています。最近切開線をさらに工夫して、鼻柱の創と鼻孔縁の創の角に、段差というか切痕,Notch ができません。これは経過中にご覧に入れます。
今回の症例患者さんは、口周り+鼻という、私の得意分野を治したいと考え、ブログを見て来院されました。ありがとうございます。実は、口周りや鼻はブログ提示の承諾が得やすいのです。眼瞼だと個体認識がされるに対して、口周りや鼻では判りにくいのです。でも、鼻の手術は量的変化ですから、2次元画像では画像上の変化が、解説なしには判りにくいのです。ですから説明文章が長いので興味が無いと読めないそうです。
本症例の患者さんは当然興味を持ってご覧いただいたそうで、説明内容もかなり理解されていました。だから逆に上に書いたように、手術の順番とスケデュールも悩み、迷いました。今回第一段階として鼻の手術をしたばかりです。鼻尖の手術は腫脹が鼻尖に集中するため上に持ち上げられますから、経過を待たないと出来上がりが見えません。つまり画像上でも長期的経過を診ていかないと美しさが解かりません。
鼻の美しさはバランスとカーブと鼻稜のシャープネスが大事です。今回は鼻尖を作りましたがいい機会なので3点を説明します。
バランスは縦横の比が黄金分割比=5:8が基準です。顔面の幅も同様で、本症例患者さんは理想的でした。鼻稜も長く鼻根の高さがあるから比率は5:8に近いのですが、鼻尖が上方にありながら、低いため中顔面が野暮ったいのです。
カーブとは、側面から見た鼻スジの曲線で、鼻稜より鼻尖が前にあるとアップノーズ、後ろにあると鷲鼻と称します。白人は鼻稜が高いので鷲鼻が多発しますが、女性ではやはりアップノーズが美しいとされます。毎回書きますが、アップノーズとは鼻尖がチョンと高いのを言います。鼻尖が上方にあるのはアップノーズではなくショートノーズです。
鼻稜の屋根は低いよりはシャープな方がいいのは当たり前ですが、まったく鋭角なのは自然界ではあり得ない不自然形です。屋根の頂上には両側の鼻骨が癒合する平面があります。画像に見られる様にハイライトも2本できます。他院でシャープなプロテーシスを入れてきた人が不自然で見てられなくて、即座に入れ替えて上げたこともあります。本症例では鼻稜はストレートなので、鼻尖の形造りと下制術が適応になりました。
とにかく、鼻尖の手術は腫脹が集中して形態が出来上がるのは数週間先です。これまでの症例でも数週間後には必ず見事な鼻尖が見えてきました。もちろん経時的に画像提示していきますから、みなさんも楽しみにしてください。