そうこうしているうちに、切らない眼瞼下垂手術の症例提示をする機会が訪れました。これまでの3回分も合わせて考慮して頂くと解りやすいと思います。
久々に切らない眼瞼下垂手術=NILT法を提示する機会ができました。実は、モニター症例は、術後経過を定期的に撮影をさせて頂く約束なのですが、切らない手術では、消毒も抜糸も要らないし、腫脹等のダウンタイムも短い為、通常は再診する必要が低いため、モニター症例になってわざわざ撮影に来院して頂くのが申しわけない訳で、モニター症例をあまりおすすめしないのです。でも今回は有り難く引き受けて頂けました。術前に症状がはっきり見え、診断の下に結果が明確に推測でき、患者さんに喜びを与えられると予想されるから。さにあらず、読者の皆さんにもこの手術の適応を理解して頂け、この手術の有為性を提示できるから、引き受けて頂いた患者さんには、こちらとしましても感謝いたします。
症例は50歳女性。生来二重まぶたですが、ハードコンタクトレンズを、何十年との間装用してきました。なぜか瞼をよくこする癖もあるそうです。数年来眼瞼下垂に気付いたとのことですが、ここまでくれば中等症状ですから、数十年来のダメージで徐々に進行したものと考えられます。
所見として、三重、くぼみ目、開眼時常時前頭筋収縮(眉毛拳上)と眼瞼下垂に付随する症状の3点セットが伴っています。もう一つの所見である三白眼はぎりぎりです。注:三白眼とは読んで字のごとく、白目が三方向に見えることです。正面視では、正常でも、黒目は上眼瞼で上から2㎜以下は隠されています。下眼瞼は黒目の下縁と同高です。したがって白目は左右2カ所が見えますよね。眼瞼下垂が重度になると、下眼瞼が下がり、正面視でも下の白目が見えるようになります。これで3方向に白目が見えるから、三白眼と言います。そのメカニズムは難しいのですが、簡単にいえば、上眼瞼が開きにくいから、下眼瞼を下げて視界を得ようとしているからだと考えればいいでしょう。下眼瞼は開閉で、正常でも2㎜までは動くのです。この症例ではよく見ると、より重症側である左では、わずかに下に白目が見えています。
計測上は眼裂縦径(第一眼位=正面視)左:6.5mm=MRD3.5㎜ 右:7mm=MRD3㎜です。注:MRDとは、Margin Reflex Distance の略で、日本語に訳すと、眼瞼上縁と角膜の中央の距離です。写真を撮るときカメラでリングフラッシャーを焚くとそれが反射;refjexする点で、後で写真判定する際に使うと便利だからです。当院では、リングフラッシャーは使っていませんから、(眩しいから)写真では計測できません。
Levator Function:挙筋滑動距離は12mmと正常、つまり筋力は正常範囲です。腱が伸びた病態=腱膜性眼瞼下垂と診断されます。フェニレフリンテストをすれば、ちゃんと開くはずです。注:フェニレフリンテストは点眼薬でシミュレーションする方法で、目薬さすだけで、たちまち正常まで開くようになるなら、腱膜性。いまいちなら、先天性と考えられ、手術法が決められます。腱膜性では切らない眼瞼下垂手術が効きます。テストの通りの開瞼を得られます。
今回はこれらの診断結果から、切らない眼瞼下垂手術の選択となりました。
重瞼線は生来のものを1本だけ再建します。下図で黒点がいくつか付いていますが、これが糸を出して埋める点です。
手術は型のごとく、しかもしっかり締めました。下左図は右のみ終えたところです。今回は重症側の左側だけをするか、患者さんもちょっと迷ったのですが、そこで私は、「左だけ開くと、右はサボるでしょう。」瞼は片側がちゃんと開いていれば、よく見えるようになるので反対側は力を抜いてしまうのです。人間の脳は変なところで手を抜くものなのです。等とご説明して、ということで両側を手術したのですが、左を手術した直後の写真では、下右図のように、右が術前よりも落ちています。私はこの時「ほら言った通りサボるんですよ!」と言ってしまい、ナースが患者さんの代弁をして、「その言い方は失礼ですねエ!。」と怒られました。
この後、ちゃんと両側を手術しました。下左図のように、別に強さに差をつけたわけでもないのに(実は少し弱めに締めましたが?。)左右の開きがほぼ揃っています。”ほぼ”の意味はは、後で説明します。患者さんの脳が調節していると考えられます。ただし、術直後では、あまりにもオーバーです。目をひんむいていているみたいに見えます。そのわけは1、局所麻酔はごく少量(片側約0.2cc)でも閉瞼筋である眼輪筋に作用するからです。2、局所麻酔の作用で瞼の中にある開閉調節の神経器官がマヒしているため調節不良なのです。3、糸が筋繊維に食い込んでいき、ゆるみが生じるのですが、数日かかります。
実際、左から手術したので右との時間差が15分ありますから、下左図は右が終わった直後で左が落ち始めました。これは上記1の効果です。
下右図は30分後に写したのですが、局所麻酔が切れてきて開瞼調節ができ始めたので、正常サイズに近づいてきました。
もちろん、まだオーバーです。上記3の作用で1週間のうちには、さらに正常化します。楽しみですね。
今回切らない眼瞼下垂手術の適応、手術、術直後の経過を提示できました事を、患者さんに感謝します。これを見た読者の皆さんが、この手術の有意性、取り組み方を知って頂き、一人でも多くの方が私共を訪れて、多くの方に喜びを与えられる事は、私共の楽しみでもあります。