前回、眼瞼形成外科の話題について記載したつもりでしたが、よく見たら、医学的な知識はほとんどない、らしくない内容でした。あえていえば、眼瞼形成外科:Ophthalmic Plastic surgery という言葉を初出させたことが、アカデミックかといえましたかね。
今回は、先天性眼瞼下垂症と、後天性(腱膜性)眼瞼下垂症の相違や鑑別を述べようかと思ったのですが、初出ではなかったのですね。そこで、前回の補足(むしろ今回が本論と言えるかも知れません)をしたいと思います。
まぶたの問題は、機能と形態のバランスを考えなければ取り扱えません。私はよく言うのですが、よい形態はよい機能に基づき、よい機能はよい形態を呈すると言えます。
解り易く言えば、ぱっちりした目元はきれいですし、魅力的な目元は社会的に明るさと豊かさ(経済的な豊かさに限らず、文化的な豊かさも)をもたらすのです。医療は、生命を救い、身体機能を向上させることを目的とします。その結果国民国家の隆盛にも寄与します。医学が文明の利器である所以です。翻って、社会的機能、つまり気持ちの豊かさを求める美容医療は、文化です。私達眼瞼形成外科医は、機能と形態の両面を向上させることを目的としている訳ですから、現代文明と美という文化の二面性を持っていると言えます。
本質論はいいとして、眼瞼下垂症は発症として先天性と後天性に大別されます。この中の夫々にはいくつかの原因を内包しているのですが、細かいことはさておいて、主な原因として、先天性は上眼瞼挙筋の筋力低下という病態により、後天性は上眼瞼挙筋腱膜の伸展による筋収縮時の牽引力低下という病態によると分けて考えます。二つの違いをを説明します。
先天性眼瞼下垂症は、筋力の低下により挙筋滑動距離(従来は挙筋筋力と記されてきました。判り易く説明すると、まぶたを閉じた時の位置から最大の開瞼時までの距離です。最近では、挙筋収縮距離ともいいます。)正書では12㎜以上が正常とされ、それ以下は異常とされます。逆に言うと12㎜以下の人では、先天性眼瞼下垂が少なくても存在していると考えられます。軽度だと日常生活に支障を来さずに成長し、生活してこられるのです。でも機能低下ではありますから、スポーツなどで若干の損失を感じて過ごしてきた人も少なからず存在します。概ね10㎜以下となると、一般人からのはた目にも「まぶたの開きが悪そう?」な印象を与えます。8㎜以下ならまず、周りの誰もが異常を感じます。したがって私達でも、挙筋滑動10〜12㎜程度の患者さんの鑑別に苦慮することがあります。そこで、フェにレフリンテストをします。距離が上昇しないか正常化しない時は、先天性=筋力低下が原因の要素です。これについては後天性の説明時にします。
後天性眼瞼下垂症は、挙筋の筋力は正常なのに、挙状力が瞼縁に伝わらない状態です。上眼瞼挙筋は、下方の約1㎝は、腱膜とミューラー筋の二層に分かれます。挙筋腱膜とはその名の通り膜状の腱です。身体中の筋肉は直接骨とかに付着しているのではありませんよね。筋体の先は腱という伸び縮みをしない繊維の束となって、骨とかに停止しています。まぶたを挙上する上眼瞼挙筋は腱膜となって瞼縁の瞼板という軟骨のような硬い部分に停止しています。腱膜は硬く、伸び縮みしません。手術中に見ると厚紙のような状態です。挙筋の収縮をそのまま伝える作用がある構造です。これが何らかの原因で、瞼縁に力が伝わらなくなるのが、後天性眼瞼下垂症です。瞼板への停止部が剥がれていたり(コラーゲンという糊が剥がれて、ビヨーンと伸びて糸を引いている感じ。ビニールみたいに軟らかい。)、腱膜そのものの密度が減って、ゴム状態になっていたりすることです。こうなると挙筋の収縮距離に応じた挙上が不能となるのです。もう一つのミューラー筋は弱い筋で、切れみたいに伸びます。しかも随意的に動くのでなく、脳の働きで自立的に調節しようとする筋です。挙筋の収縮による挙上力を伝える作用はないのですが、先に述べた自律作用が利用できます。自律的には収縮しないので、腱膜が伸びても挙上を助けないのですが、ミューラー筋を強く収縮させる薬剤があるのです。先に述べたフェニレフリンです。点眼するとたちまちミューラー筋がしっかり収縮し、腱膜の代わりに挙筋の収縮力を瞼縁に伝えます。つまり、挙筋の筋力が低下していない後天性眼瞼下垂症では、腱膜が伸びていてもフェニレフリンテストではミューラー筋を介して挙上力が伝わるようになるので、正常に開くようになるのです。逆に言うと腱膜を介して伝わっていないということが判るのです。では、挙筋筋力はどうかというと軽度の先天性が隠れている場合もあり、だから、鑑別が大事なのです。
ここまで診断をきしましたが、長くなったので、原因や、治療法については次回とします。