2015 . 2 . 6

2015年もまぶたの診療に邁進致します。Ⅴ

これまで、疾病としての機序(=解剖的仕組み)と診断法について記述してきました。現在私達を訪れる患者さんの分類として、3種類に分けて考えて治療法を提示していきます。前回後天性眼瞼下垂の説明を始めたら、長くなってしまったので、一度手を止めました。今回は残りの2種類の説明です。

先天性眼瞼下垂:上眼瞼挙筋の筋力が弱い状態です。前回の後天性腱膜性眼瞼下垂では、解剖学的構造の変化が主体でしたから、構造の修復だけで治すことができ結果が得られる症例ばかりでした。対して先天性眼瞼下垂では、筋力の低下という生理学的異常が本体ですから、構造の変化という手術療法で得られる結果は、確実性に欠けます。外科療法の限界ではあります。しかし先天性眼瞼下垂症に対する内科的治療法は、リハビリ治療も含め存在していません。外科的治療法が行われます。さて、どのようにすれば弱い筋で正常並みに開瞼させることができるのかといいますと二つあります。

1;短縮または前転。伸びたゴムを短くして距離を稼ぐという方法です。実際にはかれこれ何十年の歴史があり、細かい手技は種々あります。ただし上眼瞼挙筋腱膜を短縮することは、必ず行われます。つまり上眼瞼挙筋の筋体そのものを縫い縮める訳ではありません。むしろただでさえ弱い筋体は温存するべきだといえます。この場合、腱膜は平均10㎜程度しかありませんから、短縮量も最大10㎜となります。また、ミューラー筋や、眼瞼結膜の短縮を加えることもありますが、私はいくつかの理由で、好ましい手技とは考えていません。この点も含めて次回理論を説明したいと思います。ところで短縮量ですが、術中に決めます。目安は、閉じた際に2㎜以下の隙間にとどめることが基準といえます。術前に挙筋筋力=挙筋滑動距離を計るとこれまでに強調してきましたよね。これは先天性と後天性の鑑別のために必要なことですが、先天性の重症度、そして手術法と短縮量の予測にも寄与します。挙筋滑動距離は、閉眼時の瞼縁の位置と眉毛を動かさないでの上方視時の瞼縁の位置の距離で、12㎜以上が正常と考えています。例えば、挙筋滑動距離が8㎜の先天性眼瞼下垂なら、下から上までが8㎜動くので、上へ4㎜スライドすれば上方視が正常にできるようになる訳ですが、閉瞼時に4㎜挙がってしまいます。閉瞼時は1〜2㎜下眼瞼の上に上眼瞼の瞼縁は重なっていますから、4㎜挙がると隙間が2〜3㎜できてしまうのです。薄目を開いてしまうのです。薄目はしょうがないとしても(子供では薄目を開いて寝ている人がほとんどです。)、角膜乾燥が問題です。ただし、閉瞼時(就寝時)に眼球は上を向きますから、隙間が2㎜までなら、角膜は露出しません。つまり2㎜以下の隙間なら、乾燥性角膜炎という重篤な合併症は生じませんが、2㎜異常だと起き得ます。ですから、挙筋腱膜短縮による先天性眼瞼下垂手術は、挙筋滑動距離が8㎜以上12㎜以下の症例に適応と考えています。これは切開法でも非切開法でもです。

2;そこでもう一つの方法です。挙筋の短縮では合併症を起こす可能性がある重症以上の先天性眼瞼下垂症例に対しての手術法です。上眼瞼挙筋の働きで、充分な開瞼が得られない人は、成長時に反射神経が発達してきて、開瞼時に前頭筋が激しく収縮します。眉を引き上げてまぶたを開こうとするのです。しかし眉を挙げても瞼縁までは遠く、所詮皮膚を介して力が伝わるだけですから、あまり開きません。例えば眉毛が10㎜挙がっても、瞼縁は5㎜しか挙がらないので、開瞼は足りないで角膜は露出しませんから、見えないのです。そこで、眉毛と瞼縁をつないでしまおうという手術法があります。これまでは、吊り上げ法と呼ばれてきました。私は前頭筋瞼板連結連動法と呼びたいと思います。材料として自家(患者さん自身からもらうもの)筋膜を移植する方法が従来行われてきましたが、犠牲が伴う訳です。例えば大腿筋膜では何週間かは走ると痛い。長掌筋腱ではリストカットみたいな傷跡が残る。側頭筋筋膜では咬むと膨らむなどです。近年、安全な人口筋膜が開発されましたので、私達はこれで、筋膜移植術を行います。実はゴアテックス;Gore texです。生地ですよね。医療用ゴアテックスはもちろん安全で、人工血管の材料として何十年も使われてきました。約30年前の医学生時代にも紹介されていました。しかもゴアテックスは、繊維が組織親和性のため、移植術後にコラーゲンが繊維に絡み付きずれなくなる性質があるのです。つまり糸なのに身体に同化して緩まないのです。これはいい材料だと思います。

前頭筋瞼縁連結法(吊り上げ法)はまず、閉瞼して眉の上と瞼縁の長さを測って20㎜なら20㎜の距離で繋ぎます。目を開こうとする時に眉を挙げれば、挙げた距離だけ瞼縁が挙がるようになりますから、8㎜程度の開瞼を得ることは簡単です。もちろん、閉瞼時には2㎜以下の隙間にするように調節します。瞼板に掛ける位置も重要です。眼瞼に対する挙上のベクトルが変わるので、外反や内反しないように注意が必要です。これも、術中に確認します。患者さんの日常生活は随分楽になるようです。ただし前頭筋を収縮して開瞼しなければならない状態が継続するので、頭痛や肩こりの軽減はあっても、解消はしないようです。おでこのしわも寄せなければならないです。片側なら、力を調整でいるけど、両側だと常時おでこに力が入らなければならず、つらそうに見えてしまいます。でも、顎を上げなくても前がよく見えるようになったと喜ばれます。私達としては可愛そうで、なんとか他に方法がないものか、悩んでしまいます。

さて、軽度の先天性眼瞼下垂に後天性眼瞼下垂が併発:この場合が難しいのです。そこでもう一度開瞼という動作を機序=メカニズムから、説明しながら```次回に詳述したいと思います。また延長してすみません。でも眼瞼のセッションはまだまだ続きますのでお楽しみに!。