2015 . 2 . 12

2015年もまぶたの診療に邁進致します。Ⅵ

眼瞼の診療の続きですが、さて、軽度の先天性眼瞼下垂に後天性眼瞼下垂が併発:この場合が難しいのです。

そこでもう一度開瞼という動作を機序=メカニズムから、説明しながら詳述したいと思います。下の図は、上眼瞼の断面図です。説明によく使われます。

美しい目の解剖

開瞼の仕組みを順に説明すると、まず意識下では、起きて行動するためには目を開けていたいので、脳が信号を出して、動眼神経を電気信号が伝わり、上眼瞼挙筋;上図のLevator muscleを収縮させようとします。筋は後ろは骨に付いていますから、収縮すると前が引き込まれます。前方は挙筋腱膜;Levator aponeurosisとミューラー筋;Muller`s muscleの2枚に分れます。腱膜は瞼板=まぶたの縁の前に、ミューラー筋は上に付き、まぶたを持ち上げます。

先天性眼瞼下垂症では、上眼瞼挙筋の筋力が生来弱く、まぶたを挙げきれません。後天性眼瞼下垂症では、挙筋腱膜の瞼板への付着が外れます。この時ミューラー筋が引き伸されてると、それを感知して、脳が挙筋への信号を強めます。それでも、腱膜を介しての挙上力は伝わらないのですが、ミューラー筋を介しての挙上が少々加わります。

ここが難しいところで、先天性に筋力が低下しているなら、短縮でスライドしなければ意味がなく、後天性に腱膜が外れているなら、修復するだけでいいのですが、両方の機序が併存している場合に治療法の選択が難しいのです。というのも、短縮は切開法でしか不可能ですが、修復は切らないで裏から、縫い止めることができるのですが、その違いは患者さんに取って、大きいのです。

切らない眼瞼下垂手術は自費ですが、ダウンタイムがほとんどなく、日常生活に支障を来しません。切開法の眼瞼下垂症手術は保険対象ですが、腫脹や内出血などの見た目に日常生活に支障を来す状態が1〜2週間はあります。

ですから、先天性眼瞼下垂症に、後天性眼瞼下垂症を伴った場合にも、切らない眼瞼下垂手術を第一選択とすることが多いのです。術前診察で、フェニレフリンテストをすれば後天性の要素の比率が判り、術後結果の予想がつきます。でもそこまでですそれでよければ切らない手術をトライしてみます。結果はたいてい満足を得られますが、患者さんが満足しても、私達専門家からみたら、今ひとつ感が残る場合もあります。さらに、人は目を見てコミュニケーションするので、結構目元の表情を感知していますから、はたから見ると何となく表情に生気がない状態が見えてしまうことがあります。

そうです。眼瞼下垂で、開瞼が不良だと、生気がなく見えてしまうのです。元気がない。疲れて見える。うつむき加減で暗い。そんな感じに捉えられてしまうのです。逆に言うと、開瞼が正常、または、日常的によく開いている人は、「キラキラ!」して、気持ちが入っているように見えます。もう一度上に書いた説明を補足しますと、起きているときは、生活している時、仕事している時です。その際生気とは、緊張状態の表出であり、自律神経のうち交感神経を優位にして、頭脳や身体の機能を最大限に発揮させるための基礎的準備状態です。人を始めとする動物は自律神経で動物機能を準備した上で身体の運動機能を発揮するのですが、人間はさらにその上で頭脳活動もします。言うなれば生気がなければ知性も発揮できないのではないでしょうか。

脳からの上眼瞼挙筋への信号が強ければ、生気にあふれ、「キラキラ!」するし、知性的にも見えます。逆に信号があっても先天性に筋力低下では、そうはいきません。筋力があっても、腱が伸びて力が伝わらないと無駄な力ばかり入ってしまいます。交感神経が異常に緊張してしまうと、いろいろな合併症を呼んでしまいます。頭痛、肩こり、頚部痛、腰痛。不眠、食欲不振。慢性的にひどいと精神疾患(鬱など)の原因になります。これらは、更年期障害の症状のほとんどとオーバーラップしています。更年期とは、読んで字の如く、更なる年頃つまり性的に更新する=女性では閉経し挙時不能になる前後に、ホルモンが大きく変動する時。具体的には、50歳の前後5〜10年をいいます。この頃が後天性眼瞼下垂症の好発期です。

またまた脱線というか、大風呂敷な議論を展開しました。きりがないので、今回はこれまでとし、次回から、もう一つの眼瞼下垂症に付随する病態である。蒙古ひだの説明を展開したいと思います。