当院では、午後の診療時間を予約診療とし、主として手術に専念しています。したがって、患者さんの都合で手術が延期になったり、予期せぬことでキャンセルになると、時間が空いてしまうことがあります。また、手術方法が予め予定していた内容と変わり、時間が空くこともあります。
過日、フェイスリフトを３時間で予定していた患者さんが、スレッドリフトに変更になりました。外国からの長期滞在者ですが、費用の問題もあったようですし、５０歳代でまだ早いとの判断ではありました。いつも言いますが、フェイスリフトは若年者でも一回しておいて、１０年毎にでも繰り返してもいいのですが、寿命までには費用がかさんでしまうので、近年は、若年時はスレッドリフトで、加齢後にはフェイスリフトでという人が増えています。
てな訳で、１時間半程の暇ができたので、それこそ若年者（３０歳代）のスタッフに、スレッドリフトをしてみました。どんなに簡単か？、どんなに楽な治療か？、を経験してみようという医療者としての興味と、本当に若年者でも効果があるのか？、の好奇心に対して答えてみました。
早速、症例写真をご覧ください。上左図は術前、上中図は右の施行直後、上右図は術直後です。
やはり若年者では、写真で明確に差が見える程ではないかも知れません。よく見れば、術前と術後の顎のラインのカーブの膨らみが違っています。角度が微妙に違うので解りにくいかも知れませんが、術前には顎先と耳垂（耳たぶ）の中点の突出があるのに対して、術後は緩やかになっています。ご覧の通り、今回は右の施行直後に写真を撮ったところ、明らかに顎のカーブに差が見えますよね。「これは明らかに差が見える！。」との画像が得られ、彼女はその点に満足していました。
今回は、両側口角から斜め下のたるみを耳前に引き上げることで、下顎縁つまり顎のラインのカーブをくの字からJの字に変えてみせました。これは若年者でも起きる加齢変化で、加齢とともに膨らみが増えて、いわゆるブルドック顔貌となってきます。
洋語（英語でもあり、ラテン語でもある）ではJowlと書きます。動物の顎下の垂れ下がりという意味です。そういえば、人間は口で食べないから口が出ていないのに対して、動物は口で食べるから、口が出ている。したがって豚や犬は顎から首がつながっている形になっています。これをJowlと呼ぶのですが、人間でも加齢に伴いJowlが弛んでくるのは、先祖帰り現象なのでしょうか？。
手術法はJowlと耳前を小さな刺の付いたスレッド（糸）でつなぐのですが、皮膚の裏に掛かって良く挙がります。糸は体内では溶ける素材で、吸収されて排泄されるので害はありません。約半年で無くなりますが、そこがメリットです。前にも説明しましたが、生体親和性と言って、体に一体化することが安全性を高めます。体内にゆっくり吸収され、本来が身体構成物質の一部と同じ物質なので害は及ぼしません。
さらに、糸が溶けた隙間には、刺激により体内からコラーゲンが析出して詰まってきて、引き上げ力を保ちます。コラーゲンは、細胞ではなく内容としての、身体の構成要素です。サプリではありません。身体の表面や内臓の壁は細胞が包んでいて、その下にはコラーゲンが詰まっています。骨や、筋肉にもコラーゲンが含まれています。もちろん、皮下組織にはコラーゲンがたっぷり詰まっていますが、加齢とともに減ってきて、たるみを生じるのです。そして正常のコラーゲンは約３ヶ月でリモデリング（古いものが分解され、新たに析出すること）しますが、物理的刺激でできたコラーゲンは、創の治る経過＝創傷治癒の機転と同じですから、強くしかも凝集していて、且つ長期間持続します。ですから、スレッドリフトによってできたコラーゲンの引き上げ効果は、１年から１年半もつと考えられています。
いつも言うのですが、フェイスリフトは５年分の若返り効果を狙いますから、スレッドリフトはその三分の一の持続効果ですが、費用も三分の一以下です。つまり費用体効果は同等と考えらます。ならばダウンタイムがないという意味ではスレッドリフトの方が有用性が高いともいえます。癖になって、定期的に受けられる患者さんさえいらっしゃいます。本当ですよ！
もちろん、私はフェイスリフトは若返り手術の基礎だと思っています。土台作りです。先ほどから説明してきたコラーゲンの生成が格段に高いのです。何しろ皮膚面を剥がして挙げるので、治る際に、面でコラーゲンが析出します。面で支えを作れるのでキレイに挙がります。だから基礎工事として１回受けると、いつまでも人より若くいられます。傷跡は消えると言っていいです。私がした患者さんは傷跡が見えなくなって、「どこだっけ?」と聴くことさえあります。難点はダウンタイムがゼロにはできないことだけです。でも当院手術では１週間程度です。３日間の仕事休みで受けられた患者さんさえいらっしゃいました。困らなかったそうです。大変喜ばれました。
今回は若年者に対して施行しましたが、スレッドリフトはいい手術です。フェイスリフトもいい手術です。ですから当院では、上記のごとくの詳しい説明の下に、良く検討して頂いています。しかし、今回そのために手術変更になりました。その結果時間が空いたので、逆にいい提示症例を作り、皆様にお見せすることができました。
