本症例は、片側の眼瞼下垂症です。埋没法の重瞼術を受けたのですが、原因不明で左の眼瞼下垂が徐々に生じてきて、左右差が目立って来たということです。開瞼に左右差があれば、見た目の重瞼の形も左右差を呈することになる解り易い症例です。これまで3回症例提示させて頂きました。今回微調整しましたので、予定通り当所からのの経時的変化を追いながら説明します。
それでは、術前、術直後、術後1週間、術後2週間の術後追加手術後、術後4週間での再追加術前、術後の順に画像を追ってみましょう。
症例は38歳女性。挙筋機能(挙筋収縮距離+最大瞼縁活動距離)は両側12㎜と左右差が無いのに、同じ力で開く=挙筋を収縮すると、力が伝わらない為に瞼縁の挙がり具合に左右差を呈する状態です。腱膜性眼瞼下垂です。後天性で、原因は物理的損傷と考えられます。下左図が術前です。
上右図の如く、術直後の時点では、内側が強すぎる様に見えます。逆に開瞼はほぼ揃っています。
1週間目には腫れが取れて、ラインが随分揃って来ています。でも、遠目に見ると何となく開瞼に差が見えます。そして、2点の間が直線的です。2点がまだ強いからでもありますが、真ん中に追加したくなりました。当所から3点にしておけば良かったとも言えます。
そして2週間目には、ラインはなだらかになったのですが、開瞼が落ちてきました。埋没法は、締め具合と、糸を通す位置のバランスが命です。術中の強さは、日時単位で必ず緩んできますし、麻酔の影響もあります。特に片側の場合、ピッタリ合わせるのが難しく、経過中に変遷していき最終的に揃ってくれば良し、そしてそういう経過なら、長持ちする筈です。ところが二重のラインが揃って来たのに、開瞼の左右差が生じてきました。開瞼が落ちると二重が狭くなるのは自明です。実は、2週間目には追加修正手術を予定しようと打ち合わせていました。1点追加だけなら、ダウンタイムはやり過ごせます。形態が優先事項ですが、機能も改善しようかどうか迷っていました。この経過を診てやはり、NILT法で開瞼を強化して、かつ中央付近の重瞼線のカーブをキレイに作りたくなるのは、私と患者さんで一致する見解となりました。そこで、左眼瞼中央部にNILT法を施行しました。上の術直後の画像をご覧ください。今回提示した画像の中で一番きれいでしょ?。とても年齢38歳には見えないです。さすがに瞼縁の中央部がかくんと挙がっているのは術直後だからで、症例患者さんも経験からして納得されていました。綺麗な経過画像を提示できて良かったと思いますが、経過は変遷します。ちなみに、本症例は顔貌全体が理想的バランスで、目の左右差が最大の欠点でした。うまく定着するといいのですが・・。
本症例は外面の全体像がバランスが取れて素敵な人なので、”眼瞼だけ!”どうにかしたい症例です。完璧を求められれば、こちらも追求したくなる症例です。片側の症例は、全く対称にするのが難しいのですが、少しでも近づけたく出来ることをしていきたいと思います。対処させてもらいます。この時点では、開瞼の差は容認できるし、カーブも綺麗です。挙筋の強化は限界かと考えられます。少なくとも、眉の挙がり具合にはまだ差が残っていますから、開瞼に差があるということです。そこで、左内側の重瞼点の修正を図るべきだと考えました。
上図が今回の術直後です。症例患者さんの当初の問題点は、左の眼瞼下垂と重瞼の左右差でしたね。初回の術前の閉瞼時の重瞼線の高さは7㎜で、左右同高でした。術前にマーキングして写真を撮ったのですが、行方不明になり提示出来ないので、「本当かあ?」っといわれそうですが、計りましたから本当です。
毎回述べてきましたが、もう一度説明します。開瞼力の差が、開瞼時の重瞼の見かけ上の差として表れるのです。何度も述べましたが、開瞼とは上眼瞼挙筋の作用程度です。上眼瞼挙筋は瞼を開く随意筋と不随意筋のComplex;複合体です。動物は、起床して活動をしている間は目を開いて行動をしていたいので、脳が信号を出します。特に自律神経の一方である交感神経がコントロールセンターとなります。脳から発せられた電気信号が左右の上眼瞼挙筋群に伝わり、瞼を持ち上げます。作用部位は瞼の縁の瞼板です。どこらかに問題が有ると、普通に目を開いて活動していたいのに開きが弱まるのです。
脳の働きに左右差が有るなら、他の部位にも障害が生じます。例えば脳血管障害(=脳卒中)などです。電気信号の経路に滞りが生じることも有ります。顔面神経麻痺や三叉神経痛などやホルネル症候群等です。これらも他の症状を伴います。上眼瞼挙筋の筋力そのものが先天的に弱いと、幼少時に気付かれる筈です。これが先天性眼瞼下垂症です。どうやっても上を向けないのが特徴ですが、軽いと周囲は(親も)意外と気付いていません。日本人は反知性主義国だから仕方ないのです。
脳から信号がちゃんと来ていて、上眼瞼挙筋の筋力は左右差無く、筋が収縮するのに牽引力が瞼縁(=瞼板)に伝わらなくなるのが、腱膜性後天性眼瞼下垂症です。筋の下方の腱が、腱板に付着していなくなる状態です。要するに`筋が伸びちゃった`状態です。筋力が瞼縁に有効に伝わらないので開瞼が低下するのです。開瞼の信号は左右同程度に来るので、腱が伸びていても調節できません。ただし、上を向いて一生懸命力を入れれば挙がってきます。これは後天性腱膜性の特徴です。でも、正面視では差が見えます。そしてさらに信号が強くなると、代償的に前頭筋に伝わります。こうして眉が上がってくるのです。
ゴチャゴチャ説明しましたが、出来上がりを比較して評価すると、重瞼の形は綺麗に治せました。開瞼はピッタリ同じでは有りませんが、改善しています。前頭筋の収縮に因る眉毛の動きもほぼ左右差が消失しています。敢えて言えば、見かけの重瞼幅の差があるということは、開瞼に差があるからでしょうか?。いや、僅かな腫脹による差なのでしょうか?。
ということで、さらに経過を追ってみたいと思います。