これまで何度も述べてきましたが、美容形成外科の手術適応は症例ごとに違います。何故なら、美容形成外科医療の対象者は全人類ですが、生来の個体差があり、標準的または理想的な形態とどれだけ差異が生じているかによって、治療目標が違うからです。また、人種や地域等の環境要因や、社会的要請により求める結果の個人差はありますし、求める結果の希望に差が生じます。誰にでも同じ治療をすれば誰もが満足な結果を得られる訳ではないのです。
何故そんなことを強調するかといえば、現今の情報の錯綜によって、間違った知識を持って来院される患者さんが多くいて、その個人に合わない手術を希望されることが多くなって来たからです。誰もが満足する治療などはありません。間違った知識は知性にあらず、反知性です。さらにいえば、医学知識は解剖や生理の知識のみならず経験から得られるので、同じ美容形成外科医でも、形成外科医療の研修歴と、いかに患者をちゃんと見て来たかの経験値で、差が大きく開きます。ビジネス的美容外科を押し進める非形成外科のチェーン店では得られ無いのです。
その意味で、口周りの美容医療は適応が限られます。特に本邦では、口元が出ていて鼻が低く、頤が無い人が多いため、それが標準的でもあり、より美しい口元を求める誘導意向が働かないからです。それにさすがに口元は顔の真っ正面で、創跡が見えたら困りますから、丁寧に縫って手術できる形成外科医の仕事ですから、チェーン店では御法度といえます。スゲエーの見たことあります。
今回の症例患者さんは50歳ですが年齢よりかなり若く見えます。提示条件が口元だけなのがもったいないくらいです。隆鼻術と、眼瞼形成術を受けられていて、口周りの加齢による弛緩と延長、口角の下垂の修正を適応としました。
鼻の手術は他院で受けられていて、鼻陵にはプロテーシスが入っていて、ちょっと太いのでいずれ修正するつもりですが今回は見合わせます。鼻尖には軟骨移植がされていて良く下がっています。所謂上を向いた短い鼻尖を下げたのはいいのですが、鼻柱が下がっていないので鼻の下が喰い込んでいます。鼻翼の位置の方が下方に有ります。下右図の側面像でも食い込みが見えます。鼻唇角といってその角度が90度以下だと魔女的に見えます。それに白唇部(何度も言いますが、鼻の下は白唇部です。)が加齢で長くなって来たのも修正の余地ありです。
そこで、これまでも提示して来た手術法である口唇短縮術を適応したいところですが、口角をもより挙げたい症例です。それは何故なら、眼瞼を外上がりにしているからです。今回はお見せ出来ないのが残念ですが、私の隠し技である切れ長切開術をした結果眼瞼がキリッとして満足してもらったからです。ですからタレント性からしてバランスを取る為に、口角はちゃんと挙げたいと思いました。究極的には白唇部短縮が適応ではありますが、今回は鼻唇角の下制術と口角挙上術を組み合わせて白唇部の短縮効果を求めることになりました。
下図がデザインです。
口角の部分の上下赤唇縁を10㎜ずつV字に、口角から頬骨隆起方向にに向かって最大右8㎜、左7㎜の幅で三角形に切除するデザインです。
鼻唇角部は両側の鼻柱基部と中央をマーキングし、右鼻孔縁底部に切開線をデザインしました。図では見えません。
手術直後ですが、優しい症例患者さんは笑顔を見せて撮らせてくれました。形がよく解ると思います。鼻唇角の変化は正面像では今ひとつ判りにくいと思います。下の図で説明します。
術直後の左斜位と側面像:鼻唇角が鋭角(90度以下)から鈍角(90度以上)に変化しています。
上に口唇短縮の為の代替手術法であると書き始めました。実際には短縮していませんが、何となくそう見えるでしょう?。もう一度正面像の比較も提示します。
鼻柱の鼻唇角の喰い込みが改善したのは正面像でも見えますし、斜位、側面像では明らかです。口角付近の形態はといいますと、なんか優しくて、綺麗!。特に術前側面像では口角が下がって「へ」の字になってマリオネット状の下口唇形ですが、術後側面像では、ニコッとおすまし、微笑にさえ見えます。上図では笑ってもらっているのではありません。そう見えるのです。じゃあ、口唇の長さはといえば、もちろん短縮していません。でも鼻の下が長い感じは解消しています。もちろん術直後の、局麻による量的膨隆と腫脹がある為モコッとしています。これは鼻の下を切っても同じで、その場合しかも腫脹は遷延します。前にも提示しました。創跡はメイクで見えなくなるのはどちらもです。ただ、口角の創跡は口紅という濃いメイクで隠せる為、早期に(抜糸直後)目立たなくなります。
今回の症例は、私と患者さんでじっくり(4回に渉って)検討した結果手術に到り、画像提示の許可もいただきました。従いまして、取り急ぎ提示します。術前術直後だけの画像ですから、形態的な最終結果はまだ不明です。次回抜糸の時にどれだけの結果が得られているかも不明です。口周りはミリ単位の変化を求めるのに、腫脹が強いので形態が定着するのにも時間がかかります。でも動きがある部位なので、機能的には早期に変化が見られます。機能は表情と雰囲気で判断出来ます。上に提示した画像からも感じられるでしょう。
次回をお楽しみに。