2016 . 1 . 28

口周りの手術:口角挙上術と鼻唇角下制術の術後経過と創跡の評価

先月施行した口角挙上術と鼻唇角プロテーシスの組み合わせによる口唇(白唇)短縮術の効果と創跡の状態を見ていきましょう。皆さんも評価して下さい。

もう一度下の4枚の画像を見比べて下さい。上左が術前、上右が術直前のデザイン、下左が術直後、下右が術後1週間で抜糸した直後です。

DSC00152DSC00162DSC00166DSC00213

結果は一目瞭然。いい感じが作れています。術前は鼻の下(白唇部)が間延びした感じ。術後はしまった感じ。キリッとして綺麗な口元です。

もう一度簡単に説明します。鼻唇角とは、鼻柱が白唇部に立つ角度、鼻唇基部とも言います。正確には基部は人中陵と交わる点で、角は側面から見た角度です。角度は90度が望ましく、鈍角(90度以下)だと鼻が上向いている。鋭角(90度以上)だと喰い込んでいる鼻に見えます。近年栄養状態の向上により、骨や軟骨の発育が高まったと考えられています。そのために鼻尖の位置が下がった為に、鷲鼻や魔女鼻の女性を目にする機会が増えました。ただし、鼻尖が下がったのに、鼻柱は下がっていない人も多くいます。本症例がそうです。鼻柱基部は当然喰い込んでいます。鼻翼基部との水平位置関係も特徴的で。当然に白唇部は長くなり間延びします。

本症例では、鼻唇角(鼻柱基部)の位置が鼻尖の位置に比べて高い為に、もちろん角度は鋭角(計測上約75度)で、その分の白唇部延長量も3㎜はありました。そこで術前と術後の鼻唇角の位置を比べて下さい。計算通り3㎜は下がっています。その分白唇部が3㎜短縮しているのです。鼻唇角という言葉を形成外科医・美容外科医と話していても、知っている者は今まで一人しか居ませんでした。私は父の時代から、鼻唇角度には常に留意していましたが、今回は同部のプロテーシスで良好な形態を作れました。

口角だけの挙上は、とってもニーズが高いと思います。これまで白唇部の切除による短縮術をしてきましたが、鼻翼は口角の上には無いので挙がりが足りなかったのです。創を延長すれば効きますし、メイクすれば創跡を隠せますが、さすがに素顔では見えます。また、父が赤唇縁を切除した四症例を経過観察しています。この手術では構造的に赤唇縁には土手状の膨らみがありますから、赤唇縁を切除すると膨らみが消失します。確かに鼻の下は短いのですが・・。また口角だけを挙げるには、スレッドリフトも可能です。口角のすぐ外側には鼻唇溝がありますから、ここを狙って糸を掛ければ、確実に挙がります。でも糸は切れなくても徐々に外れます。それに危ないので吸収性の糸を使いますから永続性はありません!。もちろん安価で簡便なので、何度でも出来るのがメリットです。 もう一法、口角部の上口唇にヒアルロン酸等の注入をすれば、同部の赤唇縁が挙がるので口角の下垂をごまかせます。結構量が必要なのに吸収性ですから、半年以内に戻ります。そこで今回の手術法は、口角だけの赤唇縁切除法です。

ところで私は白唇部切除を何例もしてきましたが、適当にやってみたのではありません。国際的に論文を探し、手術法を研究しました。すると、口角リフトの論文が見つかりました。題名は:Descended mouth corner: an ignored but needed feature of facial rejuvenation. author:著者はVidal P、チリ国の医師が書いた論文でした。効果を見せています。ただしデザインが・・。aps-40-783-g002

どうやって縫合しても、創跡が白唇部に出来ますよね?!。 ただしよく挙がっています。aps-40-783-g003

今回の手術式では、赤唇縁に創跡はありますが、口角部には赤唇縁の土手(mucocutaneous ridge:粘膜皮膚移行部堤といいます。)が無いので、本質的に見えないのです。創跡の線は当分赤いのですが、メイクとリップで隠せます。なのでその後何例も施行しました。

術後1ヶ月の画像を撮影させてもらいました。症例患者さんも、創跡は目立たないとおっしゃいます。やはり本邦では、目に付く創跡は避けられます。私達形成外科出身の美容外科医は創跡をほとんど見えなく出来ますが、部位によります。今回の口角部だけに限局する赤唇縁の創跡は見えなくなりました。これも形成外科での診療経験から学んだものです。

DSC00390

口角の創は側方にありますから、今回は斜位の近接画像を提示します。DSC00391DSC00392

創跡はどこ?、という感じです。上方の術直後の画像と見比べて下さい。口角にV字の線状の創がありますよね。術後1週間の抜糸直後では、一部に血液が付着していて創跡が見えますが、1ヶ月では見えなくなっています。患者さんは1週間で済んだと教えてくれました。前回述べた如く、口角部は赤唇縁が後退している構造なので、創跡が隠れてくるのです。それでいて、口角部とは、上下の赤唇縁がV字型に交わる点ですから、交点の位置がどこにあるかが重要です。交点の位置が上方に変わりました。つまり口角リフトが達成されました。

口唇とは、赤い唇を赤唇部、上下の皮膚を白唇部と呼び、どちらも唇です。赤い部分だけが唇なのではありません。一体です。何故なら、筋の走行が一体だからです。口輪筋という筋がポイントです。この部は一体に動くからです。唇の皮下脂肪の深部には輪状の筋があり(だから、口輪筋と称します。)、この収縮で口を閉じます。ただし口角部では輪状になっていないで靭帯状になり、鼻唇溝(いわゆる法令線:人相学上の呼称です。)に向かって皮下に付着しています。だから口角は後退しているのです。そしてそこで、鼻唇溝の外側からの表情筋群と合流しています。上から:頬骨筋群は口角を斜め上に引き上げる筋。横方向には:笑筋という笑う時に口角を横に引く筋。下には:口角下制筋、口を「へ」の字に下げる筋の三つの筋体群があります。口角の位置と方向はこれらの筋群のトーヌス(筋肉の日常覚醒時に緊張している状態の強さ)で制御されています。皮膚の弾力も影響していますが、加齢と共に表情筋のトーヌスは低下してきます。頬骨筋は特に重力に抗う必要があるため、加齢により重力の持続的作用の影響で、口角の位置が下がってくるのです。その結果として、皮膚も徐々に伸展してきます。

さて、今回の手術ですが、皮膚の伸展に対して切除を加える事に依り、口角の位置を上方に戻す手術です。頬骨筋の方向に7㎜引き上げるデザインです。あくまでも皮膚で挙げるのですが、皮膚の短縮は筋の収縮を助けます。基本的にフェイスリフトと同じで、切除した効果は、当初は後戻りは少々あるとしても持続的効果があります。ある年数の加齢変形を取り戻して、あたかも時計の針を戻したかの如く、加齢現象を遅らせるのが、リフト手術の効果です。

口角リフトの効果を皆さんに提示することが出来ました。持続性はまだ未定ですが、フェイスリフトと同じくの永久的効果は残存すると考えられます。そして創跡は、通常の生活範囲では見えなくなると言っていいと思います。それはフェイスリフトと同様で、創跡が小さいからもっと目立たなくなると思います。

形成外科的技術を駆使すれば創跡は細い線に出来ます。その創跡はよく見なければ判りません。美容形成外科の手術では、目立たない部位に創跡が来る様なデザインを描きますから、顔の前に創跡が出来る手術は数少ないです。眉下切開術、上口唇(鼻の下)切除術がポピュラーです。眼瞼の切開手術の創跡は開瞼時には見えません。今回口角リフトが加わりました。フェイスリフト手術は、顔の横に創跡があり髪に隠れますが、切開線が長いので、知っている人に注意して見られるとみつかってしまいます。その点口角の創跡はよくある口角炎の跡に見えますし、リップで隠せます。

いずれにしても、切開する美容手術は形成外科医に任せて下さい。間違っても、チェーン店系の他科上がりの非形成外科医の美容整形屋には頼まない様にしましょう。