2016 . 1 . 6

口周りの手術:口角挙上術と鼻唇角下制術の術後経過と説明。

前回提示した口角挙上術と鼻唇角プロテーシスの組み合わせによる口唇(白唇)短縮術の効果を見ていきましょう。年末年始が多忙だった為に1週間目の経過画像が遅れてしまいました。申し訳ございません。なんだかなあ!電車が遅れたときの言い訳の放送みたいですね、お許しください。

DSC00152DSC00162DSC00166DSC00213                       抜糸直後で血液がちょっと付着しています。

何はともあれ、上の4枚の画像を見比べて下さい。上左が術前、上右が術直前のデザイン後、下左が術直後、下右が術後1週間で抜糸した直後です。

一目見て、感じが作れています。術前は鼻の下(白唇部)が間延びした感じ。術後はしまった感じ。キリッとして綺麗な口元です。鼻の下の目に付くポイントは、鼻唇角と口角にあり!。その意味ではよく判る症例です。今回はその2点を説明します。

1:鼻唇角とは、鼻柱が白唇部に立つ点、鼻唇基部とも言います。正確には基部は人中陵と交わる点で、角は側面から見た角度です。角度は90度が望ましく、鈍角(90度以下)だと鼻が上向いている。鋭角(90度以上)だと喰い込んでいる鼻に見えます。

アジア人では、鼻が上向いている人が多いのは皆さんもご存知でしょう。豚鼻とも言われます。逆にアジア人では、唇が前に傾斜している人も多い(骨格と歯槽と出っ歯)為に、鼻が長くて喰い込んで魔女鼻になる人も増えてきました。鼻尖の上下位置は、鼻骨の発達と鼻翼軟骨の発達に左右されます。近年栄養状態の向上(洋風化によるタンパク質摂取の比率上昇)により、骨や軟骨の発育が高まったと考えられています。データもあります。そのために鼻尖の位置が下がった為に、鷲鼻や魔女鼻の女性を目にする機会が増えました。

ただし、鼻尖が下がったのに、鼻柱は下がっていない人も多くいます。本症例がそうです。鼻柱基部は当然喰い込んでいます。鼻翼期部との水平位置関係も特徴的で。当然に白唇部は長くなり間延びします。そのような形態に対して、鼻唇基部から鼻翼基部までを帯状に切除する手術を、これまでに三例紹介してきました。結果はよく、中期的には創跡も消えるといっていいでしょう。そこは形成外科専門医ですから!。しかし、ダウンタイムが長かったのでした。二週間は結構目立ちました。マスクが必須でした。

本症例では、鼻唇角(鼻柱基部)の位置が鼻尖の位置に比べて高い為に、もちろん角度は鋭角(計測上約75度)で、その分の白唇部延長量も3㎜はありました。そこで術前と術後の鼻唇角の位置を比べて下さい。計算通り3㎜は下がっています。その分白唇部が3㎜短縮しているのです。そう見えるだけでなく、数字が証明しています。

鼻唇角という言葉を形成外科医・美容外科医と話していても、知っている者は今まで一人しか居ませんでした。ちゃんと教科書にもある部位名なのにです。日本の医者がいかに勉強不足かということですね。ちなみに鼻柱基部という言葉は、口唇裂を診る機会のある形成外科医には必須です。もちろん非形成外科医の美容整形屋さんには、知る由もありません。私は父の時代から、鼻唇角度には常に留意していました。喰い込んだ鼻はイヤラシいし、上向いた鼻はイモっぽいから治すべき形態です。今回は同部だけのプロテーシスで良好な形態を作れました。症例によっては、外鼻の他の部や白唇部の手術が要されるとは思います。容貌は比率とバランスが左右しますから、組み合わせ治療を要することが多いのです。アッ!本症例も組み合わせ手術でした。次!

2:口角だけの挙上は、とってもニーズが高いと思います。これまで白唇部の切除による短縮術をしてきましたが、鼻翼は口角の上には無いので挙がりが足りなかったのです。創を延長すれば効きます。メイクすれば隠せますが、さすがに素顔では見えます。ですから口角挙上の方法はいくつもありました。

父が赤唇縁を切除した四症例を経過観察しています。確かによく挙がっていますが、よくやるもんだなアと思います。そういえば25年前に、父から相談を受けたことがありました。「お前は形成外科医だから、綺麗に出来るだろオ?」・・っていわれても、創跡は確かに目立たないとしても・・、構造を破壊するのです。赤唇縁には僅かに土手状の膨らみがあります。これが唇のセクシーな膨らみを呈しています。赤唇縁を切除すると、この構造が消失する訳です。私がフォローしている患者さんも、べたっとした唇で、可愛くない感じです。その中のお一人は赤いアートメイクして隠していますから、やはりご自分でも気になるのでしょう。確かに鼻の下は長くはありませんが・・。

口角だけを挙げるには、スレッドリフトも可能です。口角のすぐ外側には鼻唇溝がありますから、ここを狙って糸を掛ければ、確実に挙がります。でも何度も言いますが、糸は切れなくても外れます。それに危ないので吸収性の糸を使いますから永続性はありません!。もちろん安価で簡便なので、何度でも出来るのがメリットです。

口角部の上口唇に、ヒアルロン酸等の注入をすれば、同部の赤唇縁が挙がるので口角の下垂を治せます。結構量が必要なのに、もちろん吸収性ですから半年以内に戻ります。私が開発したのですが、今ではまねてそこらへん中で行われています。

今回の手術法は、口角だけの赤唇縁切除法です。半年前に後輩の島倉医師が披露しました。何でもやってみる韓国で見て来たそうです。ところで私は白唇部切除を何例もしてきましたが、適当にやってみたのではありません。国際なに論文を探し、手術法を研究しました。そこで`lip lift`を探すと、ついでに口角だけのリフト手術の論文が一編見つかりました。

“お勉強に励んでいます。−医者は一生勉強です。−”シリーズを再開したのではありませんが・・。 論文は:Arch Plast Surg. 2013 Nov;40(6):783-6. 2013.40.6.783. Epub 2013 Nov 8.Descended mouth corner: an ignored but needed feature of facial rejuvenation.  author:Vidal P1, Berner JE, Castillo P, Rochefort G, Loubies R.  1Department of Plastic Surgery, Pontificia Universidad Católica de Chile, Santiago, Chile. ; Department of Plastic Surgery, Hospital de la Fuerza Aérea de Chile, Santiago, Chile.

何と地球の裏側のチリ国の医師が書いた論文でした。内容は取り挙げるまでもないものですが、効果を見せています。ただしデザインが・・。

aps-40-783-g002これをどうやって縫合しても、創跡が白唇部に出来ますよね?!。aps-40-783-g003その論文に載った術式での術前術後の画像です。

確かに口角の上の白唇部に創跡があります。ただしよく挙がっています。

では、今回の手術法の論文はと探しても、国際的医学論文図書館:Pubmed でも見いだせません。韓国の美容整形屋は発表しないようです。島倉先生は足を運んで見せてもらったのです。そして本邦初のデモ手術をしました。デザインは本症例に同じくです。これがすごくいい。赤唇縁に創跡はありますが、口角部には赤唇縁の土手(mucocutaneous ridge:粘膜皮膚移行部堤といいます。)が無いので、本質的に問題ないのです。創跡は当分赤いのですが、メイクとリップで隠せます。なのでその後何例も施行しました。

さーてどちらの方法がより良いでしょう。やはり本邦では、目に付く創跡は避けられます。私達形成外科出身の美容外科医は創跡をほとんど見えなく出来ますが、部位によります。赤唇縁のすぐ上の白唇部に創跡があるとやっぱりまずいんじゃあないかなあ、と思いました。今回の口角部だけに限局する赤唇縁の創跡は見えなくなると思います。これも形成外科での診療経験から学んだものです。巨口症(いわゆる先天性口裂け)の手術経験から知っているのです。

症例の提示をする筈が、派生する知識を披瀝し書き始めてしまいました。患者さんの画像を置き去りにして失礼となりましたが、逆にこの手術の優位性が提示出来たと思います。でも、もう少し中期的に経過を見ましょう。私も楽しみにしています。ちなみに追加切除も同創跡で可能です。