今回は見ての通り、くぼみ目の修正を切らない眼瞼下垂手術で治す典型的な症例です。
症例:40歳、女性。生来は二重まぶた、今は三重四重でくぼみと区別がつかない。LF,Levator Function:挙筋滑動14mm。前頭筋収縮少々。日内変動あり。早速フェニレフリンテストをするとよく開きます。
見ての通り疲れた目もと、かわいそうな程やつれて見えるまぶたです。数字的に先天性眼瞼下垂ではなく、腱膜性と考えられます。原因は不明で、日内変動から、重症筋無力症を否定しなければなりませんが、自覚的に不便なのでとにかく治しておきましょう。ならば、切らない手術でするべきです。診察上も可能でする価値があります。
術前の画像でも視線の位置で顔貌が変化します。腱膜性眼瞼下垂症によるくぼみ目の特徴です。
定型的に切らない眼瞼下垂手術=黒目整形=NILT法を三点施行しました。
上左図は術直後。上右図は10分間の冷却後です。今回の症例はこの変化がよく判ります。多くの症例で術直後の画像だけを載せてきました。どう見てもやり過ぎかもしれない画像でもです。術直後はオーバーテイクなんです。患者さんにお見せすると、ビックリされる時もあります。原因は局所麻酔と腫脹です。多かれ少なかれ腫脹は起きます。特に眼瞼結膜側は柔らかいのでプクッと腫れます。腫れた筋肉を縛るので余計に締まります。ですから、筋力が増強しています。ただし粘膜は血行がいいので、たった10分の冷却で引きます。そして麻酔は眼瞼の表側にも裏側にもしますが少量で、トータルで0.5cc程度です。でも皮膚側の眼輪筋(眼瞼を閉じる筋)にはよく効いてしまいます。拮抗作用が働きますから、開く筋の作用が強く出ます。局所麻酔も数十分で切れますからオーバーな開瞼が治まってきます。
ところで麻酔にはいくつもの種類がありますが、眼瞼では原則的に局所麻酔でしか行いません。眠ってしまっては目を開けないから、まぶたの形態と機能が確認出来ないからです。よく「手術は痛くないんですか?」と訊かれますが、痛い訳ないだろオ、痛かったら死んじゃうよと心の中でつぶやいて、「局所麻酔が痛いかも知れませんが、誰もが堪えられます。子供でも出来ます。」と言います。「これまで、出来なかった人は一人しかいません。その方はもちろん精神疾患でした。」とまで言うこともあります。世界一細い針を使うのでほんとうなんです。
しつこいようですが、麻酔というと眠ることを考えている方が多いようですが、いくつもの種類があります。麻酔の目的は、疼痛除去と、運動制限にあります。意識が有る無しは二の次なのです。むかーし昔は麻酔なしで手術が行われていました。疼痛軽減には酒(アルコール)を吹き掛けたりしました。もちろん効かないので、疼痛で気絶するのが当たり前だったようです。ケースによっては心肺停止したようです。強い疼痛は、自律神経に働き、迷走神経反射という反応を起こすことがあり、血圧が下がったり最悪の場合心臓が止まることがあるのです。だから疼痛除去は大事です。だから私達は世界一細い針を使い、丁寧に優しく局所麻酔を致します。だから迷走神経反射が起きたことはありません。
史実上、江戸時代には華岡青洲が有名ですよね。本邦で初めて全身麻酔での手術を実践した医師ですが、何人目か(母親と妻)までは実験的に失敗していて、その後やっと確立されました。現在の医療水準では考えられないことですが、当時としては大変な進歩だったといえます。もっとも、全身麻酔縫は現代でも進歩の途上です。
全身麻酔は強い疼痛を伴う程の手術の際に、迷走神経反射が生命の危機に繫がらない様に行われます。意識消失させないと疼痛が治まらない程の時にです。ついでに運動制限もできます。内臓や骨の手術の際に不随意にでも動いては手術出来ませんから、意識を消失させるのが全身麻酔です。もちろん呼吸筋の運動も制限されるので、気管内挿管して人工呼吸が必要になります。静脈麻酔も同様ですが調節が難しいのと、結局意識を無くす程運動制限をすると呼吸運動も止まるので、人工呼吸が必要になり、全身麻酔と同じことになります。
よくテレビとかで演じられる麻酔というと全身麻酔もどきですよね!。でも最近まではマスクだけで人工呼吸していないので、私なんかはその時はテレビ見ながらいつも「また、死んじゃうよ。」ってつぶやいています。最近ではちゃんと気管内挿管して人工呼吸しているシーンが見られるようになってきました。
話が脱線しましたが、本症例の患者さんには局所麻酔の際に「ぜーんぜん痛くないですう。」と言ってもらえました。丁寧に行った甲斐があって嬉しかったので、麻酔の話をしたのです。患者さんにも喜んでもらえたのでよかったです。
形態と機能の結果は経過次第です。術直後にはこんなに変化します。さらに週単位での中期経過をお見せしていきたいと思います。