本症例は何をしたいか一目瞭然ですが、Laterallity:片側差=左右差が明瞭で、しかも動的形態にもLaterallity があり、完全な対称性を作り上げられなかった、いや難しい症例です。
症例は47歳、女性。右有位に眼瞼下垂、くぼみ目、左右とものくぼみ目で左も眼瞼下垂です。とにかく画像を提示します。
上記画像は術前左が術前、右が術直後です。
まあ手術による改善の結果は判り易いと思いますが、Laterally は残りました。1、くぼみ目は左は消失したのに右は軽快したとはいえ残っています。2、開瞼は左右差が減りましたが、さすがにまだ、左の方が大きいです。3、開瞼の左右差の残存により、右の前頭筋収縮(眉毛を挙げる)反射が残存している。4、重瞼が揃わなかったのは前頭筋収縮に依り動的に見られる。しかしよく見ると、術直後は揃っていた。
この辺の経過は予想がつかない面があります。特にLaterallity の改善度は完璧があり得ません。私は1週間目にも「ウーンっと!どうです?」とうなりながら尋ねました。すると患者さんは「結構いいんじゃないですか?、視界も良好だし、何しろ、見た目にも右目が開いていないのが見え見えだったから今は気にならないです。」ですって。「ハーそういって頂けるとホッとしました。』「まだまだ、よくも悪くも変遷すると思います。」
本当に今後の変遷に期待と不安が入り交じる症例でした。左右差の更なる改善は、見た目に目立たなくなる事を意味します。改善が成されない場合と、後戻りの程度が不安要素です。それは私の気持ちでありますが、患者さんの為です。次回以降も、患者さんからの評価をちゃんと受け止めますし、私の医師としての診断もちゃんと提示します。もちろん診断は治療の指針でもあります。
今回は難しくも面白い症例です。そして、術後2週間で来院してもらいました。すると、患眼の後戻りが多い。下左図はその後の追加術後の術前です。左眼瞼が、初回手術前程では無いにしても下垂しています。くぼみ目も再発というか下垂の後戻りに伴い悪化してきました。
結論から述べると、中央に1本切らない眼瞼下垂手術の追加を提案しました。上右の画像が術直後です。より強化すれば後戻りも少ないという目論みです。症例の画像を見直しながら、二つの問題点を評価します。
初回手術の術前のくぼみ目と比べ、術直後が2/3の深さで、1週間では半分の深さというところですが、2週間では3/4の深さというところ、実は元に近い。この辺は日内変動や日による変化があるかも知れません。敢えて言えば、くぼみ目は眼瞼下垂の合併症状の一つですが、本症例では他に原因があるのか(前頭筋収縮による眉毛挙上が影響している可能性有り。)と考えられます。何故か左眼瞼の眼窩脂肪が少ないのでしょう。
そして、眼瞼下垂の状態については、先天的に挙筋の筋力に低下が存在したか、後天的でも挙筋の筋力の低下が生じたかのどちらかが考えられます。後天性腱膜性眼瞼下垂だけが原因なら早期には元通りまでにはならない筈です。この点の術前の診断は難しいのです。とはいえ初回手術前と術直後を比べても、初回手術前と2週間の差は1/3程度は残っているのは逆に何故でしょう。眼瞼手術の診察は奥が深いと再認識しました。
来院された患者さんに対して、「この状態ならこの手術が適応でしょう。」という場合あくまでも「でしょう?」です。人の身体は個体差があります。細かい差まで言えば、人類70億人に対して70億通りの形態機能があると言えます。ですから、診断はあくまでも推量です。絶対はありません。でも、それなりの効果は望めるし、患者さんが効果を認めるなら、更なる効果を求めて追加治療をする意味はあります。今回の患者さんはよくお判りで、2+1の手術で効果をプラスする事の意味を理解して頂き、追加手術を受けられました。
そして更に2週間して来院されました。
まず上顔面の画像です。なんかいい感じですが、くぼみ目は残っています。
眼瞼部の画像ですが、開瞼幅は現時点ではほぼ揃っています。くぼみは左が治りきりませんでしたが、目が開くと目立たない様に見られます。
でも左右の近接像を見ると・・、やはり違うものに見えます。よく見ると、左の上眼瞼のカーブが内下がり=外上がりです。くぼみの左右差は明瞭です。
もしかして、外傷性に眼瞼挙筋のDisinsertion や眼窩脂肪または眼輪筋下脂肪の減量が存在したのかも知れません。でも、しつこく「何らかの物理的影響があり得ると考えられるのですよ。」と聴いてみても「分からない。」としか言え無いそうです。慢性的外傷も考えられます。「よく擦るとか、知らないうちに軽くぶつけていたとかはしていないですよね?」としつこく聴いても「?」です。慢性的物理的損傷とはそういうものです。よく擦るから後天性腱膜性眼瞼下垂を生じた人は少なくありません。コンタクトによる後天性腱膜性眼瞼下垂症はゴロゴロいます。コンタクトを使用していないのに後天性腱膜性眼瞼下垂症を生じている人に、次の手として聴くと、「ええよく擦ります。アトピーで痒いの。」との回答を得て納得させられる事はあります。しかし、本症例では片側性で非対称性です。だから原因が究明できないのです。でーもさあ、この非対称性は何らかの構造的差異があるに決まっているよね。先天性に構造が違うなら判るけれど、それなら元々差が見えていた筈です。そうでは無いから判らないのです。後天的に何かが起きたのかは、私は既往歴を知り得ないので判りません。
とは言え、患者さんは開瞼が再現出来たので納得されました。追加手術前には、「息子に左右が違うって云われた。」と嘆いていました。私は「そりゃ元々ですよ。」と言い、「くぼみにかなり差が有るから、目立つのではないですか?。」と問うも、患者さんは「だって、目の開きが元に戻ったからですよ。」と返してきました。私が負けました。左右差の対称化が出来ませんでした。それは何故かと言うと、弱い方をより強化するべきだったのでしょう。強さを調整しても、限界があります。初回から、糸の本数を増やせば良かったのでしょう。でもそれには初回から費用が増えます。今回の症例患者さんは追加費用が生じるのを承諾してもらえたから出来ました。別に患者さんともめていたのではありません。それに結果が得られれば、原因は問わないという事です。
現時点では、開瞼が近づいて元気に見える様になりました。画像を見ても感じる様に明るい感じの方ですから、これだけでいい結果をもたらす事ができたといえるでしょう。
さーて今回の経過はどう出るか?、週単位の経過をお楽しみに!