2017 . 7 . 1

美容医療の神髄-歴史秘話第97話-”口頭伝承”:美容整形屋と美容形成外科医”その72”「銀座から地方都市へ15:美容形成外科医」

私が医師16年目、時は平成14年、2002年にA美容外科を開設していた前後の事ですが、地方中都市チェーン展開の話題に移りました。三院あるうちの一つ、松本院の話を始めたら信州大学形成外科を訪問した際の話題に移りました。そのうち眼瞼下垂の゛研究者゛である松尾教授との面談について書き始めたら、松尾教授の眼瞼下垂症診療における概念の解説に終始し始めました。それは、私たち形成外科出身の美容外科医にとってはエポックだったからです。今回その3回目の続きから。2002年の話題から入ったのですが、時系列はさっぱり解からなくなっています。悪しからず!

ここからが第二点の重要な知識です。神経機能的解剖の勉強が始まりました。松尾教授はミューラー筋内の筋紡錘からの求心性信号が中枢からばら撒かれて(巧い言葉でしょう?、松尾教授見ています?。)いろいろな合併症を生じるのを臨床的に研究し、毎年発表しました。

もう一度簡単に説明します。後天性腱膜性眼瞼下垂症となると、ミューラー筋に存在する筋紡錘が引き伸ばされ続けて、覚醒時の開瞼時に求心性信号が流れ続けて、交感神経が興奮し続けます。求心性信号は中脳の神経核に達しすると、正常者(非腱膜性眼瞼下垂者)では、ミューラー筋と上眼瞼挙筋に遠心性信号を発して開瞼の調節を行います。しかし、腱膜性眼瞼下垂患者では求心性信号が強く頻度が高いため、中枢から関連する神経核に信号が伝わります。神経ニューロン新しい線維を手を伸ばすように作り吻合させますが、電気信号が多ければ多いほど枝が増え吻合させるのです。

二つの作用があります。代償性に他が働いて開瞼を助けるために起きる病態と交感神経亢進状態そのものにより生じる病態とです。

前者は、代償期の反射運動です。ミューラー筋からの開瞼を促す求心性信号が中枢で反射して眼瞼挙筋に力を入れても腱膜性眼瞼下垂患者では瞼が挙がり切らないので信号は出続けます。仕方ないので他で助けようとします。まず前頭筋で眉を挙げる代償作用です。実際は眉を挙げても、皮膚を介して引き上げるので、瞼には半分くらいしか力が働きません。でもしないよりはましなので反射的運動が働くようになるのです。中枢へ流れた信号が脇道へ流れて前頭筋(眉を挙げる筋)を支配する顔面神経核へ回る様になるニューロン(神経線維の枝分かれ)が形成されます。さらに次には、顎をしゃくる運動Chin upが生じます。頤を前に出せば顔が上を向きますから眼瞼の隙間から前が見えます。後頸部の筋に信号が行けばこの運動が生じます。さらに後頸部の筋は脊柱筋や腰部の筋にも繋がっていますから、同時に力が入って腰痛まで生じる人も居ます。どちらにも神経ニューロンが形成されていきますから、目を開いて闘う、つまり日常的に仕事をする際に反射的に動きくようになります。要するに癖になる訳です。これらが代償期の副症状です。

後者は交感神経の興奮が続くための副症状です。ミューラー筋は交感神経支配で、開瞼を促すのも交感神経支配です。覚醒して仕事をする際には眼瞼が挙上していなければ不便です。覚醒時には交感神経から信号が出て、眼瞼を開かせようとするのですが、腱膜性眼瞼下垂症になると信号が出ていても開かないから、意地になって交感神経が興奮し続けます。脳がムキになっているのです。運動に反映するならまだしも、交感神経の亢進が継続的に起きていると、自律神経のバランスが崩れていることになるので、多くの生理的機転が生じます。

もう一度交感神経の働きを説明すると、行動のためですから、まず血管を収縮させます。血行が悪くなるのです。血行が悪い状態は身体各部の筋の血行も低下してうっ血します。肩凝りや腰痛は血行不良が原因の一つですから、上記の反射的運動と相まって生じます。他に行動する際には消化を休みます。また休息をしない精神状態にさせます。つまり興奮しているのです。また噛み締めも起きます。噛み締め続けると、歯を傷めるか顎関節症を生じます。交感神経が亢進していると、文字通り歯を食いしばって頑張る精神状態になるのです。

これらの交感神経亢進状態で起きる副症状は、眼瞼下垂手術の結果軽快する事が多いので、私達は毎日の様に経験しています。術後、消化機能が改善してご飯がおいしくなった患者さん。不眠傾向が治った患者さん。鬱状態だったのが、落ち着いた患者さん。噛み締めが治った為に歯科も、ボトックスも要らなくなった患者さん。様々な副症状が軽快します。最近では、副症状を治したいから私達を受診する患者さんや、副症状から眼瞼下垂を疑って来院する患者さんが多くなりました。

松尾教授の仕事はこれらのエポックメイキングが主体でした。眼瞼下垂症の中でも、後天性では腱膜性が大部分で、皮膚性も合併している知見。その治療法は眼瞼挙筋短縮術ではなくて、腱膜修復術が適応であること。ミューラー筋を操作しない方が効果的であること。後天性腱膜性眼瞼下垂症にはさまざまな副症状を合併し、眼瞼下垂手術の経過中に多くの例で軽快すること。多くの知見を発表してくれました。私たち形成外科出身の美容外科医にとっては、多くの診療に有用な材料を提供してくれました。コマーシャルには載せられないけれどブログでは記事に書けるし、松尾教授の記事を見て、同様の見解を発表している私達を見つけて私達を受診する患者さんも多く居ます。

ここまで学問的解説を書き連ねましたが、松尾教授と眼瞼下垂症の話題はまだまだ続きます。何故なら、美容形成外科分野に於いて松尾教授の眼瞼下垂症に対する診療方針は、重瞼術を始めとした美容外科分野の眼瞼形成術の診療方針を徐々にこちら側に引き込む作用があったからです。その意味を次回につないで、一度手を止めます。