口周りの手術は周囲とのバランスが重視されます。口とは口唇の間です。唇とは赤い部分だけだと思っている人が大多数でしょうが、赤い唇は赤唇部、その上下の上は鼻の下までを白唇部と称します。欧米の言語では一般用語です。White lip: 白唇& Vermilion:赤唇です。赤唇や白唇は前後の傾斜が重要ですし、縦の数値は治せます。横のバランスは顔面部品および顔面の幅との比較が重要です。そして口の上は鼻です。口の下は頤です。
顔面の縦の比率は、上中下に三分割します。上は生え際から眉下まで、中は眉下から鼻下、下は鼻下から頤尖までを比較します。白人では上中下とも60㎜と同値が理想的ですが、アジア人の多くは上顔面は短い=頭が小さい。そして中顔面が短いのは寸詰まりだからで、比して下顔面が長い人がいます。頤が長い人はアジア人にも居ますが、中顔面が発達不足な場合は疾病であり得ます。そして下顔面の要素中で、上口唇の特に白唇部が長いと、下顔面の間延び感を呈します。
顔面の横の比率は、目元は内眼角間と眼裂横径が顔面幅の5等分が理想です。内眼角間や鼻翼幅と、口唇幅が黄金分割比=5:8が理想とされます。レオナルドダヴィンチが提唱しました。アジア人では顔幅が大きいので口唇が相対的に小さい人が多く、鼻翼が大きければ、やはり相対的に口唇が小さいのです。
顔面の前後位置関係では、先ず中高が良いので中顔面が後方にあるいわゆる三日月顔は論外です。エステティックラインは鼻尖と口唇と頤尖が直線上に有ると理想とされます。アジア人では口が出ている人が多いのですが、逆に言えば鼻が低く、顎が短くて後ろに下がっているからです。その結果口が前に有ると白唇部の長さが余計に目立ちます。
周囲とのバランスを重視しなければ、美容外科手術は意味が無いのです。だから術前からの丁寧な診察と評価と、患者さんとのコミュニケーションが必要です。美的センスなんていう軽薄なものでなくて、もっと高尚な美容学が必要です。これはたゆまぬ学術的研鑽の結晶です。
更に口周りは創跡が見える部位なので、丁寧に手術しなければなりません。形成外科のトレーニングを積んだ医者でなければ上手に縫合出来ません。コマーシャルしている美容外科クリニックには形成外科医が在籍していませんから難しいのです。創跡が拡がって後戻りした症例が多発しています。ですからSがしない方が世の中の為です。これまでご覧に入れてきましたが、私の症例では手術後創跡が拡がりません。だからも後戻りもしません。形成外科医の巧みの技を駆使して、丁寧な手術を心掛けているからです。
症例は27歳女性です。昨夏には鼻の手術をしました。口唇長16mmで長いし、歯槽の形からして中央だけでなく両サイド2/3当たりまでが前に有り白唇がもこっと前に有るタイプ。内眼角間31㎜:鼻翼幅36㎜:口唇幅46㎜と口唇が小さい。頤幅105㎜とエラが小さくないので、口唇が余計に寂しい。
デザインは下右図の如くです。白唇部は両鼻翼間を5㎜切除とする。外反を求めて皮下脂肪層を半層残して、口輪筋と共に縫縮=Plication(プリーツ)で寄せる。口唇の両外側は、口角の上の皮膚を5×7mm切除。三角形の引き上げ方向は45度とし、5/√2≒3㎜上と横に引くこととした。
上は今回の術前とデザイン図。
上の正面像は術直後と術後1週間の画像です。
上の正面像は術後2週間と1か月です。形態は良好ですが、傷跡はメイクをしないと隠せません。
下に右斜位像と左側面像。順に術前、術直後、術翌々日、術後1週間、術後2週間、術後1か月
見事に間延び感が消失して、しかも中央を主に外反させたので、外のもたつきが診られなくなってすっきり感が強調されています。もちろん腫脹が強い部位なので、膨らんでいます。よく見てみると、術直後よりも、術翌々日つまり術後48時間の方が腫脹が強いのが判りますよね。毎回書いて来ました様に、48時間がヤマです。術後48時間を過ぎたら引き始めます。これまでの症例を見て判る様に、術後1週間での画像ではかなり軽快してきます。術後2〜4週間でどんどん治りました。手術部は、腫脹等の侵襲の影響で筋も収縮し難いために、口輪筋や口唇挙上筋や鼻翼挙上筋のトーヌスは働きません。従ってダメージが回復するまでは口が閉じ難かったり、鼻が引き下げられています。回復には2〜4週間掛かることが数多くの症例を診てきて判明しています。必ず回復して正しい位置に戻ります。本症例も定型的なコースでした。
今回の症例は鼻に引き続き口囲の手術を施行しました。形態は良好に作れたと思います。経過は順調だと思います。