口周りの手術のブログ掲示が引き続いています。口周りの手術は最終兵器ですと申し上げてきましたが、考えが変わりました。患者さんにとって、口周りの手術が最終兵器なのではなくて、私が患者さんにとっての最終兵器として使われてきました。私は駆け込み寺みたいな所です。その目的は様々ですが、多くは二次修正も兼ねての症例でした。いくつかの例を挙げますと、創跡の問題や、創跡の位置の問題。不適切な手術選択に対する適正な手術の要望。デザインミスに対する修正。不適切な医師に依る治療の結果の後戻りや創跡が目立つ等々です。更に他院での手術後の修正の中の二例は、私の先輩が作ったの跡と、私の北里大学時代の教え子の跡でした。世の中は狭いのです。アッといけない。私の初療後に切除不足で追加手術した例もありました。その症例は満足されましたし、今やSNSの世界では評判の好例となりました。
そうです。本症例も二次的な手術です。今回は口囲と言っても、鼻唇溝を切除されて創跡が目立つから、同一術野で創跡修正することです。口周りの手術は適切に手術法の適応を見出し、丁寧に巧く手術しないと良い結果が得られないのです。
症例は42歳、女性。白唇長(鼻柱基部〜Cupidの弓):22mm。鼻唇溝を他院で切除した創跡が谷になり却って目立つ。内眼角間36㎜:鼻翼幅36㎜:口唇幅49㎜と5:8より口が小さい。上顔面72㎜:中顔面:60㎜:下顔面62㎜と下顔面が冗長で、上口唇(鼻柱〜交連)25㎜:下口唇(交連〜頤)39㎜と5:8より上口唇が長い。鼻唇角が喰い込んでいて、鼻翼よりも低いから鼻唇角にプロテーシスまたは軟骨移植の適応でもある。
現在私は、白唇部は5mm切除を最大限にしています。人中部だけ6mmにして弓を強調したい希望。外反は術前より少し欲しく、それに対して口輪筋の上で切除する手術を示唆しました。口角は目尻と頬骨隆起の中間に向けて約30度方向に5×10㎜の皮膚切除で、口角を横V字に口輪筋ごと外して引き上げるデザインとしました。鼻唇溝は創跡をスピンドルに切除し、頬筋との癒着を剥離して平坦に縫合するプランとしました。
先ずは術前とデザイン後の正面像を供覧します。上に述べたデザインです。
下に術前の右側面像と左斜位像も載せます。
腫脹はかなり引いていて、ピーク時の40%以下に成っています。まだ静的にも動的にも評価する段階では無い様です。創跡修正は谷が浅くなりましたから、目立たなくなるでしょう
毎回手術直後の画像はすごいことになります。口周りは血行が良い部位なので後出血も完全に止まりません。腫脹の強い部位であり、形態変化も見出せません。運動機能の低下のため静的形態も動的形態も出来上がりが見えません。でも必ず、意図した形態に変遷していきます。数多くの経験から判明しています。だからこの手術は、私の様に熟練した形成外科医の技術を丁寧に駆使して、口周りを多く手術してきた美容外科医の経験と診断技術を持ってするべきです。
メイクしてカムフラージュして下さいました。ピンクの口紅が可愛いです。右鼻翼基部〜鼻柱基部〜左鼻翼基部の傷跡はコンシーラーで見えないのですが、鼻翼頬溝の傷跡はドッグイアーをプリーツに縫合したので線に凹凸があり、色を隠しても点々が見られます。ただしこの点は数ヶ月後には見られなくなります。これまでの症例で判明しています。術後1か月です。
メイクしていれば何も無かったかの様に傷跡は気にならないそうです。鼻唇溝の傷跡も隠せます。
多くの形成外科医は美的センス(診断能力)を磨いていないので口元の手術を請け負いません。勢い、美容形成外科医歴30年の私を求める患者さんが増加したのでしょう。単なる形成外科医は学術的に美容学を身に付けていません。学会で議題になったこともありません。だから、形成外科だけ研修してきても口周りの診断は出来ません。
口周りの幾何学的な数字的な診断基準には黄金分割比が利用されてきました。いつも診察上理学所見として計測しています。多くのブログにも記載しています。
下に黄金分割比の求め方を図示します。レオナルドダヴィンチの時代から、黄金比は安心する形態的比率であると認められてきました。
黄金分割比は計算上近似値は5:8です。
黄金比は、名刺を初め、様々なカード類の縦横比にも利用されることが多い。テレビディスプレイのアスペクト比には、WUXGA(解像度1920×1200)など、黄金比に近い8:5のものが多い。工学分野では、自動車ではスポーツカーやクロカンや軽トラックのトレッド(輪距)とホイールベース(軸距)の関係が黄金比に近い。身体において、足底から臍(へそ)までの長さと、臍から頭頂までの長さの比が黄金比であれば美しいとされることがある。また、顔面の構成要素である目、鼻、口などの長さや間隔、細かな形態も黄金比に合致すれば美しいと宣伝などで謳われている。
顔面の数字的計測値を検討すると、顔面の縦横比も黄金分割比が美しいが、顔の短いアジア人では滅多に居ない。顔面の縦の比率は上中下に分けて計測されますが、下顔面(鼻翼基部〜頤尖)が長い人が口周りの手術を求めて来院されます。その中で上口唇=鼻翼基部〜交連(上下口唇の合わさる線)と下口唇=交連〜頤尖の比率は5:8の黄金比が好ましいと考えられてきました。その点は白唇部短縮術のデザインの基準になります。更に顔面部品の横の比率は、内眼角間距離=鼻翼幅:口唇幅が5:8の黄金比が好ましいと考えられてきました。口角挙上術の際引き上げる方向と量で口唇幅を調整出来ます。しかもこの手術法では口唇幅を増大しても口裂け型になりません。私はこの点を詳細に留意してデザインしています。
側面像ではE-ラインが重要です。E-ラインと白唇部長は相関します。これまでの症例の60%程度はE-ラインゼロか稀にマイナスですが、長いものは長いか、口が出ていないのにもこっと内反している場合に、短縮を図る希望を頂きました。最近増えた骨切り術の既往歴の或る患者さんの中の多くは、やはりE-ラインプラスを治したかったからですが、結果としてやはり、軟部組織(白唇部や歯牙の前の赤唇部)が余計に多くなったので、私を訪れました。残りの多くはE-ラインプラスでしたし、口が出ていると距離も長くなるのです。多くは白唇部が内反してもこっとしています。その場合やはり短縮の適応になります。本症例は適応症例です。
口周りの手術の症例提示はこの様に元の形態に応じて様々な面に対して考慮しなければなりません。手術は切開(切除)して丁寧に縫合するだけですが、術前のデザインを細かく検討する必要があります。その結果患者さんに悦びを齎すのです。
またこれらの手術は普及して間がないので、術後経過を知る人が少なく、また、非形成外科医(主にチェーン店)が手術した結果経過良好でない症例が散見されます。ですから美容形成外科医歴30年の私の施行した手術後の経過を見せていけば、今後の患者さんにとりおおいに参考になると考えます。本来の標準的な経過を知れば、手術に臨む日程を立て易いからです。本症例患者さんもその次第で手術に臨み、とても参考になったと仰っていました。そして何度も書いて来ましたが、見える部位の美容形成外科手術は、形成外科専門医が行なうべきです。
口唇短縮術(白唇部切除術)と口角挙上術の組み合わせ手術=いつものやつですが、今回は鼻唇溝の創跡の修正手術を併施しました。