まずは一言!。GID(M to F)の患者さんには、必要なことが多い手術です。何故なら、GID患者さんは肉体的な性別と異なる精神的、または社会的性別で生活していますが、男性の肉体は女性と標準的構造が違うからです。口周りの中でも平均的に男性は白唇が長く、赤唇が薄いのは誰もが知っていますよね。だから、GID患者さんには手術適応の患者さんが多いと考えられます。
私は最近「口ばっかりな奴。」と呼ばれています。別にうるさいと言う意味ではありませんが、この分野では第一走者?奏者?となってきました。であれば適応者の多いGID患者さんがちょくちょく訪ねてくるのも当然です。私は5年前までは日本GID研究会にも加入していました。乳房の手術も多数例しました。ましてや、真面目な美容外科医は容貌を治すだけでなく、社会性を持った人間を診るべきだと父に仕込まれました。例えば銀座のホステスに対する美容医療と普通の主婦に対する美容医療は量と質が違うこと等です。だからジェンダーは重要です。男性が女性的な容貌を得る為には両性の差異を理解していなければなりません。誰もにも同じ様な手術を押し付けるチェーン店系の美容整形屋には不可能な”診療技術”です。
本症例はその上に、最近暫時増加中の骨切り手術後の修正も兼ねています。いや、本症例患者さんんは骨切り手術の前に予め口唇の手術を計画していました。さすがです。心と身体を一致させる為の努力を惜しまない人です。そうであれば私も、鋭意努力して患者さんの意図を汲み、手術計画を立てていく意気込みが湧きます。そのような訳で、先ずは診療内容から書き始めます。
症例は49歳、法律上は男性、社会生活上は女性。約1年前にLe-FortⅠ型骨切り術を受けて上顎の対称性を得た。男性特有の両顎突出に対して上顎を後退させた為、口唇の傾斜が平坦になると予想されていた。前医でも予め白唇部短縮の必要性を説明されていた。他院では理解されなくて拒絶され受けられなかった。先ずは診察すると、白唇長22㎜と同年代の女性に比べ長い。顔面縦比が、上顔面70㎜:中顔面63㎜:下顔面65㎜と合計値も多い中で、下顔面が中顔面に比べて長い。上口唇(白唇+赤唇)26㎜:下口唇(赤唇〜頤尖)38㎜と黄金比率より上が長い。上白唇を7㎜切除して比率が合います。顔面部品の横比は内眼角間34㎜:鼻翼幅38㎜:口唇幅44㎜と口唇幅が黄金比率より小さい。
「最近は白唇部を5㎜以上切除していません。創跡に負担が掛かり数ヶ月後には幅が広がるからです。」と説明していて気が付きました。そう言えば、男性では創の癒合が強固だから、拡がらないで済むのでは無いかと。それに数字的には7㎜切除したい。頑張って縫合する気合いを込めて、7㎜切除を受けました。赤唇が薄いので軽度外反を求めて、口輪筋上まで切除し、口輪筋を折り畳んで外反をさせるプランとしました。人中やCupidの弓は術前でも明瞭なので作らなくて良いと考えました。口角は当然相対的に下がるので、挙上術の併施は必要です。口唇幅が無いので45度方向に7×7mmの三角形の切除し、横にも上にも4㎜の移動を意図しました。
早速術前画像とデザイン画像を載せます。
手術後に術前の画像を見せたら、「すごいですねェ~!。」と感嘆していました。
下は術直後と手術翌日の正面像です。
身体は男性ですから、血行が豊富なため、腫脹強いです。「人中が平らになってしまいましたねエ~!。」と嘆いていました。
両側面の術前と術直後を並べます。
側面像で比較すると明らかな短縮化が見られます。もちろん力を入れないと閉じません。
両斜位の術前と術直後も並べます。
術前は誰が見ても長い鼻の下です。男性的です。だからこの手術が効果的なのです。腫脹で外反がオーバーに見られます。数週間かかりそうです。
今回は更に手術後1週間の抜糸後も比較しましょう。
運動制限も、鼻翼の位置もまだ軽快中です。抜糸したばかりで傷跡が赤い線です。
今回は手術後のコメントは見合わせます。患者さんは精神的に女子ですから、形態的にはお悦びいただいていますが、肉体的には男性の要素が有る為に、ダウンタイムが遷延しています。それに7mm切除したし!。次回は素敵な画像をお見せしたいと存じます。お楽しみに!