シリコンプロテーシスによる隆鼻術は定番でした。アジア人は鼻が低く、戦前から数少ない耳鼻科医に手を着けられていました。象牙がよく使われました。私は抜いたことがあります。その後もアクリルや、他種の骨なども使われましたが、逆に人の生体に親和性があるものは中長期に合併症を起こすのです。1960年代半ばにシリコンプロテーシスが使われ始めました。シリコンはケイ素=石ですから、身体に対する物質的な障害は起こしません。逆に身体に癒着しないから動くという問題はあります。また加齢による経年変化で皮膚に負担がかかることがあります。
私の父は遅くとも50年前にはシリコンインプラントによる隆鼻術の名人として、特別な集団(芸能界と銀座のクラブ)のには有名でした。外人顔に近づける中心分野でした。戦後進駐軍のGIにぶら下がるためと高度成長期に女性歌手が美人化を求めた波に乗りました。父は台付きL型という白人の美人女優の本当のアップノーズ(50歳以上の人は知っているはず)を目指す手術をして評判でした。私は、35年前(医学生時代?!)からシリコンプロテーシスを造り(削るだけ)、30年前からシリコンプロテーシスによる隆鼻術を行ってきましたが、10年前からはあまり行いません。
但し上に書いた様に、加齢で鼻尖の皮膚が菲薄化して、鼻尖だけは露出の危険がありました。そこで当時から、鼻尖には入れないI型の方が頻用されました。当然鼻綾(鼻スジ)の延長線上に鼻尖がないペチャ鼻になりますし、経年変化で上に移動して鼻尖まで引き連れて移動してショートノーズを呈することは起き得るのです。
どちらも良し悪しです。L型で鼻栓が危なくなった患者さんを私は何人も救けました。父が遺した患者さんです。ですから、美容医療に於ても年余に渉る経過観察を欠かさないことが重要です。逆に私は、I型で形態的に足りない患者さんには鼻尖への自家軟骨移植で改良してきました。私は約15年前からは、I型プロテーシスと鼻尖への耳介軟骨移植を定式にしています。安全で形態的にも良好な結果を連発しています。
耳介軟骨移植は、形成外科の手技です。完全口唇裂には鼻尖変形を伴い、修正に自家組織を使うことが定式です。軟骨採取も繊細な技を要し、一朝一夕では覚えられません。いつも言いますが、医師は医師になってから研修して技術を身に着けます。美容外科医療は研修の場面を作れませんから、大学病院等で形成外科を研修しないと軟骨移植の手術はできません。しかも、採取に時間を要しますから、チェーン店では不可とされます。
今回は、形成外科出身のまともな美容外科医が、隆鼻術として30年前にI型シリコンプロテーシスを入れた症例ですが、やはり経年変化した患者さんです。修正をしたくてもその医師は残念ながら亡くなっています。私は経験が長いのでその経過も解ります。ですから治してあげたい。
症例は58歳女性。昨秋来院。白唇短縮術の診療から始めたが、アナムネを聴いていくと顔面のいくつかの手術を受けていて、鼻が短いことも気にしていました。30年前に原宿美容外科!でI型プロテーシスを挿入していて、鼻尖が鼻背の延長線より低く、鼻尖が上方にあり鼻が短くなっている。やはりI型プロテーシスのカプセル拘縮で鼻根に移動したためと考えられる。鼻尖にプロテーシスが無いので、加齢に伴う皮膚菲薄化によるプロテーシスの透見や露出は起きていない。
その際昨年は、口周りの手術を先行しました。鼻翼は合間に糸で縮めました。もちろん後戻りは起きていますが、元通りにはなっていません。口周りの手術の経過を3ヶ月診て、いよいよ外鼻の手術をできる時期となりました。実はいきなり、時期が来たので鼻の手術の予約を頂きました。私はカルテを見ながら手術プランを見直して反芻しました。美容外科医の習性として実物を診れば治療法が頭に浮かぶのですが、今回は当日の診察で決めなくてはならない為に、思い出すのに苦労しました。カルテは予め診察しておいて、プランを書いておく為にあります。何ヶ月か前には手術プランを立てましたから、手術前に見直して、患者さんと二人で検討しました。
念入りに診て、鼻尖へ耳介からの自家軟骨移植を2枚重ねで行うことに決定しました。画像でも見せます。まず各方向の術前と術直後から載せます。
正面像の術前とデザイン。上左図で、鼻尖の位置が上方です。上右図の様にオープン法です。軟骨移植は中央に入れるために直視下で手術するべきです。四つの点は予定の置く場所です。
上左図の術直後像では鼻尖の位置が下がっています。上右図はその直後にテープ固定後しました。U(V)字に囲まれた皮下に耳介軟骨がある様に貼れば動かないはずです。
術前の右斜位像と左側面像。上下位置が判ります。鼻綾との前後関係はドロンと緩やかに曲がっています。
術直後は鼻柱が下を向いて、鼻綾から鼻尖が直線的になりました。
近接画像の術前とデザイン。オープン法=ガルウイング(カモメが翼を広げて飛ぶ形)は鼻柱の切開を両側の鼻孔縁へつなげるからこう呼びます。鼻柱の切開線は直線でなく、ゆるいW型にし、曲面への線状拘縮による陥凹を防ぎます。
採取した耳介軟骨。10×13㎜採取し、上左図は二つに分けました。一辺8㎜のダイヤモンド型と5×10㎜の鉾型ですこれを上右図のごとく積み重ねて通し糸で一体化します。
合体した耳介軟骨を横から見た図です。下は鼻柱へ、二枚が重なった厚い部が鼻尖に斜め45度下向きに入ります。耳介軟骨は厚さ平均1㎜ですが、本症例では1.5㎜あり、合わせて3㎜高くなります。上右図が術直後ですが、上上右図の軟骨の分量が見えます。
下面像で術前と術直後。術直後は鼻尖の皮膚が腫れて大きくなります。腫れは必ず軽減していきます。テープで隠れていますが、傷跡は赤い線です。鼻孔縁の切開は見えません。
術前と術直後の画像を比較して、形態的変化が判りましたでしょう?!。
下には術後1週間で抜糸した直後に画像。
正面像では、鼻尖の上下位置が下がっています。抜糸したら、近接画像でも鼻柱の傷跡は目立ちません。テープは外しましたが、見てのとおり軟骨は中央に適切にあります。夜間だけでもテープ固定してもらいます。
なぜか顔面を上に向けて写り、鼻尖と鼻柱の上下位置が判別できませんが、鼻唇角が判別法です。まだ腫れで持ち上がっています。下面像での鼻柱の傷跡は露光不足のため判定不能です。
耳介後部の傷跡は赤いですが、頭との折れ返り線ですから、見えなくなります。
鼻尖軟骨移植術後1ヶ月以上経ちました。都合によるのと、次への相談が加わるためじっくり診察したいからです。
鼻尖の位置が2㎜は下がりました。
側面像や斜位像では鼻唇角が直角に近づいたのが解ります。これが求めた効果です。下面から見て傷跡は見えなくなってきました。
当院では、厚生労働省により施行された省令「医療機関ホームページガイドライン」に遵守しホームページの修正を行っています。
施術のリスク・副作用について・麻酔薬にて、アレルギー反応を起こす場合があります。その場合は適切な処置を行います。・腫れは個人差がありますが、手術直後から少し腫れがあり、翌日がピークで徐々に引いていきます。目立つほどの大きな腫れは1~2週間程度です。・術後のむくみや細かな左右差の改善には、3ヶ月程度かかります。・内出血が起こった場合は完全にひくまでに2週間程度かかることがあります。・感染予防のため、抗生剤を内服していただきます。・抜糸までの間、鼻下を伸ばす表情はお控え下さい。・口唇部の違和感は、2~4週間程度かかります。・手術後2週間は、口を大きく開けることはお控え下さい。・手術直後は、つっぱりを感じることがありますが、2週間程度で改善していきます。・手術当日は、洗顔をお控え下さい。・手術後3日間は、飲酒・激しい運動・サウナ・入浴など、血流が良くなることはお控え下さい。・手術後1週間(抜糸まで)は、鼻孔部位のお化粧はお控え下さい。・ケロイド体質の方は傷跡が残りやすい場合があります。
費用の説明も加えます。鼻尖軟骨移植2枚で35万円+消費税です。ブログ掲載の契約を受けてもらえたら、出演料として20%オフとなります。