2022 . 6 . 21

眼瞼下垂手術切開法は保険診療でもこんなに綺麗にするのが、私のモットーです。さらに翌週、生来の下眼瞼縁の母斑(あざまたは大きなほくろ)切除と植皮術で念願を果たしました!。

保険診療は保険医の登録をした医師だけが行えます。保険診療は厚労省が細分化して決めた診療内容それぞれに点数を設定していて、点数の10割の料金が保険基金から支払われます。通常そのうち3割は患者負担です。ですから、保険診療では、建前上は同じ手術なら同じ行為が行われるはずですが、実際は診療技術には医師の差があり、医師を選ぶのも難しいのが現状です。

何故なら、医療機関は誘因行為としての広告宣伝が規制されていて、決められた範囲でしかできません。近年はインターネット上のホームページやSNSで啓蒙活動が自由に行われてきましたが、 それも嘘や画像の改竄などが横行していたために、2016年に規制する法令が成立しました。一般医療では、医師や病院を評判で選ぶ人が多いようです。

ですが、美容医療の分野では自費診療が主体です。厚労省が「美容を主目的とする手術は請求できない。」と決めています。ところで、何故美容外科クリニックは保険医を登録しない医師が横行しているのかは、いくつかの理由があります。

まず第一に、美容医療では評判が本当の口コミでは広がらないので、広告宣伝に頼るしかないからです。上に書いた様に規制があっても費用をかければ広められます。しかしそれだけの経費費用が必要です。平均的に、チェーン店系では売上の半分を広告宣伝費に費やしています。結果的に、自費請求では、似た手術を保険請求で得る額の2〜3倍の価格設定をします。逆に2倍の売り上げを得なければ元が取れないので、半分の時間で手術しなければならず、経営者から強制されることもあると聴きました。それでは、どんなに上手でも丁寧に手術できる訳ががありません。手術中は、患者さんにとってブラックボックスで、手術内容は知り得ないから罷り通るのです。

次に美容外科に卒後直ぐに就職する医師が多かったからです。2014年から卒後研修が義務化されましたが、卒後の臨床研修を大学病院等で受けなければ、保険医の登録は制度上できないからです。逆に美容外科は自費診療ですから、自由価格に特化させた方が稼げるから、保険医登録していない医師も採用してきました。

美容医療の分野は、美容外科と形成外科と美容皮膚科です。美容皮膚科は美容を目的としている皮膚科(非手術)で新しい科目です。美容外科は美容を主目的として手術する分野ですから、自費診療です。対して形成外科は、身体機能や病気の診療の際に美容的形態も考慮する分野で、保険収載されている手術も多岐に渉ります。通常は卒後に大学病院等で研修して学び、診療行為に携わります。技術と知識と美容的観点(センス)は、美容外科医も形成外科医も同じ方法論を使いますが、目的によって費用請求が違います。

卒後に美容外科だけ診療している医師やクリニックと、形成外科を学びながら美容外科も”学んできた”医師は出自が違いますから、医療としてのレベルも違います。経歴を視れば判ります。○○大学病院形成外科在籍は、研修プログラムをこなして専門医を取得する最低限6年は必要です。また他科からの転向は怪しいです。大手美容外科勤務何年とかの経歴も、そこで医療上だけでなく、ビジネスのノウハウを身に着けて開業した訳ですから、危ないかも知れません。

眼瞼下垂手術は開瞼機能の低下を治す治療ですから、念入りな診察後に、診断基準に基づいて手術する際は、保険診療が摘要されることがほとんどです。私のブログを見れば、ちゃんと診断しているのがお判りでしょう?。埋没法の重瞼術は保険請求はできませんが、前葉性眼瞼下垂症の診断の下に、切開法なら保険請求が可能なことがほとんどです。いつもお薦めしてきた、一重瞼を二重瞼にする際に蒙古襞の拘縮を解除する目頭Z-形成術は自費ですが、機能的手術であるのにも関わらず保険診療を適用しないのは、厚労省が学問的な知識を持たないからで遺憾なことです。

ほくろ(黒子)、あざは母斑です。名前の通り母の造った班ですから、産まれつき母斑細胞がいます。そして細胞だから増殖します。胎児の際に、一つの細胞(卵)から、いろいろな種類の細胞に分化(性質が違う細胞になること⦅遺伝子は同じ⦆)しますが、皮膚表皮細胞とメラニン色素細胞と神経細胞に分化する一歩手前の細胞は同じで、そのまま幼若でいるのが母斑細胞です。ですから、表皮の様な細胞に覆われていて、中で細胞だけが増殖して塊になり、メラニン色素を多く持つのです。生下時からあるのをあざと呼び、黒子は生後から成長します。黒子は生後増えて、平均的には歳の数だけ持つ印象があります。一度できた母斑は縮小しません。もし自然に消えたら報告ものです。

生下時からある母斑は、生後できた黒子と比べて、悪性化の率が高いというデータがあります。黒子では悪性率は10万分の一程度なのに対して、先天性母斑は1万分の一程度と約10倍です。ですから生後に増大する場合、切除を薦めます。ただし、いくつかの点で簡単でないので、治療してくれる病院は少ないです。まず幼児の際は局所麻酔だけの手術が難しく、全身麻酔等を要するし、身体が小さいからその調整が精緻でなければならず、麻酔科専門医が立ち会う必要があります。200庄程度までの中規模病院には、麻酔科医が常勤しているところが少ないです。サイズによりますが、成人後なら局所麻酔で可能なことが多いです。また大きいものは閉鎖が難しく、植皮や皮弁形成術などの形成外科的手技を要します。担当科は皮膚科や外科ではありません。ましてや美容外科を尋ねない事。また今回の症例のように顔面の目立つ部位だと、変形を防がなくてはなりませんから、形態的な容貌を保ちながら先天性疾患を治療できるのは形成外科でしかありえません。

聴くと、本症例の患者さんは幼少時は地方を転地していたそうで、罹り付けの医師も居ないし、大病院の形成外科のない地域で、母斑の診療を受けられなかったそうです。今回は眼瞼下垂手術に続けて1週間後に、母斑切除の手術も施行します。保険診療ですが、ブログ掲載を承諾して下さいました。目頭形成は後日施行する予定ですから、その際も継続してブログ掲載を承諾されていますから、今回から画像掲載をさせて頂きました。

症例は24歳女性。眼瞼下垂症は知り合いから紹介され来院しました。LF,Levator function=挙筋活動距離は10㎜と、先天性後葉性でも眼裂横径が小さいので軽度と判断。フェニレフリンテストは反応しない軽度の先天性後葉性眼瞼下垂症。先天性一重瞼で前葉性下垂が主体。伴って蒙古襞が拘縮して、平行型は不自然と考えられた。眼裂横径26㎜:内眼角間36㎜:角膜中心間62㎜で、一重瞼の標準的な蒙古襞は被さり突っ張るから、典型的に4㎜のZ-形成術の適応です。後でも追加できると説明すると費用を用意して後日にする事にしました。眼瞼形成術だけ先行したいと希望されました。末広型になる最高位で2㎜切除+LT法。重瞼固定。

左下眼瞼の先天性母斑のサイズは、水平方向に15㎜矢状方向は5㎜。かなり増殖して隆起しているだけでなく、瞼縁のGray line (瞼縁のまつ毛の上のツルッとした皮膚と結膜の境界線)を超えて眼瞼結膜まで連続しています。しかも太い毛が生えています。当初は切除し、皮膚眼輪筋を引き上げて皮弁形成術をしようと考えましたが、外反し瞼縁が下がり、Scleral showになる可能性がるので、迷っていた。眼瞼と同時に手術すると、腫脹で開瞼が不明となるのと、生着率が落ちる可能性があるので日程を変えて施行することとした。

眼瞼の画像から並べます。

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母斑は瞼縁を越えて角膜の前にあります。視界に見えるそうです。私が眼瞼下垂で上眼瞼を開いても、母斑を取らないと視界良好にならないでしょう?。

遠近二葉。開瞼時は常時前頭筋が収縮して眉を挙げています。前葉性眼瞼下垂症と後葉生眼瞼下垂症の随伴症状です。MRDは2㎜以下で第一眼位で角膜が隠れそうです。

IMG_0017デザインは、重瞼線を仰臥位で無緊張で5㎜とし、目頭部は蒙古襞の稜線に一致させて末広型です。目頭の直ぐ外側から目尻まで2㎜幅の皮膚、眼輪筋を切除します。

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手術手技:皮膚切除→眼輪筋切除→眼窩隔膜は開かないで眼瞼挙筋腱膜を露出→眼窩隔膜を開いて眼窩脂肪の逸出を見る→バイポーラー電気メスで眼窩脂肪を焼く、揚げると収縮して引っ込む→眼瞼結膜側から眼瞼結膜+ミューラー筋+眼瞼挙筋腱膜を縫縮し、瞼板に縫合固定→その糸を前に出し重瞼固定→目を開いてもらい開瞼良好で重瞼が揃っているのを確認→”皮膚”だけ縫合。

上の術直後の遠近二葉。予定のデザインで正しい手順で手術した結果が画像の通りです。

眼瞼術後1週間で予定通り母斑切除をします。その間手術法について毎日、頭脳内で検討しました。つまり考えて悩みました。形成外科入局時の教授の講義を反芻して考えてみました。そこで、医局の一年後輩の医師が登場したので、一緒に検討してみました。やはり切除縫縮では縦に切ったら眼瞼横径の1/3以上だと縫えないし、横に切ったらアカンベーになりかねない。植皮なら余裕を持って塞げると考えた。「眼瞼の植皮は目立たなくなりますよね。」「生着もし易いし。」と言われ、私「あっそうだ!。」「私の父が下眼瞼シワ取りで取り過ぎて、『あっかんべー』になった患者さん三人を、私が植皮で治したら、みんな大喜びだったよ。」「全員生着したし。」と思い出しました。後輩の医師に「さすが先生は経験が深い。」と言われても、下手こいたのは父だし、褒められたんだかなんだか判らないまま、手術に入ります。

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眼瞼の術後1週間の抜糸後でもあります。上に母斑手術の術前と術直後の画像です。右眼瞼の結膜下血種は術後3日に原因不明で起きたそうで、関係ないそうです。たまにできるそうです。

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まず母斑のサイズを測ります。横径15㎜です。最大縦径は6㎜でした。左耳介後部の折れ返りを挟んで、Donorをデザインします。楕円形に切ったら縫えないので、紡錘形に25×6㎜です。IMG_0209IMG_0201IMG_0202

直ちに縫合します。この経皮部の傷跡は、見えない部位だし消えます。耳介後部からの植皮辺は厚さが同じで風合いも近く、眼瞼の皮膚にマッチします。皮下脂肪は真皮直下まで削ります。

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母斑を皮膚全層で眼輪筋上で切除し、植皮しました。上左図は縫合後で、左右の瞼縁の糸は眼球に刺さると痛いので、切れ端を長く残してテープで皮膚に貼りました。上右図は植皮をカバーしています。植皮術後は、通常はずれない様に、また血種が貯まらない様に、ガーゼの上を糸で結んで圧迫しますが、眼瞼は強く圧迫しないでも生着します。これまで手術した経験から知っています。

昔は上下の眼瞼を糸で結んで、瞬きをさせない様に固定したことも有りますが、瞬き程度なら剥がれないと先輩医に教えてもらってからはしません。でもガーゼとテープでの固定だけは1週間貼りっ放しでいてもらいます。

いよいよ術後1週間で植皮を診ます。何年医者やってても、何歳になっても、形成外科医にとって植皮を開ける時は「生着しているかな?、私が植えたんだから着いている筈だ!。」とドキドキしながら診るものです。

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先ず植皮部を診ましょう。着きました!。でも近接して診ると、凹凸が・・。瞼縁にも載っている。上の植皮直後の画像では、平坦で、瞼縁は不明です。今後の経過次第ですが、邪魔な部分はCO2 LASERで整地していく予定です。実は逆に、植皮は足りないと覆いきれない訳で意味が無く、やり直しを要する可能性さえも生じます。余裕というか余分に貼っ手、跡で削る方が結果が良いのです。熱傷に対する植皮術等では、足りないと死んじゃう訳ですから、今回の様に余裕を持ってはる事が正しい方法論です。

次いで上右図で眼瞼部を診ましょう。重瞼が綺麗に入って、目がパッチリ開いてお悦びです。周囲の人にも誉められたそうです。

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もう少し遠目で見ると、母斑が有るよりもずっとましです。角膜を隠す量は減ったし、実は瞼縁の膨隆部は当初は後日焼く予定でした。植皮術にしたので全摘出来たので、患者さんは満足されています。ちなみに耳介後部の傷跡は抜糸しましたが、糸を抜いた際にザラザラしました。こちらは線に成り、折れ返りの谷線にあるので見えなくなります。

眼瞼下垂手術と母斑切除&植皮術は1週間日程をずらしましたから、画像を戴くの予定もずれていますが、診察は必要なので、来院時は適時画像も頂きます。お楽しみに!

下に眼瞼手術後3週間、母斑切除&植皮術後2週間の画像です。

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眼瞼は二重瞼がくっきりして目もよく開いています。

IMG_0562植皮が平坦化中です。

眼瞼術後1ヶ月。母斑術後3週間です。

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眼瞼はよく開いて、二重瞼も落ち着いてきました。本症例の患者さんは何年か前の患者さんの紹介で私を信頼されていて、術前からにこやかな女性でしたが、術後はきつい印象から明るい印象になり、目元がキラキラしています。

そして、母斑がないと優しい印象です。まだ植皮が膨らんで(Bulky:分厚い、容積が大きい)ますが、画像を見てもわかるようにどんどん縮小しています。3ヶ月診ても平らにならなかったら、炭酸ガスLASERで削ります。確かに左下眼瞼の母斑は目の前に被さり角膜を隠していたので、相手から視線が見えなくて危ない印象でしたから・・。

眼瞼形成術後1ヶ月半、母斑切除&植皮術後1ヶ月+@です。

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なんと、毛が生えてきています。私「まつ毛じゃない?。」と軽口を叩きながらダーもスコープで診ると、残った母斑が増殖しています。慌てて術前の画像を見直すと、全面的に毛が生えています。そりゃあそうだ。母斑を残せばまた毛が伸びます。瞼縁よりも内側の眼瞼結膜側の母斑は残しました。裏側から増殖してきたのです。いつか削ります。

それにしても眼瞼はぱっちり開いてお喜びです。蒙古襞の突っ張りを治す機会を相談してまた来月来院されることになりました。その際CO2LASERで処理を始めましょう。

当院では、一昨年に厚生労働省より改定され施行された「医療機関ホームページガイドライン」を遵守しブログを掲載しています。

医療法を遵守した情報を詳しくお知らせするために、症例写真・ブログに関しましても随時修正を行っていきます。症例写真の条件を一定とし、効果だけでなく、料金・生じうるリスクや副作用も記載していきます。ブログにも表現や補足の説明を付け加えさせていただきます。

施術のリスク・副作用について:・麻酔薬にて、アレルギー反応を起こす場合があります。その場合は適切な処置を行います。・腫れは個人差がありますが、手術直後から少し腫れがあり、翌日がピークで徐々に引いていきます。目立つほどの大きな腫れは1~2週間程度です。・術後のむくみや細かな左右差の改善には、3ヶ月程度かかります。・内出血が起こった場合は完全にひくまでに2週間程度かかることがあります。・感染予防のため、抗生剤を内服していただきます。・手術直後は、つっぱりを感じることがありますが、2週間程度で改善していきます。・目頭の切開部位は、目やにがでる場所ですので、消毒にご来院下さい。・手術当日は、洗顔をお控え下さい。・手術後3日間は、飲酒・激しい運動・サウナ・入浴など、血流が良くなることはお控え下さい。・手術後1週間(抜糸まで)は、切開部位のお化粧はお控え下さい。・ケロイド体質の方は傷跡が残りやすい場合があります。

費用は眼瞼下垂症の診断が得られれば保険診療で3割負担は約5万円(出来高請求です。)。目頭形成術は角膜に掛かる程でないと保険は適用出来ません。自費で28万円+消費税。この症例ではモニターを約束していますから、保険分の価格は据え置きな分、自費分は30%offにする予定です。 母斑切除は皮膚良性腫瘍切除術で、3割負担は数千円ですが、全層植皮術は唯一、併施して同時請求出来ます(通常二つの手術を同日に同部位に施行しても請求できません)。点数は1万点です。