広範囲剥離Jowl Lift手術が流行っています。Jowl とは英語圏の美容外科,Aesthetic Surgery or Cosmetic Surgeryでは、通常使われる一般語です。マリオネットライン,Malionet=口角から斜め下への溝は、外側に垂れ下がってきたJowl が溜まり折れ返るからできる溝です。マリオネットラインの下には口角下制筋から繋がる支持靱帯がありスペースが無いため、下垂してきたJowl fat,脂肪塊がラインの外側に留まるから、膨らんでブルドッグ状顔貌になるのです。
Jowlとは訳すと動物の垂れた顎です。日本ではブルドッグを比喩に使います。顔面を前から見て、理想は逆卵形の輪郭ですが、Jowlに下垂して下顎縁のカーブが波を打ちます。リフト手術で下垂したJowlを引き上げて卵型の輪郭を取り戻したいのですが、意外と効かないのです。なぜなら、リフト手術は耳介前部を切開する(顔の前は切らない)のですが、Jowlは遠く離れていて牽引力が働かないし、間の組織が伸びて後戻りが早いからです。
従来1970年代からSMAS法が喧伝されました。確かに切って縫うだけのリフト手術よりは効果的でした。ですが、Jowlは一度はあがっても年で半分以上の距離が戻ります。測った医師は私の先輩で学会で毎年提示していました。彼は解剖もして、SMASはJowlの深部にないことも証明しました。そして学会で「それはそうです。SMAS法ではJowlは治せません。ブルドッグ顔貌は解消しないのです。」とまで発表しました。
その数年後私と彼は、地方の学会から帰る新幹線で隣席となりました。彼と私は、いつも美容医学の話で持ちきりです。そこで小声で教えてくれました「一番長持ちするのは最近私が発表してきた靭帯方に間違いない!。でも次にはExtended Liftだ。」エエ〜!、私「Extended SMASのこと?。それとも皮下剥離でも?。前方にはSMASは無いって言っていたじゃ無いですか。」そこで彼は「Jowlの前まで広範囲に皮下剥離するんだ。」と言い、「靭帯法が一番なんだけれど危ないし、一本ずつ顔面神経を刺激装置で同定して避けるんだ。面倒で時間がかかる。8時間単位かな?。」と教えてくれました。後日彼の行う手術の費用を聴いてびっくりしました。最低500万円です。1日仕事だそうです。先日彼にとまた話したら、「月に一二礼が限度かな?、僕ももう年だし。」とぼやいていました。私より5歳年上です。頑張っているなと思いました。
私は広範囲剥離Jowl Liftはを5年前から施行してきました。少なくともJowlは直後から見えなくなり、下顎のラインが直線的になります。もちろん腫れますが、後ろ側がです。腫れが引いていくと、下顎縁のカーブが逆卵形を描きます。ただしそれは、生来の骨格次第です。本症例は骨格が綺麗な卵形ですから、結果は見えます。
症例は55歳女性。やや遠方からの来院ですが、何回も美容医療で通って下さっていました。スレッドリフトも受けています。ブログを視たそうで、本年に入って私に罹り、リフト手術を希望しました。聴くと、38歳時には東京の他院でリフト手術を受けたそうで、当然に、年単位で徐々に後戻りしたそうです。診ると、画像で見られる様に、やはりJowlは弛んでいます。ブログに載せた最長3年の広範囲剥離Jowl liftの経過を観て、後戻りが皆無に近いので、「これをお願いします。」と頼まれました。
ただし、局所麻酔下での手術は避けたいそうで、無意識下での手術を希望されます。たとえばブログに載せているだけで(症例のうち半数程度)3年間で20例ありますが、3例以外は局所麻酔です。私「出来ますよ!。」と強弁しましたが、拒否されました。来院されたのは大阪院ですが、「設備と人員的に不可能です。遠方となる東京の銀座院での治療になります。」と申し上げたら、「東京なら行けます。」となりました。
手術は静脈麻酔下に局所麻酔を広範囲に注入して、切開線は前医と同じ線ですが、耳珠部は後側に、耳後部は耳介の折れ返り線からプリーツ予防のために生え際に向けて切開します。垂れ下がったJowlの前まで広範囲に皮下剥離します。
静脈麻酔とは、睡眠薬を微量流し続けて眠らせる方法です。全身麻酔とは違います。全身麻酔は気管内に挿管して呼吸させながら吸入麻酔薬も混ぜて意識を無くすのですが、人工呼吸を要しますから、麻酔科医の人員が必要です。対して静脈麻酔は薬剤の流入量を適時調節する機械をボタン操作するだけなので看護婦さんでも対処できます。現在はすぐ冷める良い薬がありますから、覚醒も早いのです。最初に寝ている間に局所麻酔を注射します。局所麻酔は切開線に1%リドカインを片側で約5CC。剥離腔となる広範囲に片側で0.5%リドカインを40cc注入します。
手術法を説明します。切開は#15knife (メスはドイツ語またはオランダ語)で耳の前後の折れ返り線を切りますから、形成外科医が丁寧に縫合すれば見えなくなります。電気メスで止血後、いよいよ剥離操作に移ります。切開口から剥離腔の一番前までは長い剪刀(ハサミ)を必要とし、力加減も繊細です。皮下脂肪層は真皮下に一層細かい粒が並んで、その深部には倍以上の粒の脂肪が積み重なります。皮膚と真皮下の細かい粒の脂肪層だけを剥離していきます。助手に引いてもらい皮膚面に緊張を保たせながら私が左手で表面から触り、剪刀の刃先を指先で感じながら徐々に進めます。止血は可及的にしてPRPに任せます。下層にあるSMASはPlicationします。その後切除幅を決めていきます。耳垂で25㎜、耳珠の上で19㎜、耳後部は15㎜引き上げました。その間はトリミングします。耳珠部はあまり切除しないで丸みを温存します。真皮縫合を隙間がない様に沢山掛けて、特に耳垂の下端部はSMASにも掛けて伸びない様にします。PRPを剥離腔に片側0.5CC塗りたくって止血作用と癒着作用を求めます。皮膚縫合は連続縫合で結び目の凹みが残らない様にします。
手術直後は宿泊の時刻の関係で、画像を撮れませんでした。従って手術前と手術後1週間を見比べましょう。術後の診療は大阪で受けられます。
正面像の手術前と手術後1週間の画像。まず第一に口角の位置が違います。Jowlはマリオネットライン(口角から斜め下への溝)に外側の膨らみで下顎縁の曲線よりも外側に突です。術直後は腫脹で下顎縁全体が膨らんでいますが、Jowlは直線的になっています。
上二葉は術前と術直後の左側面像。下二葉は右側面像。あまり明瞭でないですが、Jowlの直線化が観て取れます。
下の四葉の斜位像の方が判りやすいでしょう。
術前はJowlのたるみが診られます。術直後では直線化しています。口角の高さも変わっています。
下には術後1週間で1回目の抜糸後。
両側面像と両側斜位像でも腫れは診られますが、Jowlのたるみは診られません。
下には術後2週間で全抜糸後。
両側面と両斜位像でも下顎縁のラインは綺麗なカーブで卵型が再建されています。
切開の傷跡は順に上が右、下が左。
前の傷跡線は赤い線ですが、いずれは白くなります。幅はありません。後の傷跡線は、たっぷり引き上げた分Dog Earがあり得ます。当初の手術中に耳後部の皮膚を切除すると、緊張で治らなくなるので、絶対に切除してはいけません。通常は日時で縮小しますが、残れば傷跡が軟化する術後3ヶ月で切除します。
術後4週間で来院されました。
口角は挙がっていますが、Jowl はまだ腫れています。腫脹軽減が遷延している症例です。
4方向で診ると、たるみは消失しています。
傷痕を近接画像で見ましょう。
右耳前と耳後部は線が赤くても目立たなくなりました。
左耳前の傷痕は目立ちませんが、耳後部にプリーツが残ります。やはりいずれか切除します。傷は増えませんから。
下には術後3ヶ月です。
よく挙がっています。いいこと教えて下さいました。「術前には(引き上げ)テープを貼っていたのですが、その形が再現されました。」と満足感に溢れて仰いました。私「へー!。その様に効果を教えてくださったのは初めてですが、お褒めに預かったということですね?。」と頭を下げます。次いで「まだ100%腫れが取れていませんよね?。」と訊かれ、私慌てて術前の画像を観ます。診ると、ちゃんとJowlは解消していて、効果が診られますが、念のため「まあ半年くらいは変わります。ある程度の後戻りもその期間です。」と言っておきました。
4方向で診ても、Jowl は消失していて後戻りは観られません。
さて傷跡です。
右側は耳前部も耳後部も赤くても幅はゼロに等しく消えます。耳垂は伸びていません。耳珠部は何故か前に来ました。
左側は耳前はさらに幅が無く、耳垂も伸びていないし、耳珠は温存再建されました。でもやはり耳後部のプリーツは残りました。
3ヶ月経たので、触診すると傷跡と、剥離して癒着した皮弁が軟化しています。早速デザインして、剥離して、皮膚を最大約15㎜幅切除して縫合しました。平坦化しました。保険で腫瘤切除術で算定しました。
来週以降抜糸後にも画像を頂けると思います。
当院では、厚生労働省より改定され施行された省令「医療機関ホームページガイドライン」に遵守し、ホームページの修正を行っています。
施術のリスク・副作用について・麻酔薬にて、アレルギー反応を起こす場合があります。その場合は適切な処置を行います。・腫れは個人差がありますが、手術直後から少し腫れがあり、翌日がピークで徐々に引いていきます。目立つほどの大きな腫れは1~2週間程度です。・術後のむくみや細かな左右差の改善には、3ヶ月程度かかります。・内出血が起こった場合は完全にひくまでに2週間程度かかることがあります。・感染予防のため、抗生剤を内服していただきます。・抜糸までの間、鼻下を伸ばす表情はお控え下さい。・口唇部の違和感は、2~4週間程度かかります。・手術後2週間は、口を大きく開けることはお控え下さい。・手術直後は、つっぱりを感じることがありますが、2週間程度で改善していきます。・手術当日は、洗顔をお控え下さい。・手術後3日間は、飲酒・激しい運動・サウナ・入浴など、血流が良くなることはお控え下さい。・手術後1週間(抜糸まで)は、鼻孔部位のお化粧はお控え下さい。・ケロイド体質の方は傷跡が残りやすい場合があります。
費用の説明も加えなければなりません。広範囲剥離中顔面リフトは80万円+消費税です。ブログ掲載の契約を受けてもらえたら、出演料として20%オフとなります。組織糊として利用するPRPは1万円+消費税。静脈麻酔代は5万円+消費税が別途必要です。