口周りの手術としては、白唇部短縮術と口角挙上術が大流行りですが、本症例もこれまでの症例を見て受けたくなり来院されました。この手術は形成外科医が、そして美容外科の素養も備えている美容形成外科医で受けるべきです。非形成外科医は創の縫合法(真皮縫合)がまったく出来ないからなのと、逆に形成外科医は症例ごとのデザインの微妙な違いを術前に良く検討しないと、求める形態を得られないからです。
つまり、形成外科と美容外科の両方に精通していないと難しい手術類なのです。ところが、本症例は定番の手術から入りませんでした。そこから説明します。それには計測と素材の印象を理解しなければなりません。
症例は32歳、女性。顔面縦比は、上顔面(生え際~眉下)62mm:中顔面(眉下~鼻下)65mm:下顔面(鼻下~頤先)65mmと中顔面と下顔面が長い。顔面部品の横比は、内眼角間29mm:鼻翼幅33mm:口唇幅41mmと口唇が鼻の1.5倍欲しいところ小さ目。本題の白唇長(鼻柱基部~弓の底)は16mmと長い。白唇部の外反(反り返り)は軽いが、歯牙が出ているために傾斜が強い。したがって白唇部短縮しても赤唇がこれ以上厚くなりたくない。また口角が口唇中央より下にある。つまり下がっている。そのような形態的特徴があるので、白唇短縮術はしたいが、赤唇をこれ以上厚くしたくはない。その為には赤唇切除術を要する。つまり、白唇短縮術と口角挙上術と赤唇切除術の3手術を行う必要がある。
そこで、患者さんと相談しました。いくらなんでも3時間45分の手術時間では難しい。局所麻酔量も多くなり、極量を超える。患者さんと私は悩みました。二人で手術シーンを頭の中に巡らせてみました。赤唇部が一度は外反するのが嫌とのこと。でも白唇短縮術と赤唇切除術を併施すると間の組織が血行低下を起こし創傷治癒遷延を起こし得ることを説明し、口角挙上術と赤唇切除部なら切開は重ならないことなどを検討した結果。赤唇部切除術と口角挙上術を先行することになりました。新しい試みです。
予定のデザインは、赤唇を4mm切除。口角は6mm頬骨隆起方向に引き上げることになりました。手術当日に確認すると、患者さんは画像を取り出しました。とにかく厚い赤唇は嫌だけれど平板なのは嫌で、上唇結節がぷくっとしていた方が望ましいとの、形態的な修正点が提示されました。そこで私は、鼻翼基部の垂線の間を4mm切除するが、上唇結節部の下方だけ切除幅を2mmに減らすデザインを示しました。さらに唇を閉じている際に傷跡が見えない様に、切開線をドライウェットボーダーより後方に、座位でデザインします。
画像を提示します。各列左が術前、中が術直後で、右が術後1週間で抜糸後です。尚、赤唇切除の傷跡はどの方向でも見えないのを確認して下さい。でも赤唇は腫れます。いつも記してきましたが、術後48時間がピークです。術直後よりも術後1週間の方が赤唇部が厚くなっているのは腫れているからです。正面像を経時的に診ていきましょう。
赤唇が薄くなっているのは判りますし、上唇結節がチョコンとあるのは可愛いです。「キスしたくなる唇にしようよ!」と表現します。口角だけ挙げると、カーブがわざとらしいですね。それは当然です。鼻の下(白唇部)が却って長く見えます。それはそうでしょう。でも上赤唇部の中央の口唇結節が可愛いです。次に側面像の比較です。
横から診ると、上唇結節は一番前にあるので突が強調されて見えますが、術後1週間では丸みよりも突出が自然です。白唇の傾斜が増えて見えるのもこの為です。口角位置は側面像でも挙がったのが見えます。次は斜位像の比較です。
口角の挙上はもちろん見えます。やはり術前はなかった上唇結節が術後は出来て可愛い。傾斜はやはり腫脹です。引くのを待ちましょう。
術前と術後2週間の画像を大きく提示します。各方向、左が術前、右が術後で比較しましょう。
正面像では、口角の挙上がよく判ります。単独でも不自然な挙がりには見えません。赤唇は上口唇結節を除いては薄くなっています。結節も薄くなっていますが切除量に差をつけたので、相対的にはっきりしました。白唇部長は後日へです。
側面像では上口唇結節が下にも突に見られます。白唇部の傾斜はまだ変えていません。
左右斜位像では赤唇部が薄くなって、結節が残り、口角だけが 挙がっているのが認識出来ますよね。その程度が丁度良いのでしょう。特に右斜位での口唇結節がキレイでしかも締まりがある口元になりました。右斜位像では口角の挙がりがよく見え、微笑みを湛えている様に見えます。少なくとも比較すると術前は「へ」の字に見えます。
上口唇は決して富士山を作りたくはないそうですが、赤唇部切除術はその程度に検討を要します。口角挙上術はこの様に良くなるに決まっています。但し、こうして様々な方向から見ると、今回の手術の組み合わせは、ダウンタイムの面からしても正解でした。
本症例はエステティックラインがゼロで横顔から斜めが綺麗です。正面視では口角が挙がって現時点ではわざとらしくも、優しい雰囲気が作れました。ですが、白唇部短縮術の時期が問題です。見た目にはやっぱり早く治したいし、血行が回復しないと創傷治癒が不安だし、運動が回復しないと動的形態が評価出来ないし、とにかく未定です。でも術後2週間でもう70%程度回復しています。そろそろ二次手術時期の検討に入ろうと思います。
上下の合わさる線を口交連線と書きますが、上赤唇縁と同じく弓の様に波型が美しいとされます。上唇結節は中央だけ厚みが残り下に膨らみ、そこだけの突が強調されます。尖がったようでもあるからセクシーでもあります。そうです。本症例の患者さんもお喜びです。
赤唇を切開する際には交連線より後ろを切れば傷跡が見えません。そしてその目安には、組織学的構造の違いから乾湿境界:Dry-Wet borderを利用します。ただし粘膜は柔らかいので腫脹が顕在化しやすく、腫れている間は押し出されて傷も前にでてきてしまいます。結局ダウンタイムは長くなります。術後1週間ではちょっと口を開くと見えました。術後2週間では下から見ても見えなくなりました。
私は最近、白唇部短縮術と口角挙上術を組み合わせて皆さんに喜ばれてきました。赤唇の外反を求める症例と外反を求めない症例があります。それは好みですし、タレント性(特性)とキャラクターに合わせます。ただし全く外反しないのは難しく、それこそブログの過去の症例を見ていただいて判断してもらいます。本症例はエステティックラインゼロが売り物で、唇が少しでも厚くなりたくない希望で、予め赤唇部を薄くしておこうという策を立てたのは「正解!」と思いました。
実は30年以上昔から赤唇部切除術は行なわれていて、私も良く行ないました。創跡が見えないので美容外科的にポピュラーでした。でも適応症例が限られます。それはそうです。日本人では唇が厚い人は少ないからです。だから本症例の様に白唇部切除後に赤唇部を厚くしたくない人には適応手術です。白唇部短縮術は国際的に論文検索しても15年前が初出ですが、私の中ではポピュラーになりました。この手術は形成外科医がしなければ綺麗にできません。かといって形成外科医しか研修していない医師は美容的センスを磨いていませんからデザイン出来ません。私達美容・形成外科専門医の得意分野です。
今回の手術は口角挙上術単独と、白唇短縮術の前段階としての赤唇部の切除を先行しました。口角挙上術の単独症例はこれまでに供覧していますが、赤唇部切除との組み合わせは初めてです。また、赤唇部切除のデザインを工夫して、上唇結節を作り出しました。赤唇部は腫脹が強く、目に見えます。術後1週間の方が術直後よりも腫れています。でも術後2週間ではもう結構引いています。なお、白唇部は外反しているのでは無く、赤唇が膨らんでいるだけです。従ってもう少し経過観察を要します。