本症例はいくつかの手術を受けていて、やはり最終兵器の一つとして口周りの愛らしさを求めた患者さんです。
症例は27歳、女性。上下骨切り術を受けて硬組織が短縮後退させたら、軟部組織が余ったと感じた。鼻柱基部~cupid’s bowの底までの長さ17mm。外反も少ない。内眼角間39mm、鼻翼幅36mm、口唇幅45mmと比率的に口が小さい。
いろいろ評価してもやるしかない訳ですが、デザインの微調整に反映されます。切除は白唇部(鼻翼基部~鼻柱基部)を切除5mm。裏返りを求めて皮下脂肪中間層まで切除。口角は45度斜めに5×5mmの三角を切除して、5/√2≒3.5mm上と横に引くデザインを提案した。術直前に相談して40度方向とし、上に挙げることを優先しました。
今回は各方向で術前、術直後、術後1週間、術後2週間、術後4週間を比較してみます。
上図は正面像の術前、術直後。
上図は術後1週間、術後2週間
斜位像は左から術前、術直後、術後1週間、術後2週間
側面像も左から術前、術直後、術後1週間、術後2週間。
上四葉は術後3ヶ月の図。立体的に見ると何と可愛い口周りでしょう。
術後1週間では、本症例の患者さんは創傷治癒が順調で、傷が画像上よく判らない?と思います。実は軟膏でカバーしています。比較的腫脹の軽減も早いので、見た目に判らないそうです。術後2週間に糸が顔を出して私が引っ張ってしまい、撮影時に血が着いてしまいました。直ぐ止まりました。術後4週間でも同じことをしました。真皮縫合の吸収糸は3か月後には無くなるので露出していても無理に引っ張らない方がいいのかも知れませんが、患者さんにとっては触ると邪魔です。ただし創跡の線の幅は術直後から広がっていません。術後3ヶ月では創跡の線が赤からピンクに変わりました。メイクすれば見えないそうです。
今回また、真皮縫合について説明します。皮膚は表面から角質層、表皮細胞層、真皮層、皮下脂肪層と層を成しています。縫合する際に、角質層は垢ですから癒合しません。表皮層は細胞層が分裂増殖して数日で合わさります。表皮層は厚さ0.2㎜前後と薄いので、創を閉じるだけで創を寄せる作用はありません。創を寄せる力は真皮層のコラーゲンに頼ります。コラーゲンが創の隙間を埋めるまで、数週間かかります。この間に折角着いた表皮層は緊張に負けて引き伸されます。そうすると創跡のツルッとした表皮層に幅が出来てしまいます。そうならない様にする為には、真皮層を寄せておくことです。真皮層をしっかり寄せて真皮縫合を終えた時点で隙間をなくしておけば、数週間経っても広がってきません。真皮層のコラーゲンが強くなる3か月間支えます。現在は約3か月で吸収される糸を使っていますから、邪魔じゃなくなります。ただし本症例では数週間の内に糸の一部が露出してしまいました。こうなると創跡が広がらないか慎重に診ていかないとなりません。宜しくお願いします。
真皮縫合は形成外科医の独壇場です。何故なら、しっかりとしかも平らに寄せるには細かい技を要しますから、その修練には数年要します。そればかり練習していないと身に着けられない技術です。私も6年次にはまだ自信がありませんでした。真皮縫合の優位性を自負出来たのは10年次頃でした。形成外科の医局では桃栗3年柿8年をもじって、糸切り3年真皮縫合8年と唱えてきました。実は他科の医師の中には真皮縫合という言葉さえ知らない者が多くいます。しかも近年奴等が真皮縫合を教えてくれれば、切開手術を出来る等とふざけたことをと言ってきます。8年早いぜ!と言い返しました。実はそんな輩が美容整形屋チェーン店に多く参入しています。これじゃあちゃんと真皮縫合が出来ない美容整形屋が横行する訳です。
ところで最近口唇部の手術を求める患者さんが引っ切りなしです。このブログの御陰です。皆さん研究されていて、手術のデザインや経過に付いて質問されます。また、非形成外科医のチェーン店系の美容外科医クリニックで受けた患者さんが、デザインと縫合の不備を自撮りして画像を載せている様です。創跡が広がって後戻りしたとの主張が載っています。だから、一緒にしないで下さい。その結果の情勢として、さすがに非形成外科チェーン店は口唇短縮術を積極的に奨めなくなってきた様です。出来ない者はするべきでないので、良いことです。その分私が引き受けますから、非形成外科医はどうぞお引き取りください。