標題に書いた様に込み入った症例です。先天性疾患があり、その付随症状として上口唇が長く、下顎の後退もありE-ラインがプラス。口蓋裂の治療に付随しての構音障害はリハビリを継続しているため、口輪筋を訓練しているから厚みがあり上口唇が内反している。これまで診てきた症例と比べていろいろな点を留意しなければならないということです。知識を駆使する為に頭脳を駆使しなければならなくて難しいけれど、それぞれ解き明かしてみれば結果が予想出来て面白いのです。
口周りは白唇と赤唇の口唇。上下の鼻翼、頤。後ろには歯牙と歯槽と口腔内。それを作るのは骨格と口蓋、舌の関係性も考慮しなければなりません。実は口周りといえば、先天性疾患の知識も必要です。口唇裂と口蓋裂が主ですが、上下顎の疾患もあります。ここは形成外科医のステージです。チェーン店系の非形成外科医の出番はありません。
口周りの手術に於いて第一人者の一人となった最近では、予め骨切り術前後の変化を考慮しての治療計画を立てる症例が散見されます。敢えて言えば、骨切り術前後には口周りの手術の適応どころか必要性が高いのは当然です。近医の骨切り術を得意とする形成外科医との患者さんを介してのコミュニケーションは確立してきました。韓国には骨切り専門医が存在して、皆さんそこでしてから私にかかるのですが、だいたいの数字を提示されているからやり易い。
先日は成人後の口唇裂,Cleft lip:C.P.患者さんに数次的治療の仕上げとしての片側の白唇部切除術をしました。これは使えます。でも口蓋裂,Cleft palate:C.P.患者さんに対する白唇部短縮術と口角挙上術は初めてです。それはそうです。この手術法が普及したのはまだ数年前ですから。でもここに記したのを見てこれから増えて来たらどうする?。
少なくとも、非形成外科医には行かない方がいいし、彼等にはC.L.とかC.P.と言っても理解出来ません。かといって形成外科医で口周りの手術の経験が豊富な者は、私の知る限りでは数人(皆仲良しのJSAPSでの知り合いです。)しかしません。こうなれば深みに嵌って行きましょう。
今回先天性疾患に対して手術を施行した一例を提示します。本年4月に来院。生下時にピエールロバン症候群,Pierre-Robin syndrome(Sequence?)の診断を受け、S大学形成外科のOn.教授の手術を受けた。この説明は下に追加します。C.P.ST治療中で矯正済み。上顔面60㎜:中顔面58㎜:下顔面61㎜でバランスは取れている丸顔。下顔面の内訳は上口唇(白+赤)26㎜:下口唇(赤〜頤尖)38㎜で黄金分割比の5:8に合わせると、上口唇が4mm長い。白唇長(鼻柱基部〜赤唇縁の中央)は20mmで15㎜目標ならmm短縮可能。ただし口蓋裂の影響で開鼻声があり、閉口不全は構音障害を遷延させる可能性があるため切除4mmを示唆しました。顔面部品横比は内眼角間34㎜:鼻翼幅35㎜:口唇幅42㎜と54mmにしたいが、閉じ難くなるとやはり構音障害を呈する可能性があるので、口角挙上術は頬骨隆起方向に5×8mmを予定しました。6月に再来し、手術計画を確認しました。やはり白唇部を4mm切除、口輪筋を折り畳んで外反させ、口角は頬骨隆起方向に5×8mmの三角形を切除して引き上げるデザインとしました。
画像を見ましょう。
上左図の正面像での術前では、下顎の後退と短縮性が見られます。口輪筋の厚みによる上白唇部のない反が見られます。人中と赤唇縁の弓の形は明瞭です。上中は白唇部切除縫合後に口角挙上術をデザイン通りに切開した際に撮りました。珍しい写真です。この後三角形の皮膚皮下脂肪を白唇部の口輪筋を残して切除し、口角を横V字に切って赤唇部を深部の口輪筋と一緒に、三角形の頂点に向かって引き上げながら縫合していきます。すると上右図の如く、見事に仕上がります。人中は深くしていませんが短くなったので溝から窪みに変わって強調されます。赤唇縁の弓の形は急峻になりますが、今回は寄せてませんから、両側のCupid’s bowの頂点の間隔は変わっていません。
術前の4方向の画像を見ると明らかに標準より白唇が長いと見られます。側面像でE-ラインがプラスです。症候群の下顎後退の為ですが、上を短くすると・・、下の術直後の4方向を見ましょう。
側面像でE-ラインが改善される訳ではありませんが、上下の比率が変わり、適切なバランスになりました。もちろん術直後には腫脹で上下の口唇とも前に突出するのでE-ラインはすっきりして見えません。絶対に腫脹の軽減により変遷します。
今回は術前と術直後の画像提示だけです。それよりなにより患者さんの形態的評価を載せました。でもピエール・ロバンについて大学病院の医局時代に患者さんを見た事が有るくらいで、治療した経験症例はありません。そこで復習の意味で成書の概説を調べ直しました。下にコピペします。
ここで、本年6月からは術後経過の画像と説明を1シリーズのブログに足して行って更新することにしました。下記の説明を、経過ごとに書き加えても読むのが面倒なだけだからです。
そして手術後1週間で抜糸となりました。
近接像も載せます。鼻の下の創跡は抜糸時に引っ掻いたのでまだ赤く点々が見えますが、Nostril sill;鼻孔底の膨らみの麓の折れ返りに谷線があるので、白くなれば見えなくなります。口角の創跡は赤唇縁にあるので、もう目立たないです。
両側面と両斜位の4方向は手術の意味を理解させます。まだ腫脹があるので判断は保留します。
そして手術後2週間です。
正面像は拡大像も並べます。実は薄紅を引いています。すると、口角の創跡は判り難いです。白唇部(鼻の下)の傷跡はメイクしなければ隠せません。
上の4方向画像では創跡が判り難いです。形態的には良好です。一言で言えばもたつきがなくなりました。そして口角が挙がったら、表情が明るくなります。構音障害があり、ST,speach therapyを受けて来ましたから、口輪筋を鍛えて来ましたから、口を強く閉じる際にはどうしても口角が下がり勝ちです。下顎(頤)後退および短縮に対しても下口唇を閉じる際に口角が下がる表情も見られました。術後の静止画像では、口角挙上術の結果下がって写っていません。手術の効果はこの静止画像で見れば落ち着いた表情が見られ、更に人格を変えて魅せています。動的には診察時にじっくり診ていますが、術後の表情は明るく、笑顔も美しいです。契約上目元を提示できないのですが、目元はキリッとして綺麗です。合わせて美人の要素が見られます。相対していると素敵な人です。
そして下の画像は術後1か月です。今回はとりあえずメイクでカムフラージュした画を二葉。
コンシーラー的なファンデーションで、両鼻翼間の傷跡は隠せます。術後3〜6週間頃は、創跡の谷線が深い時期なので、コンシーラーが詰って凸凹感が見えます。口角は薄紅とファンデーションで赤唇と白唇を塗り分ければ創跡も見えません。
何故かフォーカスがイマイチですが、創跡の赤い線は見えます。近接画像では谷線なだけでなく、凹凸が見えます。真皮縫合糸を最低(数えていない)18針架けていますが、その点が凹んでいるのでしょう。術後3ヶ月で真皮縫合が吸収されれば一本線になります。もちろん真皮縫合が重要で、創跡の幅が永久に拡がらない目的を達したいと念じて、心を込めて縫い上げました。
ところで口角の創跡は口紅を拭っても目立ちません。術後1か月でこの程度なら早い方です。やはり、本症例の患者さんは精神的に安定していて腫脹の軽快も表情筋の回復も、術後1か月で解消した様で、創跡の安定も同様のメカニズムで早いのでしょう。
ところで上の画像では笑顔が優しく、乙女チックですね?!。唇を閉じる口輪筋が回復し、上下の力の入れ方のバランスも身に付いたのでしょう。術後1か月では、標準的には力を入れないでも無意識に(トーヌスが回復して)閉じています。
ただしこれまでの日常生活で口の閉め方に個人差があります。姿勢よく(胸を張って、頤を引いて)表情筋に力を入れてキリッとした言動で過ごして来た人は、口輪筋は自動的に働きます。だからトーヌスの回復も早く、自然体なのでしょう。本症例の患者さんは職業上社会的に毅然とした人ですから、出来ているのだと思います。もう一つ、病態から定期的にST,Speach Therapistの指導を受けています。STは構音の指導が主ですが、頤を出していたら開鼻声を呈してしまします。多分その部分も指導を受けていることでしょう。もちろん随意的にトレーニングして、口輪筋の使い方にも意識が廻っているのだと思います。
そう考えてみたら、診察室からの退出時に姿勢が良く態度が滑らかでした。しかも嬉しそうに笑顔を湛えていました。上に書いた様に難しい症例だと思っていたのですが、症例患者さんの内面と外面の司り方が巧いので、結果が得られたのだと思います。
下は両側面と両斜位の4方向です。
側面像では、もちろんE-ラインがプラスですが、全く口元が下品ではありません。少なくとも白唇が長い術前より品があります。下顔面のうちの上下の比率が黄金分割比の5:8に整ったからでしょう。充分に目的を達しています。斜位像では、口角の締まりと挙がりが可愛いし、楚々と魅せます。こんな表情で接したら周りの誰もが安らぐから、普遍的に社会的に向上したのは間違いないと思います。
次回3か月で完成を見たいと思いますが、人格(外面性と内面性)への影響を尋ねてみたいと思います。本症例の患者さんは理解力が高いので、いくつかの認識を教えたくれることと思います。その時、これこそが美容外科医冥利というものです。
ピエールロバン症候群は遺伝性(常染色体劣性)ですが、ピエールロバン連鎖と言って非遺伝性に力学的な胎内成長障害が原因となる場合も有ります。 ピエール・ロバン症候群とは新生児において希に起こる先天性かつ複合的な疾患で、主な症状として小下顎症(micrognathia または下顎後退症(retrognathia)) 、舌根沈下(glossoptosis)、気道閉塞(狭窄)が揃って見られます。その結果として呼吸困難が出生時から最大の問題となります。その他の、付随的な症状としては軟口蓋裂(cleft soft palate)、近視、緑内症、摂食障害(dysphagia)、チアノーゼ(cyanosis)、不眠症、心房(心室)中隔欠損症、心臓肥大(cor pulmonale)、肺動脈高血圧症(pulmonary hypertension)、動脈管開存症、脳障害、言語障害、運動機能障害などを伴うこともあります。世界で最初にこの障害について最初に詳細に報告したピエール・ロバン氏の名を取ってピエール・ロバン症候群とよばれます。 発生率は3000人に一人とも3万人に一人と言われていますが、ピエール・ロバンと診断されず、ただの小顎症と診断されるケースも多い様です。発生の多少に性別は関係ありません。 出生時がこの障害の最も危険な局面であり、そこで適切な処置を施され、幼児期にも適切な指導を受けられれば、予後は比較的良好で、学齢に達してからは普通の子供と何ら変わりのない成長を遂げるケースが多い様です。 乳児期には下顎やオトガイが極端に後退していて、横から見ると鳥の様な顔つき(鳥貌様顔貌)に見えますが、多くの場合発育と伴に下顎が上顎に追いつく様な発達(Catch-up growth)が見られ、顔貌も大きく改善することが報告されています。 ピエール・ロバンの発生原因については正確には解っていませんが、遺伝性のものと、母体内での胎児の体位によるものと、薬物(drug)の影響によるものとが考えられています。 遺伝的でないピエール・ロバンはピエール・ロバン連鎖、英語ではPierre Robin Sequenceと呼ばれます。その他Pierre Robin Anomalad やPierre Robin Complexと呼ばれることもあります。これは一つの奇形が他の奇形を連鎖的に誘発しているという考え方です。ピエール・ロバン事例の70から90%に起こる口蓋裂などはピエール・ロバンの連鎖として起こると考えます。ピエール・ロバン連鎖は主に母体内が窮屈であったりした場合、胎児が頭を過度に内側に抱え込み、顎の部分が胸に押されて発達が押さえられ、小顎になり、さらにそれによって舌が上に巻き込まれる様に伸びて上顎に挿入され、口蓋が閉じるのを妨げるために口蓋裂が起こり、舌根が咽頭部に沈下して気道狭窄が起こると考えられます。 また、最近の研究では顎の発達が始まる妊娠4週目前後の時期に母親が服用した薬物(drug)の影響でピエール・ロバンが起こるという可能性も報告されているようです。
上に書いた様な症状ですから、口周りの手術治療は適応しますが、本症例は上に書いた様にいくつかの面で留意すべきことがあります。特に術後経過が遷延する可能性が高いのです。また形態的に正常でない状態を、全く標準化するというのは難しいことです。その上機能的には構音障害に対する治療をしても運動障害が治るのではありませんから、ダイナミックな形態の改善は予想がつきません。本症例の患者さんは対人的な仕事をしているれっきとした社会人ですから、機能的改善が遷延するは困らないか心配です。
まだ術直後と術後1週間の記載だけなので経過についてはこれから逐次書き足して行きます。早く「形態的に見事に良くなったね!」と告げたいと思っています。
そして、術後2週間を経て診たら、何と素敵な印象に変わっています。形態的に、機能的に回復の遷延は診られません。ですから、その後の評価は術後4週間に、患者さん本人に聴取してみたいと思います。お楽しみに!
実は、一回目の記載にPierre Robin Complexの説明を書いたら患者さんも読まれて、産まれて初めて詳しく家族と話し合ったそうです。Pierre Robin Complexは、原因の特定が難しいのですが、上の説明を見て、どうも胎児性と判ったそうです。患者さんが親を責めることはないにしても、むしろ余計な細かいこと教えなくても良かったかな?。と私は切なくなり、悩んでしまいました。
ですから、大事なのは手術の結果です。これまでも一人ひとりの患者さんに対して、細かく評価して診療をして来ましたが、本症例は特に、術前と術後の経過が不確定です。形態の変化と機能的な経過が通常ではないでしょう。でも、患者さんは喜んでいます。まだ評価の時期では無いので次週以降をお楽しみに!
当院は、2018年6月に厚生労働省より改定され施行された省令「医療機関ホームページガイドライン」に遵守しホームページの修正を行っています。
施術のリスク・副作用について・麻酔薬にて、アレルギー反応を起こす場合があります。その場合は適切な処置を行います。・腫れは個人差がありますが、手術直後から少し腫れがあり、翌日がピークで徐々に引いていきます。目立つほどの大きな腫れは1~2週間程度です。・術後のむくみや細かな左右差の改善には、3ヶ月程度かかります。・内出血が起こった場合は完全にひくまでに2週間程度かかることがあります。・感染予防のため、抗生剤を内服していただきます。・抜糸までの間、鼻下を伸ばす表情はお控え下さい。・口唇部の違和感は、2~4週間程度かかります。・手術後2週間は、口を大きく開けることはお控え下さい。・手術直後は、つっぱりを感じることがありますが、2週間程度で改善していきます。・手術当日は、洗顔をお控え下さい。・手術後3日間は、飲酒・激しい運動・サウナ・入浴など、血流が良くなることはお控え下さい。・手術後1週間(抜糸まで)は、鼻孔部位のお化粧はお控え下さい。・ケロイド体質の方は傷跡が残りやすい場合があります。
6月から費用の説明も加えなければなりません。上口唇短縮術は28万円+消費税。口角挙上術は25万円 +消費税。ブログ掲載の契約を受けてもらえたら、出演料として20%オフとなります。
上記の各術式に対する定式の説明は、厚労省の指導に従っていますが、患者さんを物としてと見ている様です。患者さんの病態は皆違います。敢えて診断してカテゴリー分けして、治療法を決めるのです。特に形態的な病像は、ミリ単位での差が治療法に影響します。本症例の患者さんは、先天性疾患ですから、標準からかなり離れていますが、でも少しでもよくしたいから治療に到ったのです。そうです。患者さんの気持ちを考え人として診ていって、治療が功を奏するのです。本症例の患者さんは、先天性疾患に負けずにより善く生きる為に、頑張って治療を受けてきました。私も携わることで勇気を得ました。有り難うございます。